なごりの鱗にくちづけを
今度の引越し先はどこだと思う?
電話のむこうのアスミの声は、妙にエコーがかかっていた。まるで、カラオケかバスルームにいるみたいに。
「3ヶ月前に引っ越したばかりじゃない。人のこと顎で使って」
そうだっけ? とアスミはとぼける。お互いアラサーだ。少しは落ち着け。
「マキ、こんどは簡単だよ。荷物はなし。なんせ、わたしの身一つだけだから」
「夜逃げでもするの?」
あたしの応えに、アスミが軽く笑う。
「ちがう。海へ引っ越す」
だから、マキ。今から来て、とアスミは言った。
パシャンと水の音がした。
五月、夜の11時。しかも水曜日だ。
とんだ呼び出しじゃん。海に引っ越すとか、わけわからん。あたしは緊張してハンドルを強くにぎりしめる。
「アスミ!」
チャイムを鳴らしてドアを引くと、あっけないほど簡単に開いた。鍵をかけていない、不用心すぎる。
「はいるよー」
と、声をかけると、部屋の奥から「どうぞー」なんてのんきな返事がした。
部屋にあがり、リビングに続く扉を開けて、あたしは呆気に取られた。
「な、なに? 泥棒?」
まるで誰かがめちゃくちゃに荒らしたように、リビングには物が散乱していた。
化粧品、通勤用のバッグ、アクセサリー、ダイレクトメール、コートに下着まで。床一面に散らばって足の踏み場もない。ついでになぜか水浸しだ。
「最悪」
パンツの裾をまくり、濡れた靴下を脱いでジャケットのポケットに突っ込む。
「アスミ、どこ?」
寝室にも見当たらず、もしやトイレかと思ったが違った。
「風呂場ー」
アスミと温泉にも入ったことないんだけど。いいのか、プライベートな場所に踏み入って。
「はやく来てみて」
来て、みて? 扉の向こうに、裸のアスミがいる。あたしは一度深呼吸した。
「ごめんやで!」
思いきってバスルームの扉を開けると、アスミが湯船に浸かっていた。
「なんで関西弁?」
「な、なんか勢いつけたく……て?」
薄目で見ると、アスミの体がやけにでかい。
「ヒレ?」
虹色に透ける立派なヒレが浴槽からはみ出ている。アスミの腰から下が魚になっている。
反射的にアスミの顔を見ると、なんだか勝ち誇ったような笑みを浮かべている。
「朝、目が覚めると、仲條愛澄は人魚になっていた」
まるでカフカの変身の冒頭みたいに話すと、アスミは長い髪をかきあげた。
「なんだそれ!」
「人魚になったんだよ!」
「てか、なんでTシャツだけ着てるの、む、胸が透けてる」
あたしの指摘にアスミは口をへの字に曲げた。
「人魚はブラをしない! でも寒かったからTシャツだけ着た」
あまりな論理に目眩がする。
「いやー、急に水に入りたくなってさ。風呂に入ったら寒くて」
「ブラごと服を脱いだからだろ。追い焚きすればいいじゃん」
あたしの呆れ気味の声に、アスミはかまわず続ける。
「やだ。煮魚になる」
たしかにそうか、と理解するあたしがいる。
「それでTシャツ取りに部屋に戻ったら、足がないから這うしかないじゃない?」
つまりは、這いずり回って部屋がびしょ濡れでごちゃごちゃになったと。
「ね、ここ見て」
アスミがTシャツの首の部分を伸ばして、自分の肌を見るよう、手招きした。
「肩のところに、鱗みたいなアザがあるの分かる?」
「まあ、見ようによっては、そうかな」
アスミの真っ白な肌に目をやられながら見ると、肩のところに思いのほか広範囲にそれはあった。
赤紫のペンで子供が落書きしたような線の集まり。
「わたしが人魚になるのは、運命だったのよ!」
それは思い込みじゃないか、と言いたいのをぐっとこらえて、あたしは本質的な質問をした。
「……なんであたしを呼んだのよ」
目のやり場に困りながら尋ねると、アスミはふんと鼻息を吐いた。
「そんなの決まってる。あんたが一番体格がよくて、車を持ってるからよ」
ああ、どうせそんなとこでしょうよ。
アスミとあたしは高校の同級生だった。
