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何ひとつ永遠なんてなく、いつか、すべてにかえるのだから、君はうつくしいと

作者: 爱丽丝
掲載日:2026/04/15

彼女は、よく消えそうになる人だった。

初めて会ったのは、放課後の理科室。窓から差し込む光の中で、彼女はガラス瓶を透かして見ていた。まるで、自分がそこにいないみたいに。

「何してるの?」

声をかけると、彼女はゆっくり振り向いた。少し驚いた顔のあとで、すぐに笑う。

「光を見てたの。ほら、きれいでしょ」

そう言って差し出された瓶の中には、ただの水しか入っていない。けれど、確かに光は揺れていた。形のないものが、そこにあるみたいに。

それから、時々一緒に過ごすようになった。

彼女は名前を教えてくれたけど、不思議と呼ぶ機会は少なかった。代わりに、どうでもいい話をたくさんした。好きな音楽とか、昨日見た夢とか、将来のこととか。

でも将来の話になると、彼女は決まって少し遠くを見る。

「ねえ」

ある日、彼女が言った。

「ずっと続くものって、あると思う?」

少し考えてから、俺は答えた。

「あるんじゃない。少なくとも、そう思いたい」

彼女は小さく首を振る。

「私はね、ないと思う」

その声は、やけに静かだった。

「何ひとつ永遠なんてなくて、いつか、全部元に戻るの。形がなくなって、混ざって、わからなくなる」

理科室の窓の外で、風が木を揺らしていた。

「でもさ、それって悲しくない?」

思わず言うと、彼女は少しだけ笑った。

「ううん。だからこそ、きれいなんだよ」

その言葉の意味を、そのときの俺はちゃんと理解できなかった。彼女が学校に来なくなったのは、それからすぐだった。

最初は風邪だと思った。次は、用事かなって。でも一週間、二週間と過ぎても、彼女の席は空いたまま。

誰も詳しいことは知らなかった。ただ一度、担任が言った。

「しばらく休むそうだ」

それだけだった。

気づけば、理科室にも行かなくなっていた。

あの場所に行けば、また彼女がいる気がして。でもいない現実を見るのが、少し怖かった。

それでも、ある日の放課後、ふと思い出したように足が向いた。扉を開けると、あのときと同じように光が差し込んでいる。けれど、そこに彼女はいない。

代わりに、机の上に一つだけ、ガラス瓶が置かれていた。

中には、水。そして、揺れる光。

瓶の下に、小さな紙が挟まっていた。

「君は、たぶん忘れてしまうと思う」

そんな書き出しだった。

「私のことも、この時間も。人はそうやって生きていくから」

読み進める手が、少し震える。

「でもね、それでいいんだよ。全部が残ってしまったら、きっと重すぎるから」

窓の外の光が、瓶の中で揺れる。

「何ひとつ永遠なんてなくて、いつか、すべてにかえるのだから」

最後の一行だけ、少しだけ文字がにじんでいた。

「君はうつくしいと、私は思う」

紙を持つ手が止まる。

そのとき、やっとわかった気がした。

彼女が言っていたこと。消えていくから、今がある。

残らないから、触れた瞬間が特別になる。

瓶の中の水は、ただの水だ。

けれど、そこに映る光は、二度と同じ形にはならない。

彼女も、きっとそうだった。

もう会えないかもしれない。

名前も、そのうち思い出せなくなるかもしれない。

声も、仕草も、全部。それでも。

あの放課後の光だけは、なぜか消えなかった。

揺れて、歪んで、それでも確かにそこにあった。

だから俺は、瓶をそっと持ち上げて、光に透かした。

何も残らない世界の中で。

それでも、確かにここにあったものを、見失わないように。彼女が言った通りに。その儚さごと、美しいと思えるように。


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― 新着の感想 ―
国語の教科書の文ですよね。(^_^)
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