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面白くなってきた

少女は地面に落ちた手鏡を拾い上げると、自分の顔をじっくりと、無感動に眺めた。

少女はため息をつくと、腰まである、豊かな黒髪をもて余しながら、泣きじゃくる端正な顔立ちの男子生徒を、眉間にシワを寄せながら一瞥した。

少女はしばらく思案したのち、意を決して、努めて快活に微笑んだ。


「最悪と言っていい状況だけど、まだ、望みはあるよ。僕の家は総合病院なんだ。とりあえず、一通り検査してもらおう。魂の入れ替わりが、現代医学の範疇かどうかは、疑問だけどね. . .ほら、立って。迎えの車、呼ぶから」


そう言うと、少女は、華奢な手を差し伸べ、しゃくりあげながら頷く、端正な顔立ちの男子生徒を引き起こした。

二人の魂が入れ替わってしまったことを知らぬ者から見たら、何とも残念なとりかえばやカップルである。


「確か、御高嶺(おたかね) 華子(はなこ)さんだよね。園芸委員の」


少女が訊ねると、男子生徒はこくりと頷いた。

少女は男子生徒のカバンから、携帯を取り出すと、慣れた手つきで、通話ボタンを押した。


「あ、もしもし。瀬田君のお祖父さんですか?私、御高嶺 華子と申します。初めまして。夜分に失礼致します。実は瀬田君と私が、落雷を受けてしまって。直撃は避けられたのですが、瀬田君は意識が朦朧としているので、私が電話しています. . .はい。外傷はかすり傷程度です。はい。はい。場所は外苑公園の入口です. . .はい。お待ちしてます」


少女は通話を終えると、辺りに散乱した所持品を拾い集め、それぞれのカバンに収めた。


「カバン持てる?五分以内に迎えがくるよ。病院に着いたら、最高の医療チームが検査してくれるから安心して。だけど、しばらく、このままかもしれないからね。あ~、全く面倒だね」


そういい終えると、少女のおちょぼ口からは、想像のつかない、盛大なため息をついた。


「あのっ、ありっ、ありがとうございます。それから、ごめんなさい」

「あぁ、気にしないで。御高嶺さんのせいじゃないから」

「あ、そうじゃなくて、あ、そうなんだけど、せっ、生徒会長さんが、わたっ、私の名前を覚えていてくれたこと. . .」


端正な顔立ちの男子生徒は、どもりながら言い終えると、恥ずかしそうに頬を染めて俯いた。

女子から、恥ずかしそうに頬を染められることは、自尊心がくすぐられるため、大好物な直樹だったが、乙女チック仕様の自分の姿を見せつけられるのは、拷問に近かった。


「御高嶺さんだって、僕のこと、知ってるじゃないか。お互い様だよ」


少女の姿をした直樹は、そっけなく言った。

聖園学院の生徒で、100年に一人の逸材と言われる生徒会長の瀬田直樹を知らぬものはいない。

直樹もそのことを自覚しているし、華子の言わんとしていることは、解っていた。

御高嶺 華子は、確かに、目立つタイプではない。

だが、華子に限ったことではない。直樹は、華子を含めた全生徒の氏名と顔を覚えている。

何のことはない。将来、大病院を継ぐ、跡取り息子として受けた、帝王学の一端を実践してみたまでのこと。

祖父は病院の院長と言えど、経営者としての資質を備えるべきだと、直樹に説いた。

その一環として、幹部から新入社員までを含めた全社員を把握しろと言われた。

その理由は自分で考えろと言われた。

おそらく、人件費は最大のコストだから、社員の末端まで、目を光らせろと言う意味だと思う。

だけど、それだけではない。今の華子の反応を見てわかるように、人心掌握術としても効果的だ。

社長に名前と顔を覚えてもらっていると知って、感動しない新入社員はいないだろう。

そう、瀬田 直樹にとって、生徒会なんて、制御しやすいゲームに過ぎなかった。

生徒会だけでなく、学園生活、自らの人生さえも、思い通りに描くことができた。

我ながら順風満帆で、恵まれた人生だと思っている。

だが、ここに来て、直樹にとって、制御不能のハプニングが起きた。

どうせなら、キレイなお姉さんと入れ替わりたかったが。

少女の姿をした直樹が、不敵に笑った。


「面白くなってきたな」


もっさりとした地味な少女の姿で、くぐもった声で笑う瀬田 直樹を、心配そうに見つめる、美少年姿の華子であった。

 




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