一年三組の廊下寄りの机。あたしの隣がアスミだった。
「ガタイいいね! なんかスポーツしてんの?」
長い髪、白い肌に薄い瞳の色、きれいな二重に長い睫、ほんのり桜色の唇から出た言葉が、あまりに雑で、あたしは言葉を失った。
「……す、水泳」
「どうりで、肩幅すごいわー」
完璧な美少女は、エナジーバーをかじりながら、あたしの肩をバシバシ叩いた。
あたしたちが通っていた高校は私立の女子校だった。
女子校にいても、アスミの容姿は飛び抜けていた。入学して一週間で他校の生徒五人から告白されたけど、全員を蹴散らした。
今にもビンタを食らわせそうなほど、他校の男子を泣くまで詰めていた現場にたまたま居合わせたあたしは、アスミを羽交い締めにして止めた。二人で職員室でお説教を受けた。あたしのは、完全にとばっちりだったけど。以来、アスミが男子に呼ばれたら、同行する羽目に。
誰にもなびかない完璧な美少女、アスミはいつしか「西高の女王」と呼ばれるようになった。そしてお目付け役のあたしは、猛獣使いという不名誉な二つ名をいただいた。
「海に行くより、まず病院で診てもらったらどうかな」
あたしの提案にアスミは、わざとらしく、やれやれといったポーズを取った。
「注射一本打って、人間にもどりましたーなんて、あると思う?」
そ、それは確かにないだろう。どう考えたって。
「それにね、マキ。見ていて」
そう言うなり、アスミは上半身を全部浴槽に沈めた。ごぼり、とかなり大きな息を吐く。体はゆっくりと浴槽の底に沈んだ。水泳をしていたからわかる。肺の息をぜんぶ吐いたんだ。
アスミは両手を胸に乗せて、目を閉じている。あたしは焦った。もう二分は経過した。高校時代水泳の授業をぜんぶサボっていたアスミにできる芸当じゃない。
二分、三分。アスミは不意に目を開けた。不安で水を覗いているあたしと目が合った。あたしは思わず半歩後ずさる。アスミは水中で、にっと笑った。
そして、アスミはようやく体を起こした。
「どう? 完璧に人魚でしょ」
アスミは余裕の笑みを浮かべた。
「海に連れて行って。きっと海の中に、わたしの本当の家族がいるはずだから」
その時あたしの脳裏に浮かんだのは、一度だけ行ったアスミの家と、男子に告白されたときのアスミの叫び声だった。
わたしが挨拶をしてもろくに返事をしなかったアスミの母親。
わたしの何が分かってるって言うの、というアスミの……。
ナビには最寄りの海水浴場をセットした。車を高速道路のインターを目指して走らせる。
あたしは、大きく呼吸を繰り返した。腕も足も、くたくただよ。それなのに、アスミときたら。
「お姫様だっこがよかった。なんで荷物みたいに担ぐの」
元西高の女王さまは、おかんむりだ。
「あのさ、毛布にくるんだ成人女性を運ぶの、どんだけ大変か分かる?」
さすがに、イラッとする。アスミの部屋は三階だ。そこから人目に付かないように、外階段をアスミを担いで降りてきたんだ。いくらガタイがいいとか言ったって、もう足がガクガクだったよ。
「だって、お腹も空いたし」
どこから、だってに繋がるんだ。
「朝から何にも食べてない」
アスミの声がちょっといじけてる。
それはつまり、人魚になってから、という事だろうか。
「人魚って、なにを食べるのかな」
「そりゃ、魚。魚に決まってる。ああ、もう魚の口になった。マキ、買ってきて」
あたしはため息をついた。二十四時間やってるスーパー、このへんにあったかな。頭のなかで地図を検索した。
「エンジン、つけとこうか?」
「切ってっていいよ。暑くも寒くもないから。魚ね、生の魚」
アスミは毛布にくるまって、注文をいい続けてあたしを送り出した。
あたしは、アスミを残してスーパーへ入った。車へ乗せる前に乾いたTシャツに着替えさせてよかった。あと、髪にもドライヤーをあてた。
ぐちゃぐちゃの部屋は片付けなかった。アスミいわく。
