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【第5章開始!】「愛はない」と言われた契約妻ですが、子供たちを愛でるのに忙しいので旦那様は空気として扱います  作者: 月雅
第5章

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第4話 兄妹の秘密



(あの二人が静かな時は、大抵ろくなことがないわ)


 子供部屋の扉の前で、私は足を止めた。

 普段なら賑やかな声が聞こえてくる時間帯なのに、今日は不気味なほど静まり返っている。

 ソフィア先生の授業はとっくに終わっているはずだ。


「……ここをこうして」

「うん、リナはこっちをぬるね」


 扉の隙間から、ひそひそ声が漏れてくる。

 悪い予感しかしなかったが、同時に微笑ましくもあった。

 子供たちが秘密の計画を立てている時の、あの独特のワクワクした空気を感じるからだ。


 私は気配を消して、そっと中を覗いた。


 部屋の中央、ラグの上に、ルカとリナが頭を突き合わせて座っている。

 彼らの周りには、色画用紙やリボン、絵の具、そして……何かの布切れが散乱していた。


「できた! あかちゃん、よろこんでくれるかな?」


 リナが絵の具だらけの手で、何かを持ち上げた。

 それは、歪な形の、ぬいぐるみのようなものだった。

 布切れを縫い合わせ(というより、縛り合わせ)、綿を詰めた謎の物体。

 目と思われるボタンが三つ付いていて、どれが顔なのか判別が難しい。


「うん、すごいよリナ! きっと喜ぶ!」


 ルカが太鼓判を押す。

 彼の手元には、画用紙で作った冠のようなものがある。

 『ようこそ』と書かれているが、文字が左右反転していたり、大きさがバラバラだったりする。


「よし、これを隠さなきゃ。……ママに見つかったら、びっくりさせられないもんね」


「うん! ママにはないしょ!」


 二人は慌てて制作物をクローゼットの奥に押し込み始めた。

 どうやら、これから生まれてくる赤ちゃんへのプレゼントを作っていたらしい。

 「秘密」の正体を知って、私は胸が温かくなった。


 でも、ここで出て行くのは野暮というものだ。

 私は静かに扉から離れ、足音を立てて廊下を歩き直した。


「ルカ様、リナ様。入ってもよろしいかしら?」


 わざとらしく声をかけてから、ノックをする。

 バタバタと走り回る音がして、数秒後に「はーい!」という元気な返事が返ってきた。


 扉を開けると、二人は何食わぬ顔で積み木遊びをしていた。

 ただ、リナの頬に青い絵の具が付いているのと、ルカの袖から糸くずが垂れているのは見なかったことにしてあげよう。


「あら、楽しそうね。今日は何をしていたの?」


「えっと、なにも! つみきで、おしろつくってたの!」


 リナが焦って答える。嘘をつくのが下手すぎて愛おしい。


「そう。お城もいいけれど、手や顔が汚れているわよ?」


 私がハンカチでリナの頬を拭うと、彼女は「あちゃー」という顔で舌を出した。


「ママ、あのね」


 ルカがおずおずと切り出した。


「あかちゃんって、いつうまれるの?」


「そうねえ。あと三ヶ月くらいかしら。秋になって、紅葉が綺麗な頃よ」


「さんかげつ……長いなあ」


 ルカが指折り数えて、ため息をつく。

 子供にとっての三ヶ月は永遠のように長い。


「でも、その間に準備できることがたくさんあるわ。……お兄ちゃんになる心の準備とかね」


 私が言うと、ルカはハッとして背筋を伸ばした。


「ぼく、もうじゅんびできてるよ! 剣の稽古もがんばってるし、ソフィア先生の宿題もおわらせたもん!」


「まあ、偉いわね。……でも、一つだけ心配事があるの」


「しんぱいごと?」


 私は少し声を落とし、秘密めいた口調で言った。


「赤ちゃんが生まれたら、ママは忙しくなるでしょう? そうしたら、あなたたちと遊ぶ時間が減ってしまうかもしれないわ」


 それは、私がずっと気にかけていたことだ。

 下の子が生まれると、上の子が寂しい思いをするのは世の常だ。

 「赤ちゃん返り」を心配しているわけではないけれど、彼らが疎外感を感じないようにしたかった。


「……うん、しってる」


 ルカは少し寂しそうに目を伏せたが、すぐに顔を上げた。


「でも、だいじょうぶ。僕たちが、あかちゃんのお世話を手伝うから」


「えっ?」


「リナも! ミルクあげるの、てつだう!」


 リナも張り切って手を挙げる。


「ママが大変なら、僕たちが助けてあげるんだ。……だって、家族だもん」


 ルカの言葉に、私は目を見開いた。

 いつの間に、こんなに頼もしくなったのだろう。

 守られるだけの存在から、守る側へ。

 その成長の速さに、嬉しいような、少し寂しいような気持ちになる。


「ありがとう。……本当に、頼もしいわ」


 私は二人を抱きしめた。

 お腹の赤ちゃんが、ポコンと動いた気がした。

 まるで、兄姉の言葉を聞いて喜んでいるかのように。


「あ! いま、うごいた!」


 私に抱きついていたリナが叫んだ。


「ほんとう? 僕もさわりたい!」


 ルカが慌てて私のお腹に手を当てる。

 シーンと静まり返り、三人が息を潜める。


 ポコッ。


 小さな、けれど確かな衝撃。


「うわぁ……! 生きてる!」


 ルカが目を輝かせる。

 リナも「こんにちはー!」とお腹に向かって話しかけている。


 その夜。

 寝室で、私はカイド様に今日の出来事を報告した。

 クローゼットに隠された「秘密のプレゼント」のこと。

 そして、二人の頼もしい宣言のこと。


「……そうか。あいつら、そんなことを」


 カイド様は目頭を押さえ、天井を仰いだ。

 感動屋のパパは、すぐに涙腺が緩む。


「俺がいない間に、どんどん大きくなっていくな」


「ええ。でも、その成長を見逃さずにいられるのは幸せなことですよ」


「全くだ。……あの謎のぬいぐるみ、早く見てみたいな」


「ふふ、驚くふりをしてあげてくださいね。……ボタンの目が三つもある、可愛い怪物ですけれど」


 私たちが笑い合っていると、窓の外からフクロウの声が聞こえた。

 静かな夜。

 この屋敷には、たくさんの愛と、小さな秘密が隠されている。

 それらが花開く秋の日を夢見て、私たちは今日も眠りにつく。


 新しい家族が増えるということは、幸せが増えるということだ。

 兄妹の秘密を知ってしまった私は、それを守り抜く「共犯者」として、彼らのサプライズ計画を陰ながらサポートすることを誓った。

 絵の具が足りなくなったら補充してあげよう。

 布切れが必要なら、裁縫箱をわざと忘れておこう。


 それが、母としての私の、ささやかな楽しみなのだから。


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