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閑話 レイリア(三人称視点)

 ダークエルフ族のレイリア・バウグラウトには昔からある夢があった。

 それは白馬の王子様と結ばれて幸せになることだった。


 この異世界にもシンデレラのような物語があり、不細工な女性がかっこいい王子様に見初められて成り上がるシンデレラストーリーは、乙女心を刺激する夢の物語だった。

 醜い種族のダークエルフ族の女なら誰もが一度は夢見るもので、レイリアも例外ではなかった。 


 しかも頼れる狩人の父とそれを支える優しい母を見て育ったレイリアは、そういった願望が人一倍強かった。

 もちろん里にはダークエルフ族しかいないため、そんなかっこいい男が身近に存在することなどない。

 残念な顔面偏差値の男ばかりだが、いつか自分も同じ種族の者と恋をして、その者と結ばれるんだと考えていた。


 しかし、その考えは二つの出来事によって変化する。



 まだレイリアが幼い頃、ダークエルフ族の里の付近で昆虫型の魔物が巣を作り住み着くようになった。

 自然溢れる森に里を構えているので、普通の村よりも魔物の被害は身近にあったが、種族スキルの植物魔法の前では大抵の魔物はすぐに退治されてきた。

 その時もいつも通り種族スキルを使って魔物を退治しようとしたが、その昆虫型は植物を喰らう種類の魔物だったため、ダークエルフ族にその魔物に対抗する力は無かった。


 さすがに焦った里の者たちは外部からの助けを求めた。

 自分たちだけでは倒せない魔物の危機に直面し、数十年ぶりに外の世界から助けとなる人間を里に招いたのだ。

 それが冒険者だった。

 数人の高ランク冒険者たちはすぐに魔物を巣ごと倒し、依頼の報酬をもらうと体を休むこともせず里から去って行った。


 レイリアは憧れた。

 自分もあんなカッコいい冒険者になりたいと思ったのだった。

 また、その時見た冒険者たちの美しさを忘れられなかった。

 レイリアは、自分が結婚するならあんな美しい相手と結ばれたいと考えるようになった。すると、それまで意識していた同世代のダークエルフ族の男たちが不細工に見えるようになった。


 レイリアの中の白馬の王子様は、同族の男ではなく外の世界の男にすり替わったのだった。

 もちろん、この時は自分自身も不細工だから叶わない夢だと、内心では諦めていた。



 しかしレイリアが10歳になった時、里の教会で唯一神から最上位クラスのジョブを与えられた。

 ダークエルフ族の長い歴史の中でも、下位クラスより上のジョブ持ちは片手で数える程しかいない。

 それでも、良くて上位クラスのジョブであった。

 最上位クラスのジョブ持ちは、ダークエルフ族でレイリアが初めてだった。

 周囲はそんなレイリアを祝福してくれた。

 16歳の成人になると、里の多くの男たちから求婚されるようになったけれども、その全てをレイリアは丁重に断った。

 

 レイリアは幼き頃に夢見たことを実現したいと考えるようになった。

 それは一度は諦めかけたものだった。

 自身は里の不細工な男と妥協して結婚して、ずっと里の中に引っ込んで暮らすものだと考えていた。それが自分に合った幸せだと思っていたからだ。

 しかし、レイリアは種族スキルだけではなく強力なジョブまである。

 里の皆が妥協して同族の者と結婚する中、自分には最上位クラスのジョブがあるのだ。どれだけ自分の顔が不細工でも、私のジョブなら理想の男性と結ばれることができるのではないだろうかと考えた。

 

 こうしてレイリアは、立派な冒険者になることと婚活を兼ねて17歳の誕生日に里を飛び出したのだった。

 

 

 その後、レイリアは順調に冒険者として活躍して、わずか三年で最高ランクのSランク冒険者となった。

 夢の一つである強くて立派な冒険者になることは、こうして短期間で叶えることができたのだった。

 今では生きた伝説とまで言われるほどの熟練冒険者になった。

 ただし、外の世界で美形の男性と結ばれることは叶わなかった。


 まだ大丈夫だと思いながら冒険者を続けて何度もいい男にアプローチを掛けたが、声を掛けるだけで逃げられたり失神されるので成功したためしがない。

 男の方から近づいて来ることもあったが、Sランク冒険者のレイリアのお金目当ての男ばかりで、騙されて散々貢がされては捨てられるだけだった。

 その数49回。

 一番ひどい別れ話は、男が去り際にお前みたいなのブスに興奮できる男なんていねえよ、と笑いながら言われたことだった。

 いい加減、自分に近づく男は信用できないとわかっているが、もしかしたらという可能性が捨てきれなくて、結局いつものパターンとなっている。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 王都でも一二を争う高級宿屋。