「今までずっといい子でいたんだ。最後くらい盛大に迷惑かけてやる」
って、悪い笑顔を浮かべていた。
アスミの家族がアスミに関心が薄いのは、なんとなく感じていた。
アスミはいつだって、朝一番に登校していた。そしてシリアルバーかエナジーバーをかじっていた。
昼は購買からパンかおにぎりを買っていたし、あたしのお弁当から卵焼きや唐揚げを強奪していた。
ついでにいうと、朝食のシリアルバーをかじりながら、あたしがしてきた宿題を丸写しにすることが日課だった。
「魚、さかな、と」
スーパーの店内は、ひんやりとして寒いくらいだ。ジャケットの上から腕をさする。
鮮魚コーナーで、鰯が三尾入ったパックと、保険にまぐろの刺身をカゴに入れた。
十二時近くのスーパーは、客がほとんどいなかった。
美人OL失踪事件にからむ、鮮魚を買う謎の大柄な女として防犯カメラに映っている自分、かと思うと悲しくも笑える。
人魚って家で暮らせるのかな? 人魚ってか、アスミが。
人魚になる前だって言えなかった言葉を、いま。
「箸はお付けしますか?」
レジの男性から声をかけられて、顔をあげた。
「魚、あった?」
「これ」
あたしがレジ袋をアスミに渡すと、待ってましたとばかりに両手を伸ばす。
「鰯だ! ぷりぷりしてる」
鼻唄をうたいながら、アスミは鰯のパックを開けた。どうするか見ていると、アスミは魚に豪快にかぶりついた。
かぶりついて、数秒。徐々に眉間へ皺がより……。
「ここは、マキの顔を立てるわ」
「なんの顔だよ」
アスミは鰮を一口で断念したようだ。レジ袋へ鰮をしまうと、マグロの刺身を取り出した。
「ちょっ、毛布で手を拭かないでよ」
あたしはダッシュボードからウェットティッシュを出してアスミに渡した。
「マキはいつでも準備万端」
「あんたのお陰でね!」
あたしは前を向いて、エンジンのスタートボタンを押した。
「ねえ、醤油がないんだけど。ワサビも」
人魚になっても、醤油と薬味が必要なんだ。あたしはちょっと吹き出した。
「箸があるだけ、よしとして下さいませ。人魚姫」
車をスーパーの駐車場から出す。幹線に戻って高速のインターを目指す。
「しかも四割引の刺身かよ」
恨めがましく呟くアスミは、それでも鮪の刺身を次々口に入れていく。
「ゆっくり食べな」
あたしは胸ポケットからタバコを一本取り出すと、シガーライターで火をつけた。つかの間、暗闇に灯りがともる。
「窓開けるよ。魚臭くてたまんないから」
「マキ、タバコ吸ってたっけ?」
刺身を食べ終わったらしいアスミが、あたしに問いかけた。
「たまにね。日に一本か二本」
ふう、と煙を吐く。煙は後部座席から外へ流れる。
「水泳、やめたから?」
「そんなとこ」
「タバコに火をつけたときのマキの横顔、かっこよかった」
「今ごろ気づいたか」
カッコつけて言ってから、二人でけらけら笑いあう。
夜の風が車内を駆け抜けていく。少し暖かくて、少し湿っていて。
「海に着くまで、寝てていいよ」
「うん。ありがと、マキ」
結局、アスミの願いを叶えてやりたいって、思う。高校のときから。
あと一時間たらずで、アスミとバイバイする。現実味が感じられないけど。
車は高速道路に入った。
アスミを起こさないよう、ラジオの音は低めに。ルームミラーをのぞくと、眠っているアスミの顔が半分見えた。
ときどき差し込んで車内を通り抜ける、オレンジ色の明かり。アクセルを踏み続ける脚がふるえる。
いつか訪れると思っていた。
アスミから結婚すると言われる日が来ることを。誰かにアスミをさらわれることを。
式に呼ばれる。最高にキレイなアスミにおめでとう、なんて言う。泣きたいのをこらえて。次はマキだからね、なんてブーケ渡されたら……とか。そんなことを考えて、やるせなくてタバコに火をつけていた。
まさか人魚になるとは想定外だったけど。でも、アスミが人魚になることがしっくりきている自分がいる。
