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通用門を開けておけば小次郎の出入りも自由になるのだが、小鳩婦人がそれまで警戒していた野良猫達にもチャンスが巡ることを意味した。そして運悪く、みぃ~ちゃんがヒョイ! と通用門を出たところへ通りかかったのが泥鰌屋のタコだった。タコにしてみれば、オッ! 綺麗なのが出てきたぞ…といったところだ。当のみぃ~ちゃんは、そろそろ来るかしら? 先生…ぐらいの小次郎を待つ気分で出たのだ。このときは幸いにもそれで済んだが、吸盤のようなタコのシツコさはその後も尾を引いた。腕っ節は与太猫のドラほど強くはなかったが、タコはどうしてどうして、与太猫ドラの右腕と目されるだけあって、なかなか狡賢かった。みぃ~ちゃんが出てきた頃合いを記憶して頭に叩き込んだのか、その時分になると、ちょくちょく顔を見せて通用門を窺うようになった。最初のうちは窺うだけでよかったのものが、二匹の出逢いを目にしてから、タコの態度は豹変した。人間世界にもこの手合いはいるが、猫の世界も同じである。
『へへへ…綺麗なねぇちゃんよぉ~、俺とも付き合わねえかっ!』
小次郎が引き揚げたのを見届け、タコはみぃ~ちゃんに近づいて、ニャゴった。人間だと凄んだ・・ということになる。
『フン! なによっ、あんたなんか!』
みぃ~ちゃんがひと目でタコを袖にしたのも悪かった。
『なにっ!!』
タコの闘争本能に火がつき、尻尾を居丈高に振り上げた。そこへヒョコヒョコと現れたのが交番猫のぺチ巡査だった。