 三階建ての最上階の一室は、貴族や名のある豪商といった上客ぐらいしか泊まることのできない部屋だ。そういった者たちが内密の話をするために使用したり、妻に秘密で女性を連れ込む宿の面もあるため、防音はもちろん下手な貴族の屋敷以上に中の様子をうかがう術は皆無と言っていいだろう。

 レイリアは、そんな部屋のキングサイズのベッドの上で己を慰めていた。


「んっ……ふぁん、くぅううん!」


 淡白なエルフ族と違ってダークエルフ族は人並みに性欲があるため、たびたびこうして性欲の発散をしなければならなかった。

 ただ、相手がいないためレイリアは自分で慰めなければいけないのだ。

 夢見る乙女のレイリアは生涯の伴侶のために自分の初めてを大切にしていたが、そもそもそんな相手をしてくれる男は商売男の中にすらいなかった。


「はぁはぁ……ふう」


 火照った体はやるべきことを済ませると急速に鎮まり、熱に浮かされていた頭は冷静さを取り戻した。

 けだるげに体を起こして下着姿の自分を確認するとため息が出てくる。


「……はあ、(むな)しいな」


 そして部屋の惨状を見てポツリと呟く。

 掃除が行き届いて高価な調度品が飾られていた部屋は、床一面に空の酒瓶が散らばり高級宿屋に相応しい部屋の見る影も無かった。

 カーテンから覗く日の出の光をまぶしいと感じながらも、日付けが変わってしまったことを知る。


「また無駄に歳をとってしまった。今年こそ独り身を卒業するつもりだったのに……」


 今年で82歳を迎えたレイリアは、昨日が記念すべき誕生日だった。

 独り身の寂しさを紛らわすために深酒をした結果、興が乗って自分を慰めることにふけっていたのだ。

 そもそも、数日前に届いた里の両親や友人たちの手紙で、両親から結婚をせっつかれていることが原因であった。

 不老長寿のダークエルフ族ではまだ若い世代のレイリアだったが、同世代の友人には既に結婚をしている者もいた。

 それが余計にレイリアの結婚願望を促進させていたのだ。


「やはり、私も諦めて里の男と結婚するべきだろうか」


 自分と同じように里を出た友人たちが、年を経るごとに伴侶を求めることを諦めて里に戻ることを思いだす。


「いや! まだ諦めるのは早い。人間換算でいったら20歳だし、冒険者の私に憧れて思いを寄せる男もいるかもしんしな!」


 プラス思考に切り替えてベッドの上でやる気を出すレイリア。


 起き上がって宿屋の備え付けの鏡で自分の姿を確認すると、昔と変わらない残念な自分が映っていた。

 そこには里を出た時と変わらない若々しい顔があったが、大きくぱっちりとした目やしゅっと通った鼻筋、顔のパーツがコンパクトにまとめられた面白みのない顔があった。

 特に目つきが悪く、大の男たちから気味悪がられていた。

 それに体形が最悪だった。


 スラリとした体に程よくついた筋肉は、それ以上つくこともない中途半端な肉付きをしている。

 そんな体に突如として現れる巨乳。

 胸だけが突出していて体の線をいびつにしている。体全体に肉がついているなら問題ないが、これでは肉の化け物のようだった。

 いっそ胸のふくらみがない方が清々するはずだ。


「これは……相変わらずの私の姿だな。自分でも納得してしまうほどの醜さだよ」


 鏡を見ながらひとり愚痴る。

 また気が重くなってしまったが、今日は冒険者ギルドで依頼を受ける日だったと思い出す。

 すでに一生を遊んで暮らしていける金額を稼いでいるが、里に戻ることなんて考えられなかった。

 里から出るのを両親に反対されたときに、必ず理想の男性と結ばれて戻ってくると大口をたたいてしまったので、今更戻る事は出来なかいのだ。


「私の理想の王子様はどこにいるのだろうか……」


 そんな人物はいないとは考えずに、鬱々とした気持ちで一か月ぶりの冒険者ギルドに向かった。



 久しぶりの冒険者ギルドは、レイリアが初めて来た頃と変わらず賑やかなままだった。

 周囲の冒険者がレイリアを見て噂しだすが、いつものことだと無視して流すと受付カウンターに向かう。

 一般の冒険者ならボードに張り出された依頼書を持って受注するが、レイリアのような高ランク冒険者は、直接ギルドからの依頼を受けるのだった。

 レイリアが何か憂さ晴らしのできる依頼がないか聞きに行くと、受付嬢に詰め寄っている男を発見した。

 