水泳の授業に出ないアスミが、放課後にソックスを脱いで見せてくれた爪先は、虹色に塗られていた。
「ペディキュアはダメって、校則にはないよね?」
いたずらっぽく笑うアスミの爪先に、あたしはしばらく見とれていた。夕日で赤く染まる教室はそこだけ別世界だった。
人魚になったアスミのヒレは、あの日の色と同じ虹色なんだ。
結婚されるより、ずっといい。人魚になって、海に消えるなら、そのほうが。
「海のにおいがする」
寝ていたはずのアスミのかすかな声が聞こえた。まだ海は見えない。インターを降りても海水浴場まではまだ距離があるはずなのに。
終わりなんだ。
あたしは、喉がひりつくのを感じながら、涙をこらえた。
海水浴場の駐車場は、がらんとしていた。人気はなく、波の音がするばかり。
時刻は深夜2時。卵形に見える月が、沈まずに空にある。
ここから、防潮堤をくぐればすぐに海だ。車から降りると、風に潮気を感じる。あたしは後部ドアを開けた。
「アスミ、あたしの肩につかまって」
アスミは素直にうなずき、あたしの首に手を回す。毛布はもういらない。あたしの頬にアスミの柔らかな乳房が布越しに当たる。
はあ、と深く息を吐いたなら。
「よいしょー!」
腰辺りまで肩に乗せるようにして、アスミを車からだした。
片足でドアを蹴って閉めると、アスミが拍手をした。
「すごい! さすが!」
「ち、ちょっとだまれ」
あたしはアスミを担ぎ直す。上半身まで、肩に乗せ、魚になった元足の辺りを腕に抱く。
「ああ、海だ」
ため息をもらすようにアスミはつぶやいた。月光に照らされるアスミは、どこから見ても人魚姫だ。
あたしは海へ向かう。一歩一歩、アスミとの別れが近づく。
アスミを抱く腕や手のひらに、ざらざらとした感触がある。鱗だ。海へ近づくにつれ、鱗がどんどんアスミの肌を覆っていく。もうアスミの腕も首にも鱗が光る。
「アスミ、クラゲに気をつけて。あと、鮫とか、ウツボとか、それからえーと」
あたしは海の危険生物を思い出そうとしたけど、頭がうまく回らなかった。
アスミを担いで歩く重さで、スニーカーが砂にめり込む。アスミはやけに無口で、もしかしたら完全な人魚になって、ヒトの言葉を忘れたんじゃないかと胸が冷えた。
「ここでいいよ」
波打ち際まであと少しというところで、アスミはあたしに言った。
湿った砂の上にアスミを下ろすと、アスミは唯一身につけていたTシャツを脱いだ。
アスミの上半身も、予想通り鱗に覆われていた。月のもとで、アスミのからだは鈍く光った。
「マキ」
名前を呼ばれて、あたしはアスミと目線を合わせた。
「このTシャツを、わたしだと思ってね」
膝から崩れそうになった。ここにきて、これかよ。
「ずっと迷惑かけたね」
「ほんとだよ」
「わたし、幸せになるから」
「クジラやイルカに惚れられろ」
「それいいね。人魚姫にふさわしい」
どういいのかわからないが、アスミは思うよりはやく、海へと身を沈めた。
白い波間に、アスミはしばらく遊ぶと身を翻して、沖へと泳ぎ始めた。
「マキー!」
振り返ってアスミは叫んだ。
「なにー」
「わたし、マキのこと、わりと好きだったよー」
わりと、ってなんだよ、わりとって。
「こっちの気も知らないで、はらたつ!」
あたしは沖に向かって、声を張り上げた。
「アスミのバカー! わがままオンナー!」
ちくしょう、涙が出てきた。アスミのTシャツで顔をぬぐう。
「アスミー! 好きだよー!」
きっと聞こえやしない。絶え間ない波の音は浜に押し寄せる。月は沈み、空が白み始めた。星が消えていく。
あたしは沖へ沖へと泳ぎ去っていくアスミを、いつまでも見つめていた。
陸風に背中を押され、足元を波が洗う。
と、突然、アスミの腕が波間にみえた。まるで空をつかむように、何度も何度も突きあがる。
まって、あれ、溺れてるんじゃ……!
