姫なんだってさ
送迎車を降りるや否や、病院スタッフが直樹たちを取り囲んだ。
「直樹様!さあ、急ぎ検査をお受けください」
そういうと、用意してくれていた、車椅子に直樹を強引に座らせた。
魂が入れ替わり、直樹の姿をした華子が、恐縮して言った。
「よっ、夜遅くに、ご面倒をおかけして、もっ、申し訳ございません。でも、あの、わたくしっ、歩けますので. . .」
「遠慮は無用です。直樹様!貴方様はこの大病院を継がれる大切な御曹司」
30人ほどのスタッフに取り囲まれた華子は、怯えてちじこまっていた。
そのとき、院長である直樹の祖父の権蔵が一喝した。
「何をしておる!直樹は後じゃ!こちらの姫君を先にしなさい!身内を先にするとは、みっともない」
「姫?」
華子の姿をした直樹が怪訝な顔をした。
「そうですとも。身分制度は廃止されましたが、御高嶺様は奈良時代まで遡れる由緒ある公家のお家柄. . .そして、このじいは、畏れ多くも、華子さんのお婆様と旧知の仲なのであります。華子さんは富貴子さんの若い頃と瓜二つじゃ。本当にお美しい」
権蔵はうっとりと、若い頃を思い出すように、感慨深げに言った。
権蔵の美意識には共感しかねるが、なるほどね、と直樹は頷いた。
華子の上品で、古風な言い回しは、そのせいなんだろうな。どもってるけど。
それにしても、と直樹は思った。
いい加減に熱く握られた手を離してほしい。
じいさん、相手は17才だぞ。
直樹は華子の姿でにっこりと微笑むと、素早く翁の手を外した。
検査が終わったら、魂が入れ替わったことを、早々に権蔵に打ち明けよう。
権蔵は華子が気に入っているようだ。中身は僕だけどね。
直樹は翁の熱い視線を避けながら、医療スタッフの指示で、検査室に急いだ。