 最初は美人ぞろいの受付嬢に絡む不逞の輩かと思ったが、そのまま様子を見ていると、急ぎの依頼を誰も受注してくれなくて怒っている依頼者だとわかった。

 こちらも命がけで依頼を達成するのだから、無理やりの依頼の押し付けは冒険者のモチベーションに関わる。

 緊急や指名依頼としてならわかるが、ただ依頼を出しただけなら仕方ないだろうと依頼者に対してあきれるレイリア。

 しかし、その間抜け面を拝んでやろうと依頼者の顔を見て固まってしまう。


「はうっ!」


 見た瞬間に、生来の褐色の肌がほんのりと赤く染まる。

 知らず息が上がって下腹部がキュンキュンと疼き、目が潤んでその男しか視界に映らなくなってしまう。

 たまらず無駄にある胸を上から抑えるが、先ほどから動悸が収まらない。心臓がバクバクと激しく動き、頭がくらくらしてくる。

 そこには、幼い頃にレイリアが想像した白馬の王子様にそっくりの男がいたのだった。

 

「あぁ……これは夢なのだろうか。ついに私は理想の相手を見つけてしまった」


 レイリアはその男に一目ぼれをしてしまっていた。

 苦節82年。数多くの男を見ては、よさげな男にとにかくアタックして玉砕する人生だった。

 その中で、ここまでもレイリアの心を熱くさせる男はいなかった。

 レイリアはここが人生の正念場だと思った。

 


 受付嬢と男の会話にタイミングを計って介入する時は、心臓が爆発するのではないかと思うほど緊張したが、最初が肝心だからできるだけ決め顔で話しかけた。


「何やらお困りのようだが、私がその依頼を請け負ってあげようか?」

「……あなたは?」


 突然現れたレイリアを警戒している様子の男だったが、今までの男なら一歩離れてから話に応じるほど脅えられていた。

 レイリアにとってはまずまずの好感触だった。

 

「私はレイリア・バウグラウトと言う。親しみを込めてリアと呼んでくれ! 見ての通りダークエルフだが、これでもソロのSランク冒険者だ」

「はあ?」


 何やら驚いた様子の男だったが、つい興奮してレイリアが肩に手をまわしても嫌な顔一つしなかった。

 驚いたのも急な第三者の出現と話の展開にそうなっただけで、レイリアの容姿を見て戸惑っているわけではないようだった。

 これはイケるのではないか!?

 レイリアは期待に胸を膨らませた。


「ええっと……レイリアさんが依頼を受けてくれるのは嬉しいけど……俺の求めてる素材は、全部厄介な魔物ばかりだけど大丈夫ですか?」


 男が恥ずかしそうにしどろもどろに問いかけてきた。

 その姿があまりにも初々しくて、鼻息が荒くなってしまう。


「ンフゥ! 安心するがいい! 私はSランクの名に恥じない最高位クラスのジョブ持ちだからな! 魔法よりも接近戦の方が得意なのだよ。あと、私のことはリアと呼んでくれと言っているだろう?」


 もしここが人気のない路地裏だったら、そのまま男をジョブの力まで使ってお持ち帰りしてしまうほどレイリアは興奮していた。


「わ、わかりましたよ。リアさん」

「ふふっ、それでいいのだよ。さん付けもなくていいんぞ?」


 本人は努めて冷静でいるつもりだが、どう見ても男に対して発情していた。

 レイリアは自分がじっと見つめても目をそらさずに見つめ返してくれる男に胸がときめいていた。

 しかも、里でも親しい者しか使わせない呼び名を男の口から聞いて有頂天になってしまった。


「依頼を受けてくれるのはありがたいけど、リアさんはどうして俺の依頼を受けてくれるんですか?」

「うむ。君が突然の申し出を疑うのはわかるが、私が求める報酬はお金ではないのだよ……」

「お金以外の何を求めるっていうんです? 俺が出せるものなんて限られていますよ?」


 男が質問してくるが、レイリアの頭の中は沸騰寸前だった。

 自分が何を口走っているのかも考えられないほど、男の反応にうれしくなってしまっていた。

 レイリアは男の頭のてっぺんから爪先まで舐めるように視線を這わせると、鼻息荒く口を開いた。


「べっ、べべ別に難しいことではないのだよ! ただ私とデートしてくれるだけでいいんだ! 頼む!」


 平身低頭して男に対して思わず頼み込んでしまうレイリア。

 何やら周囲が騒がしいが、そんなことを気にする余裕はなかった。

 ただ男に断られるのではないかと戦々恐々としながらも、この白馬の王子様なら引き受けてくれると、願望と期待がごちゃ混ぜになった想いで真摯にお願いしたのだ。

 しかし頭を下げた状態のレイリアは、男の自己紹介を聞かずに勝手に話を進めてしまった自身の失態に気づいた。

 急にこれまでの自分の先走った行動が恥ずかしくなって、プルプルと身を震わせてしまう。


 ……ああ、やっぱり駄目かもしれない。

 レイリアがそんな諦観の念を胸に抱くと、頭上から男の声が聞こえた。

 そして――

三人称視点は今回だけなので読みにくかったらすみません。

素人だから、いろいろ試していきたいのでこういう形になりました。

レイリアの背景や人物像をこの話で知ってもらわないと、変なお姉さんキャラになってしまうので閑話にしました。

なんかあったら感想なりで教えてください。

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