魔法世界に於る科学的物理法則の不可思議
【主題】
異世界ファンタジーに於ては、『魔法』は大抵常識的に存在する事が殆どです。この魔法世界に主人公が転生や転移した際に、元の世界の科学知識を基に戦闘や内政チートをするパターンがあります。
その際の知識不足な描写については一部既述しておりますので割愛致しますが、今回触れたいのはその『科学的物理法則』が当然の様に成立すると考えること自体の違和感と、万一成立した場合の魔法使用時の矛盾的描写について指摘してみたいと思います。
【考察】
まず最初に、科学知識を活用する作品設定に関してですが、魔法を使う際のイメージ力の向上に活用する、というパターンなら未だ主人公の脳内だけの問題なので良いのです。しかし、そもそも何故魔法という科学的法則とは両立しない現象が成立する世界で、既知の物理法則が通用すると疑問も持たずに思い込んでいるのかがお子様的思考であり謎です。
通常なら魔法というファンタジー現象があると分かった時点で、その世界の物理法則自体が異なっており、自分の持つ科学知識は成立しない可能性があるのではないかと一考するものではないでしょうか。
もちろん魔法自体がファンタジー的な謎原理の下に成立しているだけで、世界の物理法則は旧(現代)世界と異ならないという事もあるでしょう。しかしそれならば、主人公に「魔法は謎法則で成立」「何故かは解らないが物理法則は変わらない」といった事を作中の何処かで語らせておくべきかと思います。
次に魔法と共に(旧世界の)物理法則が両立した場合ですが、物理法則が成り立っている以上は魔法でも無から有を生み出すは出来ません。それは魔法ではなく『創造』であり【神様】の成す範疇となります。ならば魔法の火球は空気中の酸素を燃焼させ操作するものであり、水弾も空気中や付近の水分を凝縮させるもの、氷魔法は熱量操作という事で水ではなく実は火魔法に付随し、風魔法は空気そのものを動かすもの[※]でしょう。
であれば魔法により手元に火を生じさせれば自分も熱く感じる筈ですし、迷宮や洞窟などの閉鎖空間で用いれば酸欠の危険性もある筈です。同様に閉鎖空間での水魔法は使用に制限が生じるでしょう。また水を氷にするにはその分の熱量を他の何かに移す事になるので同時に別対象を熱する事になりますし、風魔法で空気の塊や旋風を起こして敵にぶつける程の操作力が有るならば、敵の頭部または呼吸器官のごく周辺を真空にするか、二酸化炭素or酸素濃度を上げる方が余程攻撃として効率的かつ効果的かと考えます(→酸欠または酸素中毒になる)。
【処方】
何も上記の様に細々と全てを記述する必要は無いかとは思いますが、一部の作者の方々の様に
「うっかり手元で火を出したら火傷した」
「洞窟で火魔法連発したら息苦しくなった」
「湖の畔なので水魔法が使い易い」
「屋外で水を凍らせつつ横でスープを温めた」
「敵の口元の空気を濃くして昏睡にした」
といった表現があると、ファンタジー作品とはいえきちんとリアリティのある物語となるでしょう。
(欧米の本格的ファンタジー小説だと、こういった表現もよく目にします)
ファンタジーで『魔法』だからといって余りに安易な設定や使い回しを重ねると、作者の実際の学力がバレてしまうので注意しましょう!!
[※注 地上に於る空気の重さ=1気圧は1c㎡当たり約1kg。この空気の重さにより空気は通常流体として動きます。数㎡の単位の空気を"瞬間的"に動かし、加えて同様の荷重により流体として抵抗が生じる目標までの既在の空気の中を、操作する空気塊を"高速運動させ続ける"というのは速度の二乗分に比例したエネルギーが更に必要です。(本当はもっともっと複雑な計算の筈ですが本注は簡易的に纏めてあります)
→空気抵抗があるので団扇を素早く扇ぐのは非常に疲れますよね。]