ラン国への侵入経路計画 ぶつかる想い?
カルヴァンの結婚を阻止すべくアランは結婚式が行われるラン国に向かって足を向けるが、それをパージは止める。アランの動きを止めたパージは確実に早くラン国に向かうことができるある提案をもちかける。だがそれは…
「急いでラン国へ行こう!」
勢いよく駆け走ろうとするアランにパージは落ち着いた様子でアランの足を止める。
「嬢ちゃん待った!?」
「パージさん!? 止めないで!」
「どうやってラン国へ行くつもりだ?」
「どうやってって…ホージェンから船に乗って―――」
「そのホージェンまでどうやっていくつもりだ? 人の足だと三日、馬車を使っても二日はかかるぞ」
「それでも止まってるよりマシよ!」
パージの問答に苛立ちを感じたアランは走ろうとするところで今度はアランの腕を掴んで止める。
「待つんだ嬢ちゃん!」
「離して!?」
「普通にいくよりもっと早くラン国に入国する方法がある」
「え!?」
パージの言葉にアランは驚き足を止めるがゴスは不安げにパージに声をかける。
「兄貴…もしかしてガレットの旦那に?」
「あぁ。あいつに頼んで入国の手伝いをしてもらう」
「アランさんはいいとして俺達はどうするんですか? 俺達がついていくと言ったら怪しまれますぜ!」
「俺に任せとけ、ゴス」
二人の話しがまとまると、続けてアランがゴスと話してた内容を尋ねる。
「どうやって行くつもり?」
パージが考えついた案を打ち明けようか迷っていると、アランがパージに詰め寄って問い詰める。
「教えてパージさん! ラン国にいけるならなんだってするわ!」
「嬢ちゃん…」
真剣な瞳で問い詰めるアランを見てパージは決心する。
「…嬢ちゃん。これから話すことは他言無用でお願いします」
「わかったわ。それでどうするの?」
「嬢ちゃんには…奴隷となってもらいます」
「ど…奴隷!?」
突然のことにアランは大声になる。
「嬢ちゃん、声がでかい!」
「あっ、ごめん」
気を取り直してパージは説明を続ける。
「嬢ちゃんは奴隷になって奴隷商船で入国してもらいます」
「奴隷…商船」
「昔世話になった奴隷狩りのガレットという人の口利きでラン国まで運んでもらえるように頼み込む。無事ラン国まで行けたらあとは俺達がなんとか嬢ちゃんを迎えにいきます」
「…うん」
今から奴隷となるアランは緊張して唾を飲み込む。
パージがラン国までの侵入経路を話すとゴスが心配そうにアランに話す。
「ガレットの旦那には注意してくださいよ。ガレットは奴隷を商品としか見ていませんから、取引が終わるまで調教し続けるって話しを聞きましたよ」
「調教し続ける…それって反抗させないってことだよね?」
「反抗じゃなくて植え付けですよ」
ゴスがそこまで話すとパージが冷たくガレットのことを話す。
「主人に絶対の服従させるために奴隷に植え付けるって意味だよ、嬢ちゃん」
「…」
アランは恐ろしくなって無言になる。やっぱりアランには無理かと思い、パージは再度尋ねる。
「断るなら今ですよ嬢ちゃん。これ以外の方法だと結婚式までには確実に間に合わないと思います」
「!? …どういうこと?」
「今はラン国とミジバルク国にしか情報がきてませんが、このままホージェンまで行けば結婚を祝福しようと世界中の人がラン国に向かう。例えホージェンに辿りついてもすぐにラン国行きの船に乗るのはまず無理だと思うぜ」
「そ…そんな!?」
「けど奴隷としてラン国に向かえば確実に入国できるし早い。リスクは大きいがアランがうまく奴隷になりきれば間違いなくラン国に入れる」
パージはアランの身を心配して話す。だけどアランは一瞬迷ったがすぐに答えをだす。
