不運に・・・
俺はただ自転車を取りに来ただけなんだ・・・。通行の邪魔になるとか何とかで駅の周辺に自転車を置いておくと収容所に持っていかれてしまいしかも罰金まで取られる、だから近くの建設中のビルの敷地に置かせてもらってただけなんだ(勝手にだけど)
女二人に男が向き合いコンクリートがむき出しの塗装されてない壁際にたたずんでいた
最初は工事関係の人たちだと思った、だから俺は息を潜めて早くどこかに行かないかなーとか考えながら身を隠して様子を見ることにしたんだ
なにか口論をしているように見えた。男が二人を問いつめている雰囲気がある、これはなかなか話が終わりそうにないから長丁場だなと覚悟した。この時あきらめて帰ればよかったんだ・・・・・。
俺がどうでもいい覚悟を決めた瞬間だった。男が何処に持っていたのかドでかいカマを握っていた。雑草を刈る時とかに使う物のじゃなくその何倍もの大きさがある凶器だった。
その凶器を男は振り上げていた
瞬間まぶたを閉じていた、怖かったんだ。もしかして何か劇の練習でもしてたんじゃないか?真剣に演じてるところを
盗み見してるなんて俺は性格の悪い奴だな・・・とか希薄なコトを思いながら直ぐ目を開いた
音もなく、風の振動さえも感じなかった。なのに女二人の片方・・・小柄な体だったか・・・今はよく分からない。わからなくて当然だ。腰から上がブっ飛んでいたんだから
灰色だったコンクリートの壁が紅く色付けされていた。胴体がない下半身は倒れずに噴水みたいに血色の水を噴き上げている
何だこれ・・・?現実?現実なら簡単に人が死ぬはずないよな・・・・。たしか今日柑橘系の物食ってないのに、何で喉から口にかけて甘酸っぱい感じがするんだ?しばらくまともな考えができずに自問自答ばかりしていたと思う
気付くと胃液を地面に吐き出していた
警察に連絡しようとか・・・男を捕まえようとか・・・そんな事は一切思い浮かべたくなかった。
殺人現場・・・・まだ進行形だ・・・。なんとなくわかる。もう一人の女も殺そうとしているんだあの男は。
立ち去りたい。脚が言う事を聞いてくれればすぐにでも立ち去りたかった・・・俺にどうこうできるレベルじゃないんだ。体を引きずってでも遠くに逃げるんだ・・・・このビルの建設現場敷地は広いが出入り口は一つしかない・・・・俺が来た方向だ。女を殺し終えた後必ず俺は見つかってしまう。
でも眼が離せなかったんだ。怖いもの見たさとかじゃないと思う。アホか俺は。自分が殺されるかもしれないってのに・・・・・
男が再び凶器を振り上げていた。女は逃げようともせずただ身構えているだけだ。お前も逃げろよ・・・早く・・・横の死体を見て何にも思わないのかよ・・・
男が血で紅くなったカマを振り下ろした。刃の軌道上には女の首がある。
女は確実に死ぬ。首をはねられて・・・死体が増える・・・また殺人という行為が実行される
終わっ・・
「チャッチャチャー!チャッチャチャー!ピロリロピロリロン!!あなたに着信だよ〜!早く電話に出てねー。チャッチャチャー!チャッチャチャー!ピロリロピロリロン!!あなたに着信だよ〜!早く電話に出てねー。チャッチャチャー!チャッチャッ・・・・・」
時間が止まった。確実にこの場にいる三人の動きが一瞬止まった。殺人現場じゅうに鳴り響く大音量の間抜けた着信音。
・・・・・
俺のだ
俺の携帯・・・右のポケットに入れてある俺の携帯の着信音
女と男同時に俺がいる方向に顔を向けた
体の体温がどんどんどんどん下がっていくのがわかる。呼吸さえ難しくなってきた。男がこっちに向かってくる
殺される・・・殺される!殺される!!殺される!!!
俺は出口に向かって走り出していた。不思議なことにさっきまで動かなかった脚が嘘のようにスピードを出してくれている。限界以上の力を出しているせいか脚が棒のようになり息が続かなかった。それでも走った
男は走るのが苦手なのか俺が早いのかは知らないが追いかけてくる足音との距離は結構離れている気がする。気がするだけで後ろを振り向く勇気と余裕は少しも残ってない
もう少しだ・・・もう少し頑張れば敷地の外だ。そうなればもうこっち有利のはず。できるだけ人がいる道を行きながら最短ルートで家に帰るんだ。そうだ途中で警察に連絡するんだ、あと男に家を知られないように帰らないとな
こんな状況なのに以外と冷静な考えできるじゃないかと思う。そして走る勢いを緩めずに敷地の外に飛び出た
瞬間視界が反転した。さらにもう一回転。
その理由をすぐ理解できた。そうか・・・・忘れてた。敷地から出て目の前はすぐ車道だったんだ・・・・・なんだよ・・・俺・・全然冷静じゃなかったんだ・・・・
撥ねられたんだ車に
身体が痛いのか麻痺してるのかわからなくなってくる。見える景色、半分が真っ暗で半分が真っ赤だ。
こんなに簡単に人間は死ぬんだ・・・・知らなかった
そこで俺の意識はなくなった