しぃくえんす♡れいぶ
「1、4、9、14、45、そのつぎはなんだとおもう」嫌な上品さが滲み出る声が高い靴音と共に後ろから聞こえてくる。
知るか。話しかけないで欲しい。静かに帰らせて欲しいと思う。けれど質問に対して返事をしないと僕の印象が悪くなる。僕は嫌々振り返った。小さな女の子が踏ん反り返っていた。一瞬ほど僕は幻聴を聞いたのかとも思ったけれど、疲れるような事はしていないしクスリなんて打っていない。その少女が不遜な顔で僕の顔をじろじろ見てくるので、一応の確信は持って僕は話しかける。
「すいません。僕に何か用でしょうか」少し困った風に聞く。
敬語は素晴らしいものだ。日本人が生み出した素晴らしい物に順位をつけるとするならば、きっと三位あたりを勝ち取るだろう。こちらの印象を良く見せることが出来、相手に無意識にしろ意識的にしろ認証を与えることが出来る。また、誰に対しても同じ対応が出来るという点で優れている。人によって態度を変える人間は最低だ。友達になりたくないな。
「さっきもいったじゃない。45のつぎはなんだとおもう」少し舌足らずな声だ。
「分かりません」僕は無表情に答えようとする。
「じゃあこのすーじのならびかたはどうおもう」表情を変えずにゆっくりと首をかしげる。
「それは…、とても綺麗だと思いますよ」顔が自然と綻んでしまう。
これは本音だ。その次を当てろと言うぐらいなのだから規則性が存在するのだろう。僕は一貫した存在が大好きだ。例えるならば一本の直線だ。単純明瞭で、恋人と見る満点の星や夕焼けが差し込んだ校舎の廊下より美しい。僕は自分に自覚的に在りたいと思っている。他人に指摘できるような弱点が自分で見つけ出せない訳が無いのだが(これは僕は数理的に証明した)、自分の性格はそういう傾向を持っている事が分かったのは随分と昔だ。つまりは僕は連続性を保とうとする性格だということだ。性格の決定にはDNAや環境の要素が大きいと言われているけれど、僕はこの性質を親から影響を受けたものだと推測している。しているだけだけれど。
「なんでさっきからぼぉーっとしてるの」なんというか、面倒くさい娘だ。
「もう用がないなら、僕は帰りますね」これ以上関り合いになるのは困る。
「あなたって、元に戻りたいんじゃなくて、”続きたい”だけなんでしょう」
表情を崩さなかった彼女が、一瞬だけ微笑む。言葉の真意を読み取る前に、急激に吐き気が襲ってくる。目の前が大きく揺れたかと思うと顔が熱くなり、眼が潰れるような感触を受け入れる。すべて飲み込んだ僕は前のめりに無様に倒れてしまう。
困るなあ。