「いいわ! 今の話しだとそれが一番早くて確実だしね」
「だけどゴスも言ったようにガレットは取引が終わるまで嬢ちゃんを調教をするぞ。奴の調教は拷問よりきついらしいぞ」
「…頑張るわ」
決意したアランを見てパージは次の行動を話しだす。
「よし、話しが決まったら一旦メチカルに寄ってくれ」
「メチカル? ラン国の方角と違うけど?」
「ガレットはメチカルの街から少し離れたところの小屋を根城にしてる。目印代わりにメチカルまで行って欲しい」
「わかったわ! 早くメチカルまで行こう」
行き先を変更してメチカルに向かうことにすると、
「話しは聞いたわアラン!」
街の出入り口である門から一人の女性がゆっくりと近づいてきた。
「誰だ!?」
パージが腰に差した剣を構えると、女性は高笑いしながらパージを蔑んだ。
「あははは! 主の声を忘れたの?」
「主だと!?」
「…!?」
女性の声を聞いたアランは驚いてその女性の名前を口にだす。
「ペルチ? ペルチなの!?」
暗闇からその女性の姿を現すと、
「やっほー! アラン」
ペルチはアランに言い当てられて嬉しいのか顔の近くでピースをする。
「なんでペルチがここに?」
「優秀な人材がいつまでたっても帰ってこないから迎えにきたの」
「そうなん―――」
「おい! いつ俺がお前の主になったんだ!?」
再会を喜んでペルチに向かうアランの横をパージは凄まじい勢いで走りペルチの胸ぐらを掴む。だけどペルチはにこやかな表情をかえずにパージの問いに応える。
「U&P傭兵所の店主に向かってなんていう態度かしら?」
「て…店主だと!?」
ペルチを掴みあげるパージの腕をいとも簡単に捻じ曲げ後ろ手に拘束する。
「痛てて!」
「優秀なのは認めるけど、もう少し相手の力量の差を考えることね」
「兄貴!」
「向かってくる相手にはいつも容赦ないわね、ペルチ」
呆れるアランをよそにペルチはパージをアランに向かって蹴飛ばして話しを続ける。
「『手を抜くのは相手に悪い』ていつもお父様に言われてますもの」
「このぉー!」
馬鹿にされたパージは怒ってペルチに再戦しようとするところをゴスとアランは慌ててパージを止める。
「待ってください兄貴!」
「パージさん! 落ち着いてください」
「ここまでこけにされて黙って見てられるか!」
「気持ちはわかるけど、ペルチには勝てないわよ!」
「嬢ちゃんも俺を―――」
「パージさん! 落ち着いて考えてみて。屈強な男たちがどうしてペルチの言葉に逆らわないかを」
「あいつは元看護師だからじゃねぇのか!?」
「それもあるけど、ペルチは大の大人が束になっても簡単にやっつけちゃうくらいの力があるのよ」
「なに!?」
ペルチの実力を聞いてパージは落ち着きを取り戻しペルチを見定める。だが華奢なペルチの身体を見てもパージはその実力を図ることができなかった。
「あの女のどこに…」
「パージさんが強いってことはわかってるわ。でも力があるパージさんを簡単にねじ伏せたでしょ?」
「それを言われると…」
アランの説得に渋々納得するとペルチはアランに近づきながら話しを続ける。
「話しは聞いたわアラン。メチカルまでのプリジィちゃんを貸してあげるわ」
「ホント!?」
「但し条件があるわ」
条件を突きつけようとするペルチにまたもアランは呆れながら鞄にしまっていた財布をとりだす。
「お金でしょ」
「さっすがアラン、話しがわかって嬉しいわ。でも条件はお金じゃないわ」
「え?」
ペルチはにやりと不敵な笑みを浮かべるとパージに視線を向ける。
「私と戦いなさいパージ!」
「な!?」
「事情はわかってるわ。王子様の結婚式を止めるためにラン国に向かうことも、アランに協力するあなたの気持ちも。だけど…」
