奮い立てアラン! 結婚式をとめろ!?
ラナとゴスによってアランは命を取り留め安静しているとアランが目を覚まして状況を把握しようと一階に降りる。するとそこにご飯の準備をするラナがいた。
「…う〜ん」
アランは全身に痛みを感じながら起き上がると、あれだけ散らかした部屋が綺麗になっていた。
「私…何が一体?」
自分の中の負の感情に抗い続けて、いつしか気を失ってしまった。それからのあとのことは何も覚えていなかった。
覚えていたのは足の踏み場もないほどに散乱した家具や飾り、コップや皿の割れた破片もあって裸足で歩くと怪我しないというほうがおかしいくらいの散らかりようだった。アランの身なりも普段は小綺麗にしていたのが、髪は整ってなくボサボサし、服も泥だまりみたいなところに転んだみたいに汚れた跡や狼や獣のような相手をしたみたいに服は切れたり破れたりしていた。だけどアランが起きたときの格好は寝間着に着替えられていた。
「いつの間に私?」
何が起きたのかわからないままアランはベッドから降りて一階に戻ると、ラナが台所で料理をしていた。一瞬誰かわからなかったアランはラナに恐る恐る声をかける。
「あ、あの…誰ですか?」
ラナは振り向かずに料理を続けながらアランに話す。
「起きたのねアラン様。何があったのか知らないけどそんなに荒れていると王子様が御心配なされますよ」
口調を変えずにラナは淡々と話しを進めた。ラナの王子という言葉を聞いてアランは顔を俯かせながら話す。
「今はカルヴァンとは逢えないから…」
カルヴァンのことを口にするとアランの瞳がまた涙で潤んできた。ラナは料理を一段落させてアランに振り向いて近づき始める。
「王子様もお辛い立場にいます。アラン様だけが辛いわけではありません」
「わかってるわよ! だけど…いつまで待てばいいの? 一週間? 一ヶ月? 一年?」
突然アランはラナの胸ぐらを掴みながらいつ逢えるかを問い詰める。しかしラナの口からもっと酷なことを聞かされる。
「王子様とは…もうお逢いできません」
「!?」
アランは驚くのあまり声をだせずにいた。
「か…カルヴァンに逢えないって…どういう―――」
「王子様とはもうお逢いになることができなくなったのです」
「どうして!?」
―カルヴァンにもう逢えない?
―どうして? なんで? あの噂のせいで?
急に逢えないと聞かされたアランは目の前が真っ白になりラナの声も届かないほどショックを受けていた。
「カル…ヴァンに…」
「―――アラン様? アラン様?」
ラナは呆然と立ち尽くすアランを揺すって正気に戻そうとするがアランは正気に戻る気配がなかった。
その時ゴスはパージを引き連れて戻ってくると、
「ラナさん! アランさんは―――」
「嬢ちゃんの様子は―――」
二人は首の力がなくブランブランさせるアランを必死で正気を取り戻そうとするラナの姿を見ると、続きの言葉を失くした。
「アラン様!? しっかりして!」
アランの様子を見てパージはラナの腕を掴んで止める。
「姉ちゃんもうやめろ! 嬢ちゃんをよく見てみろ」
パージに言われてラナは落ち着きを取り戻してアランを見ると、アランは泣きながら立って気絶していた。
「姉ちゃん。嬢ちゃんに何を言ったんだ?」
「王子様とはもう逢えない、と」
ラナは正直に話すとパージは額に手を当てて落胆し始めた。
「嬢ちゃんにとってショックが大きすぎたんだ。…嬢ちゃんは俺が寝かしてくるから」
パージはアランを抱き上げて二階のベッドまで運び寝かせる。ゴスは今日初めてアランの家に入ったときと比べながらラナを労う。
「入ってきたときと比べてすごい綺麗になってる…ラナさんお疲れ様」
「いえ、これくらい毎日やってますので身体が勝手に」