「アスミ!」
靴を放るように脱ぐ、ジャケットも脱ぎ捨てると、あたしは海に飛び込んだ。
アスミの腕、顔がときどき見える。泳げ、泳げ、キックを打て腕をかけ。
「アスミ!」
あたしはアスミの髪をつかんだ。
「いたっ、いたーい!」
「大丈夫、もう大丈夫だから落ち着いて!」
あたしはアスミの腕を引いた。脇に手を入れて引き寄せる。
「わたし、わたし……」
アスミは泣いていた。胸くらいの深さまで戻ったとき、アスミのからだから鱗が消えているのに気づいた。
ぐったりしたアスミの肩を抱いて浜辺へ戻る。
「アスミ、足?」
アスミの腰から下はヒトになっていた。虹色の尾は消えて、白くすらりとした足になっていた。
「なんで? 海の底に町があるのが見えたのに、なんで足に……」
「アスミ」
そこまで言って、ぎょっとする。アスミは裸の状態だ。
「ちょっ、アスミ、泣いてるとこ悪いけど、まずこれ着て」
あたしは浜辺に脱ぎ捨てたジャケットを着せかけ、車まで全力で走った。車の後部座席から毛布を取ると、来た道をまた引き返した。
浜へ戻ると、アスミが体育座りして海を見ていた。
「あと少しだったのに。なんで」
あたしはアスミの肩へ毛布をかけた。
「突然人魚になったから、こんどは突然ヒトになったんじゃない?」
「そんな、バカなこと」
そんなバカなことが起こった一日だったね。
「アスミ、あたしはやっぱりあんたが陸にいて欲しい」
アスミの髪に絡まった海草をとりながら、あたしは言った。
アスミがいつか誰かに取られる日が来ても、アスミにはここにいて欲しい。
アスミは大きな目をぱちくりとさせた。
「バカって言った」
「は?」
「マキがわたしに」
「な、なんで聞こえたはずは……」
「人魚仕様だったのかな。ハッキリ聞こえた」
なんだよ、人魚仕様って。防水仕様みたいに言うなよ。
「それで……あ、マキ、好きって」
しくじったー! それも聞こえていたかー!
「そ、それは、あの、ものの弾みというか」
あたふたするあたしに、体育座りのまま、横目でアスミが声を潜めて言った。
「……両思いじゃん」
「なんて、今なんて! もう一回言って、アスミさん!」
詰め寄るあたしの唇に、アスミの唇がぶつかった。キスなんてしろものじゃない。
「事故みたいになっちゃった」
アスミの顔が真っ赤に染まった。それはあたしも同じだったろう。
「わたしも、好きって海に叫べばいい?」
アスミが、あたしをからかうように笑った。アスミの肩に、少しだけ鱗の輪郭が残っているのに気づいた。あたしは、アスミを引き寄せ鱗の名残にキスをした。
アスミはくすぐったそうに、朝日のなかで笑った。
おわり