「だけどなんだ?」
「私の大切なお友達を危険な場所へ連れてくあなたを許せませんわ!」
ペルチはパージに向かって突進すると鮮やかな回し蹴りを繰りだした。
「わっ!」
パージは間一髪避けるとペルチは話しを続けた。
「私に勝てたらアランの同行を許可するわ! 負けたら一生私の下働きとして働いてもらう」
「ペルチ!?」
いきなりのことにアランはペルチを止めようとするが、
「上等だ!」
パージはペルチの宣戦布告を受けて挑みだす。
「兄貴!」
「最初からこの女は気に入らなかったからな。一発殴らないと気が済まねぇ!」
「私もあなたのような野蛮な人がアランの傍にいると虫唾が走りますわ」
二人は互いに嫌悪しながら対峙する。
「女だからって手加減しねぇぞ」
「女だから手加減するのは相手に対して失礼ですわ。本気でかかってらっしゃい」
「その減らず口をたたけないようにしてやる!」
パージは勢いよく突っ込んでペルチに向かって拳をつく。ペルチはパージの拳を避けると不機嫌な表情になってパージに怒鳴りつける。
「あなた! 剣を使いなさい!」
「剣を使うか使わないかは俺の勝手だ!」
パージは続けざまに拳を繰りだすが、ペルチは紙一重で避け続ける。拳を避け続ける度にペルチは怒りが増し、堪らずパージの拳を掴む。
「剣を使えって―――」
動きを止めたパージに向かって先ほどの蹴りを繰りだすと、
「その瞬間を待ってたぜ!」
パージはもう片方の腕でペルチの足を掴み反対に投げ飛ばした。
「あぁ!?」
「これで止めだ!」
勢いよく地面を蹴ってペルチに向かって拳をつく。
「させませんわ!」
ペルチは片足でパージの拳を弾くと、もう片方の足をかかと落としの要領で叩きつける。
「ぐはっ!」
脳天に直撃したパージはそのまま地面に叩きつけられた。
「痛てぇ〜」
「あなたの考えなどお見通しですわ」
頭を抱えながらもパージは立ち上がり態勢を整える。
「本気で向かわせるようにこちらから出ますわ―――」
剣を使わないパージを見て苛立ちを感じたペルチはスカートの中に手をいれだすが、ある物がないことに気づき始める。
「…あれ? ない!」
「お探しの物はこれか?」
パージはペルチに鞭をみせると、顔を真っ赤にして声をあげる。
「私の鞭ー! いつのまに!?」
「本気でかかってこいって言ったのはそっちだぜ」
パージは鞭を放り投げると鞘から剣を抜き構えだす。
「いつのまにペルチの武器を?」
「兄貴いいな〜」
アランは不思議に思うとゴスは羨ましそうにパージを見つめた。アランはパージがなにをしたのかゴスに尋ねると、
「パージさんはなにをしたの?」
「あの女に叩き落とされる瞬間にスカートの中に手をいれて鞭を盗ったんだよ」
「す…スカートの中に!?」
アランは顔を真っ赤にして応援した。
「ペルチー! そんな変態さっさとやっつけちゃって!」
「わかってますわアラン」
「俺がどうなってもいいのかよ!?」
「えぇ」
アランとペルチは冷たい視線をパージに向けて威圧する。
「本気でかかってこいっていったのはそっちだぞ!」
「だからって、す…スカートの中に手を入れるなんて破廉恥! スケベ! 変態!」
「うっ…。だがこれでお前の武器はなくなった。ここからは柄ものを使わせてもらうぜ」
罵詈雑言を受けながらもパージは剣を手にペルチに斬りかかる。
「自分だけ武器を使うなんて卑怯ですわ!」
「油断して武器を盗られたお前が悪い!」
斬りつけるパージの猛攻をペルチはひたらすら避け続けると、スカートの一部が切り裂かれた。
「あっ!?」
「もらったー!」
一瞬の隙を見抜いたパージは剣を横に薙払った。
「ペルチ!?」
「兄貴!」
誰もが勝利を確信したその時、
パキン!