そう言いながらラナはできたばかりのご飯を皿によそう。そこにパージが降りながら事情説明を求めだす。
「嬢ちゃんのあんな様子初めて見てびっくりしたよ。嬢ちゃんに何があったんだ? ゴスから聞いた話しだと嬢ちゃんが血だらけで倒れてたって」
パージはラナの顔をじっと見て話していると、ラナはテーブルに人数分のご飯を置いてから、
「ご飯はもうお済みですか? よければお食事をしながらお話しします」
真剣な目で話すパージを見てラナも真面目な顔で応えた。パージとゴスは黙ったまま席に座るとラナも空いてる席に座って話し始めた。
「私が知ってる限りのことをお話しますね」
そう言うとゴスとパージは口にご飯を運びながら静かにラナの話しに耳を傾ける。
「アラン様達がメチカルでドーヴォン親子の治療をするために王子様は王様に西の大陸に生息するフクジソウの要請をラン国の国王に通信機で交渉されてました」
「フクジゾウ?」
ゴスは口いっぱいに頬張りながら聞き返す。
「はい。国王が事情を説明するとラン国王はある条件を突きつけてきたのです」
「ある条件?」
静かに口に運んでいたパージが反応して聞き返した。
「その条件って一体?」
「ラン国王は…ラン国の姫様とミジバルク国の王子様のご結婚を条件にフクジソウを手配する、と」
「姫と王子の結婚…王族同士の結婚か」
「はい。王子様の手紙の一文に命に関わると書かれており国王は渋々承諾なさったのです」
「断ればよかったものを…」
パージは腕を組みながら不満を漏らすとラナは少し険しい顔でパージを責める。
「助けられるとわかっていて何もできない王子様を想った王様に失礼です!」
「うっ…すまねぇ」
「それで…んく、王子様はどうしたんですか?」
口の中のご飯を飲み込みながらゴスは話しの続きを促す。
「先日、兄からアラン様の手紙を王子様にお届けしてお城を出ようと決意したときに、王様からラン国の姫様とのご結婚の話しを聞かされたのだと思います。それ以来王子様も食事も喉が通らない日々を送っておられました」
「一番ショックが大きいのは王子だろうな」
「はい。王子様は大変アラン様のことをお気に召されたようで、ラン国の姫様とのご結婚を聞いてひどく落ち込んでいました」
そこまで聞いたパージは食事を終えてラナに尋ねだす。
「事情はわかった。だがなぜゴスと姉ちゃんが嬢ちゃんの家に行くことになったんだ?」
ラナはポケットから一通の手紙を出しながら、
「王子様からアラン様宛にお手紙を預かっており届けるためにゴスさんに案内をお願いしたのです」
ラナはゴスのことを話すとパージはゴスに目をやると、
「本当ですよ兄貴。俺はマスターに言われてラナさんを案内するように頼まれただけです」
「別にお前を疑ってるわけではない」
パージはゴスの態度を見て確認しようとしてたがゴスは疑われてると思って慌てて応えた。するとパージはラナの方を向いて手紙に視線を落とすと、
「その手紙見せてもらってもいいか?」
「…お断りします」
少し考えてからラナはパージの頼みを断る。
「これはアラン様にお渡しするように王子様から預かっております。アラン様以外誰にも触れさせはしません!」
「事情はわかってる。でも今の嬢ちゃんの状態だとまともな考えなんてできないだろ? 俺が代わりに読んじゃだめか?」
「だめです!」
ラナは頑として拒み続けた。
「いいから見せてくれよ!?」
パージは意地になってラナから手紙を取ろうとするがラナも取られまいとする。
「だめですー!」
手紙の引っ張り合いをしていると二階からアランがフラフラと降りてきた。
「アランさん!?」
ゴスがアランを見つけて声をかけた瞬間。
ビリッ!
