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第1話 ルノの身の上

 ゆっくりと目を開けた。人の影が二つ見えた。一つは…人体模型かな?もう一つは……


「ルノ様ァァァァア!!!」


 人体模型が何やら叫んでいる。タチの悪い夢だ。だが、なんか面白そうだ。少しの間だけ、この小芝居を鑑賞してやろう。


「に、人間を召喚するなんて!いけませんぞぉっ!」

「どうしてですか?召喚していけないなんて決まりがありましたか?」

「あぁぁぁりますとも!魔族憲法第44条!別世界からの異生物を召喚することはあってはいけない!!わたくしの憲法書には!赤マーカーでギッチギチに印が付けてあるからしてェ!」


 この骸骨、なかなか迫力があるな。たぶん紳士キャラなんだろうけど、面白いヤツだ。

 それにしてももう一人の女。綺麗な人だ。ピンクと紫がいい感じに織り交ざったセミロングの艶のある髪。赤い目。白い肌。そして黒くて太い角に、尾。頬には奇妙な文様がある。まず人間ではないな。


「あら、ロドロフは人間を異生物だというのですか?この世界にも人間はいくらでもいますよ?」

「過去にそう言って人間を召喚した魔族が罪ありとして捕まったのはご存知でしょう!?」

「知りませんでした」


 コントを見ているみたいだ。


「あぁ…ルノ様が捕まれば…わたくしも重罪だ。運が良くて終身刑…悪ければ死刑もありえますぞ…トホホ…」

「情けないですよロドロフ。こうするしかないのです…」


 お、なんだ急に雰囲気がシュールになったな。ここらで俺も会話に混ざるとしようか。


「あの、お取込み中すいません」

「人間!わたくしめとルノ様の命がかかっております!今すぐ元の世界に帰りなさァい!」

「いや、無理でしょ」


 この骸骨はすごいことを言う。


「初めまして。私はルノ…魔族の王…魔王の娘です」

「俺は神崎祐大。で、この夢はいつになったら覚めるのかな?」

「これは夢なんかではありません。祐大様、力を貸してください!」


 ルノは俺にそっと身を寄せる。おっ、良い匂い。

 というかこれが夢でないというのはマジなのか?俺は早く夢から覚めて、大学ライフの準備をこしらえたいのだが…。


「よく分かんねえけど、俺そろそろ帰りたい」

「それはできません。あなたは私が召喚致しました」

「いやマジで。そういうのいらないから」

「できません」


 マテ、ジョウダンダロ?


「え?嘘でしょ?」

「こちらの世界からあなたを見たとき、とても凛としたオーラを感じ取りました。あなたならやってくれると…」

「それはこれからの熱くて甘いでもちょっとほろ苦い4年間の大学ライフの始まりに期待を寄せる俺のムンムンオーラだ!」

「意味が分かりません!」


 こっちのセリフだ!なんだこいつ、馬鹿なのか?


「おい模型!お前はなんだ!」

「わたくしはルノ様のお付きの魔物であります。スケルトンのロドロフと申します」

「俺をもとの世界に戻せ!」

「わたくしもそうしたいのですが、もう諦めましょう。一緒に死にませんか?同じ牢獄の中で…」


 ロドロフは涙ながらにそう語りかける。俺を巻き込むな!勝手に召喚しておいてありえないぞ。いくら頬を抓っても痛いばかり…。夢でないのは分かったが、だったら元の世界に返してくれ…俺の…俺の大学生活が…。


「私を守ってください!」

「うるせぇ!そこの骨にやらせとけ!」

「あなたでなければダメなのです!」


 ルノとかいう女…俺に懇願してくる姿が死ぬほど可愛い、今すぐ抱きしめてやりたいが、それよりも俺は大学生活が大事だ。一体どれだけのものを捨てて努力してきたと思っているのだ。その努力をこんな未知の世界で台無しになどしたくない。


「俺はな!元の世界でやらなきゃいけないことがあるんだ!」

「それはいつやるのですか?」

「1か月後だ!こっちの世界で言っても分かんないだろうけど、1か月後に俺はすごく楽しいことになってるんだよ!」

「ロドロフ…計算してください」


 ルノはロドロフにそう語りかける。何かをすぐに察したロドロフは何やら中空を見つめながらブツブツ言っている。暗算なんかをする時にやりがちなやつだ。たぶん計算しているのだろう。


「…奇しくも222日でございます」

「何がだ?」

「実はですね。こっちの世界と、祐大殿がいた世界では時間の進み具合が違くてですな。祐大殿のいう一か月は、こっちの世界で換算すると222日になるのです」


 こっちの世界で222日経っても、元の世界では1か月しか経っていないということか?