ペルチを斬りつけようとした剣が急に音を立てて折れはじめた。ペルチの身体を斬るように空を切ると、何が起こったかわからない様子で折れた剣を見やる。
「剣が折れた!? 一体何が―――」
原因を探ろうとした瞬間、鈍い音とともにパージは吹き飛ばされる。
「ぐっ!? さっきの一撃よりこっちのほうが痛てぇ!」
腹部を抑えながら立ち上がろうとした瞬間、目にも止まらぬ速さで何者かがパージを襲いはじめた。
「うわっ!?」
襲った相手は轟音と砂埃で姿がみえなくなった。
「一体なにが? ゴス! 俺を襲ったのは誰だ!?」
遠くで見ているゴスにパージを襲った正体を尋ねようとすると、ゴスは声を震わせながら襲っている正体を言った。
「あ…あの女です。あ、兄貴」
「あの女…!? まさか!」
パージが砂埃に視線を向けると、最初に対峙したときとは比べほどにならない速さでパージに攻め込んできた。
「いっ!?」
ペルチの攻撃をなんとか避けたが、直接あたってないパージの顔が切れた。
「今の拳…ただの拳じゃねぇな」
冷静に分析しながらパージはペルチの様子を確認しようとした。
「!?」
パージはペルチの様子を見て血の気が引くような悪寒に襲われる。
「一体どこにあんな物騒なものを隠してたんだ!?」
ペルチの手には爪が長いクロウを両手に装着していた。そしてなによりもパージが恐れたのはペルチの瞳だった。飢えた動物よりももっと恐ろしい瞳で瞬きせずにじっとパージを見続けていた。それは人間にしかない感情を最大限にひきだした瞳だった。
「私の…お気にのスカートを―――」
「やばい!来る!」
次にくる攻撃にパージは備えると、狂気に満ちた瞳がカッと開きながら襲いはじめた。
「斬ったなー!」
襲いかかる爪を避けるが、次々と襲いくる爪や足技にパージは避け続けた。
―これはもう戦いじゃない! 生きるか死ぬかの戦い!?
死を覚悟するとアランはに向かって声をかける。
「逃げてパージさん! ペルチがこうなっちゃったら誰も止められないわ!」
「逃げてください兄貴!?」
ひたすら避け続けるパージに二人は逃げるように促すが、パージはそれを断った。
「逃げても無駄だ。こいつは俺を殺すまで追い続けるだろう」
「でもこのままじゃ!?」
「こういう相手を俺は見てきた。これは…」
パージはアランの目を見て言い始めた。
「これは…奴隷の目だ!」
ペルチから視線をそらしたパージは一瞬動きを鈍らせたが折れた剣でペルチの攻撃を受け止めた。
「あれが…奴隷の目」
「そうだ! 生き地獄から抜け出したくても抜け出せない自分の非力を恨んだ奴隷の最後の足搔きの目だ! 俺は何度も見て何度も止めをさした」
パージが最後にそういった瞬間、パージの瞳は冷たく残忍な瞳をペルチに向けると、
「私のスカートをーーー!」
ペルチはパージの身体を切り裂いた。
だがペルチは動きを止めて切り裂いた違和感を確かめるため目を凝らすと、
「なに!? 服だけだと?」
ペルチが切り裂いていたのはパージが着ていた服だけだった。
「どこに―――」
すぐにパージを探そうとした瞬間、
「痛っ! なんだ?」
ペルチは急に両手をあげると後ろから強い衝撃がペルチを襲った。
「ぐぎゃー!?」
ペルチは衝撃を受けたショックでうつ伏せのまま気を失った。その強い衝撃の正体はパージがペルチの背中を蹴り飛ばしたものだった。両手をあげたまま倒れたペルチの腕は何かから離れたみたい力なく地面に落ちると、ゴスとアランはパージのもとに駆け寄る。
「パージさん…」
「これから行くところは危険なところだ。この人の目をみてわかっただろ?」
アランは喋ることもなく、うんと首を縦に振って頷いた。
〜カルヴァンの結婚まであと六日と十七時間〜