手紙が二つに破れてしまいました。
「あー!?」
二人は声をあげてお互い破れた手紙を見合っていた。
「あっあなたが強引にとろうとするから!?」
「姉ちゃんが手を離さないから!?」
二人が歪みあってる間、ゴスはアランに近づいて心配して声をかける。
「動いてて大丈夫ですか?」
だがアランは目の焦点が定まらないままラナに再度カルヴァンのことを尋ねた。
「ねぇ…カルヴァンにはもう…」
「嬢ちゃん!?」
「アラン様!?」
「教えて…カルヴァンにはもう逢えないの? 逢えない理由を教えて?」
フラフラとラナに近づきながら尋ねる姿を見てラナは打ち明けようとする。
「アラン様…王子様はご―――」
「王子とは逢える!」
「!?」
ラナの声を遮るようにパージは声を大にしてアランの前に立ちふさがる。
「逢える?」
「嬢ちゃんが逢いたいって思えばいつだって逢える。嬢ちゃんと王子には切れない関係があるだろ!?」
パージはアランの肩を掴んで狂わないように説得する。
「でもさっき逢えないって…」
「あの姉ちゃんがなんて言ったか知らないけど、嬢ちゃんは王子に逢いたいだろ?」
「うん…」
「だったら逢いに行こう!」
「ちょっとあなた!?」
俯いていたアランはパージの言葉を聞いてだんだん顔をあげ始めた。パージの身勝手な言葉を止めようとラナはパージの腕を掴むがパージは軽く振り払った。
「少しは嬢ちゃんの気持ちを考えたらどうなんだ? 姉ちゃん」
「考えています! 王子様とアラン様では身分が違いすぎます。辛いでしょうけど、王子様と姫様がご結婚なされたほうが―――」
「結婚!? カルヴァンが誰と!」
「うわっ!」
ラナの結婚という言葉を聞いてアランはパージを突き飛ばしてラナの肩を掴んで揺すりだす。
「やめろ姉ちゃん!」
「教えて! カルヴァンは誰と結婚するって!?」
「王子様はラン国の姫様とご結婚なされます」
「ラン国の…姫と!?」
ラナはパージの制止の言葉を無視して真実を話す。それを聞いたアランは膝をつき、床に手をつける。
「カルヴァンが…お姫様と…」
「嬢ちゃん…王子と姫さんが結婚するらしいが嬢ちゃんにはそれを阻止することができる」
「え?」
涙を流しながらパージの言葉を聞いて顔をあげる。
「阻止することができるって一体…?」
「嬢ちゃんと王子の関係はなんだ?」
「…私とカルヴァン? 私とカルヴァンは護衛するものとされるもの」
「そうだ!」
「護衛…そうか!?」
アランは何か思い出し立ち上がる。
「私の護衛はカルヴァンじゃなきゃだめなのよ!」
「そうだ! 俺や他の人が護衛しちゃいけないんだ。王子も他の人を護衛しちゃいけないんだ!」
アランとパージはそう言って奮い立つがラナとゴスは何を言ってるのかさっぱりだった。
「あなたたち…何を?」
「兄貴? どういうことですか?」
わからない二人は呆然と立ち尽くし、奮い立つ二人は出立の準備を始めだした。
「式場は?」
「ラン国だろうな。城に飛行船が停泊してたから」
「わかった。私出かける準備する!」
「遠出になるから俺も一旦街に戻って準備してくる。ゴス! お前も来るんだ!?」
「え!? 兄貴!」
「準備ができたら街の入口で落ち合いましょう」
「おぅ!」
パージはゴスの腕を掴んでアランの家を飛び出していき、アランは慌てて二階に上がって一枚の破れた紙を鞄にいれてでかける格好に着替え始める。
状況が理解できないラナはアランに近づいて声をかける。
「アラン様? 一体どうされるおつもりですか?」
「カルヴァンの結婚を止めるの!」
ラナは驚き、アランを止めようと声を荒げる。
