検査結果は異常なし
直樹と華子は、すべての検査を終えると、院長である祖父の権蔵の部屋に通された。
権蔵は検査結果に目を通しながら言った。
「一週間はかかる検査結果をもう出してきたぞ。うちのスタッフは優秀じゃからな。二人とも、至って健康!問題なしじゃ。何か気になることはあるかね?」
直樹と華子は顔を見合わせると、華子の姿をした直樹が言った。
「そのことなんだけどね、おじいちゃん」
権蔵は華子を見て、目尻を下げた。
「それにしても、華子さんと直樹はお似合いじゃな。そうしていると、若い頃のワシと富貴子さんが並んでいるようじゃ。神様のお導きじゃな」
そう言うと、権蔵は禿げ上がった頭部を、ピシャリと叩いた。
直樹は僕も、50年後はあんな感じになるのかなと、ほくほくと、一人楽しげな権蔵を、ぐったりとした気持ちで見上げた。
「おじいちゃん、真面目に聞いてくださいね。こんなこと、おじいちゃんにしか、相談できないから. . .僕と御高嶺さん、体が入れ替わっちゃったんだ。どうしたら元に戻れるかな?」
直樹の姿をした華子が、恥ずかしそうに俯いた。
権蔵は鋭い眼光を直樹と華子に向けたが、直ぐに破顔をした。
「ひゃひゃひゃ!華子さんは美しいだけでなく、楽しい方じゃ!堅物の直樹と、そんな冗談を思い付くなんて!ひゃひゃひゃ!愉快愉快!」
冗談でこんなこと言うか!直樹はげんなりしていると、院長室の前の廊下が騒がしくなった。
「姫様!姫様!ご無事ですか~?菊がお迎えに参りましたよ!」
「病院内ですのでお静かに、院長に取り次ぎますので」と言うスタッフの制止を振り切り、院長室の扉が乱暴に開いた。
小柄な着物姿の老女が現れると、老女は権蔵を睨み付けた。
菊さんとは、華子の家の使用人らしい。
面倒が起きる予感がする。
直樹は小さくため息をついた。