「222日以内に事が済めば、何らかの方法で祐大様をもとの世界に戻すと約束します。ですからどうか…」

「あーちょっと待て。とりあえず話を聞かせろ」


 30日が222日になるんだ。少しくらいなら付き合ってやってもいいだろう。

 そのあと、ルノは自分の置かれた身を語りだした。


「私はお父様…つまりは魔王の、3人目の子供として生まれました。何不自由なくここまで成長し、事件は四日前に起こりました。実は、我々魔族はとある種族と友好関係にあったのですが、四日前、お父様がその種族の者に手を出していたのを私は見てしまったのです。その者は死に、お父様は種族から反感を買い、今では巨大な戦争状態です。私はそんなお父様に嫌気がさしてしまい、魔界を出ました。そのとき、ちょうどお付きだったロドロフも一緒でした。それから二日後…お父様は私が魔界から逃げたことを知りました。そして私にある呪いをかけたのです」

「…呪い?」

「それは、魔族にとっては有り難すぎる程の呪い…しかしお父様を見限った私には到底受け入れがたい呪い…。魔王の力を手に入れてしまう呪いです。呪いは、偶然にも222日後に発動します…」


 ルノは辛そうに俯いた。ここまでの話だと、一見ルノに得があるようにも思える。


「魔王の力が手に入るならいいじゃん」

「それだけで済むならの話です。しかし、この呪いは、魔王の力を手に入れると同時に、人格や理性を失ってしまいます。私は私でなくなる…力だけを持った恐ろしい化け物と化してしまいます」


 なるほど。それが”呪い”と言われる所以なわけだ。力だけが手に入るなら呪いとは呼ばれない。それ相応の、いわゆる副作用(リスク)があるわけだ。


「じゃあお前はどうしたいの?」

「私は…お父様を許しません。種は違えど同族にも等しい仲間に手を出し、戦争まで引き起こすようなお父様を…私は魔王の座を…お父様から奪い取ります」

「ル、ルノ様本気ですか!?」


 ロドロフが声を荒げた。驚きだな。こんな可愛い女が、魔王の血を引いていて、それでいて魔王の座を狙っているとは。


「なりませんルノ様。それこそ戦争になります」

「覚悟の上です。だから私は人間を召喚したのです」

「ん?どういうこと?」

「ロドロフ。禁術を使ってください」


 ルノの一言に、ロドロフは固まった。全身骨であるため、挙動の変化や表情の変化は見られないが、確かにそこには、顔色を変えたロドロフがいた。ロドロフはゆっくりとルノを見る。


「…なりませんルノ様」

「使わないのなら、私は一人でお父様のところへ向かいます」

「なりませんルノ様!!!」

「ロドロフ!」


 ルノは大きな声を上げた。


「約束…したではありませんか。あの時、命に代えても私を守ってくれると…。それがあなたの使命…そして、生きることが私の使命…違いますか?」

「……」

「何もできないまま222日後に呪いが発動してしまえば…私は死んだも同然なのです」


 ルノは大粒の涙を浮かべた。 

 父に裏切られたも同然なルノを、放っておいていいのだろうか。222日…時間はある。それまでに魔王とやらのところへ行き、魔王を倒して、ルノを魔王にする。そのためには…俺の力が必要…。


「…申し訳ありませんルノ様。わたくし、目が覚めました。わたくしの使命はあなたを守ること。そうでしたね」


 ロドロフは吹っ切れたような立ち振る舞いで、俺の額に杖を当てた。


「じっとしていてください」

「え、大丈夫なの?」

「ラ・デス」

 

 ロドロフが何かを唱えると、杖の先端から光があふれ、俺を包んだ。暫くして光は収まる。俺は体を見回すが、特に目立った変化はない。


「え?何が起きたの?」

「わたくしが今掛けた魔法は、祐大殿の体を不死身にする魔法です。もちろんこちらの世界でしか効果はないでしょう。祐大殿は今後222日間、何があっても死ぬことはありません」

「おぉ…それは…どうなんだ?」

「ルノ様をお守りするためにわたくしが使った禁術です。バレればすぐにでも殺されるでしょう」


 おいおい…そんな魔法を俺に…?

 これはもう後に引けなくなったな。まあ今更引く気もない。不死身になったからには、それ相応の活躍はしてやろうじゃないか。


「それと…」


 ロドロフは再び俺の額に杖を当てた。


「ヒャンサ・ムー」


 再び俺の体を光が包み込む。先ほどと同じく、見た感じ体に変化はない。


「今度はなんだ?」

「祐大殿の顔をイケメンにしました。巻き込んでしまったことへのせめてものお礼です。ちなみにルノ様好み風です」

「ロドロフ。私の好みを知っているのですか?」

「ハイド様のような顔でございますかな?」


 ロドロフがそういうと、ルノは顔を赤らめた。ああ、これは完全に恋する女の子の顔ですわ…。

 って!俺の顔!俺の顔はどんな感じなんだ!?

 自分の顔が見たくてしょうがない俺を見て察したのか、ロドロフが手鏡を渡してくれた。骸骨テイストの手鏡だ。気味が悪い。


「おぉ…」


 これはマジでイケメンじゃないか?ってか髪は白いんだな。目は鋭いけど柔らかい。悪役が似合いそうなイケメン顔だな。


「ありがてぇ…」


 元の世界に戻っても…なんて甘い考えは捨てよう。そもそも元の世界で白い髪じゃやばいだろうし。


「これで…一通り終わりましたね」


 ルノが息を吐く。


「祐大様。本当にありがとうございます」

「そういうのは、全部終わってから言え」


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