「やめてください! 王子様と姫様のご結婚はアラン様のためでも、王子様のためでもあるのです。ゆくゆくはミジバルク国とラン国のためでもあるんです。それを止めるなんて…」
「今ここで行動を起こさないと一生後悔するわ。カルヴァンだって好きでもない人と一緒になるなんて望んでないわ」
「望まなくてもいいんです。人の上に立つ者は常に国民のために考え、動かないといけません! 個人の身勝手な判断や行動をされては―――」
「自分が満たさなければ国民の気持ちや意思を汲み取ることなんてできないと思います!」
支度を終えたアランはラナの手を引いて外へでると、家の鍵を閉めて走りだす。
「いけませんアラン様!」
ラナはの腕を掴もうとするがアランはするりとラナの腕から逃れ街へ向かって走って行きました。
「アラン様…」
今度はラナが膝をついて落胆すると道端に破れたアラン宛の手紙が落ちていた。
「これ…確かパージさんて人と取り合いになったときの」
ラナは自分の持ってる破れた手紙をくっつけて手紙を読み始める。
『アランへ
僕はラン国の姫ハーヴェと一緒になることになった。僕のわがままを許してくれ。
カルヴァンより』
「王子だってもう決意されてるのに…」
王子の覚悟を決めた手紙を読んで泣きそうになったとき、ラナは不自然な手紙の厚みを見つける。
「あれ? 紙なのになんか厚い。まるで…」
ラナは今読んだ手紙を入念に調べると、読んだ手紙の一部が剥がれかかってるのを見つける。
「手紙に紙が!?」
ラナはゆっくりと剥がすともう一枚アラン宛に書かれた手紙が貼ってあった。
「これって…秘密の手紙!? どうして王子様が?」
ラナは剥がした手紙を読み始めた。
『アラン。これをみつけたってことは僕の結婚に賛成してないと思っていいかな? そう思っていたら読んでほしい。僕はハーヴェと結婚するのは本当は嫌。断れるものなら断りたいけど、ドーヴォン親子を助けるために父さんが僕のために渋々承諾したって聞いて僕も父さんを助けるために結婚しようと思ったけど、僕にはやるべきことがある。僕はアランを守る護衛なんだ。ずっとアランの傍にいて、アランをずっと守り続けたい。それが僕の本当の気持ち。できることならアラン…結婚式を壊して欲しい。アランが来てくれたら僕はもうアランの傍を何があっても離れない。ラン国を、父さんを敵にまわしても…アランだけは絶対に守る』
ラナは本当の王子の気持ちを知って溢れる涙を止められなかった。
「王子様まで…どうか王子様の身をお守りください」
ラナは泣きながら天を仰ぐように神頼みをする。
準備を終えたパージとゴスは街の入口にある門の所でアランがくるのを待っていた。
「兄貴〜、アランさんと王子の関係って本当に護衛だけですか?」
「そうさ」
「でもあれじゃアランさんと王子って―――」
ゴスが話しを続けようとすると、アランが街の外から走ってやってきた。
「おまたせ〜!」
「俺達も今来たとこだ」
「アランさん、兄貴。ラン国までどうやって行くんですか?」
「それは…」
ゴスが尋ねるとパージとアランが声を揃えて、
「船でいくのさ」
「船!?」
「ここからまっすぐ西へ行くと港町ホージェンがあるの。そこからラン国行きの船に乗ればすぐに着けるわ」
アランは道順を説明する。
そして、
「それじゃすぐに行こう!」
「今朝飛行船が飛び立ったから、三日は飛んでるはずだ」
「式はいつ始まりそう?」
「えっと…王子と姫の結婚式はラナさんに聞いたら一週間後って言ってました」
「リミットは一週間。それまで着けばいいのね」
「そうとわかればいくぞ! 嬢ちゃん、ゴス」
「はい!」
「へい!」
三人は気持ちを一つにして式場があるラン国に向かって出発しました。
〜カルヴァンの結婚まであと六日と十八時間〜




