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6ー2

「ゼスお前、体はもう何ともないのか?」

「兄上もしつこいですねぇ……見た目が派手だっただけで、もう治りましたよ」

 首を動かして、顔の左側が兄に見えるようにする。瓦礫が当たった時の傷がぱっくり開いていたのだが、今ではふさがっている。

「そうは言ってもね、ゼス、あなた一週間も寝込んでいたのよ? ハルトだって二日寝込んだし……まったく、あなた達は心配ばかりさせるんだから」

「……ごめんなさい、姉上」

 ゼクルスとアインハルトの声が重なる。

 使用人の話では、弟二人が廃坑から帰ってきた時は、傷の手当てや崩落の後処理に奮闘してくれたらしい。


(あーぁ、これでまた姉上に頭が上がらなくなった。面倒くさいなぁ、僕悪くないのに)


 元気で忙しく飛び回っているように見えても、やはりファナの裏切りはショックだったらしく、メイドの報告では食事を残しがちらしい。

 王都に戻ることも、なんだかんだと理由をつけて先送りにしている。


「兄上こそ、ドラゴンへの謝罪はうまくいったんですか?」

「……まぁまぁだな。怒り狂うドラゴンの王をコルヌとグラナートがとりなしてくれたお陰で、何とか生きて帰って来られたよ」

 アインハルトには、ファナ一派に攫われて兵器にされていたドラゴンへの謝罪と補償のために、彼らの帰途に同行して貰ったのだ。

 その間ゼクルスは王城へ伺候し、ゆがんだ宝剣を持って、騒動の顛末を報告していた。もちろん、ファナが輝石術を研究するために戦を起こそうしていたことは伏せて。

「姉上が王都に帰らない理由を、妹のように可愛がっていた娘の醜聞に傷ついて寝込んでます、って伝えておきましたよ」

「ふふっ、ありがとう、ゼス」

 エレインが微笑んだところで、ノックの音。

「皆さま、アイラです。ホットミルクをお持ちしました」

「ありがとう、入ってくれ」

 ワゴンを押したアイラが入ってきて、ホットミルクを用意してくれる。たっぷりの蜂蜜と一緒に。

「僕の方はなんというか……もっと難癖つけられると思っていたんですが、すんなり領主になれましたよ」

「あぁ、その格好を見れば分かるさ。なかなか似合ってるじゃないか」

「そうね。いつものつなぎ姿より、こっちの方が素敵よ」

「そりゃどうも。……僕はつなぎの方が好きですけどね」

 今のゼクルスは白いシャツに濃紺の三つ揃いを着て、首元に琥珀のループタイ、左目には眼帯をつけている。

 若き侯爵にはふさわしい装いだが、輝石術に没頭できるのはいつになることやら、と嘆息したものである。

「ん? アイラ、数を間違えているぞ」

 訝しげなアインハルトの見る先、テーブルの上にはホットミルクが四つ。

 ゼクルスの隣、誰もいない席でも同じように湯気を上げていた。


「も、申し訳ありません、坊ちゃま。つい、いつもの通りに……」

「いいんだよ、アイラ。僕が二つ飲むから」

 アイラが誰のために用意したのか、兄と姉も気づいたようだ。

「……そうだな。書類仕事は意外と体が冷えるだろう。アイラ、湯たんぽを持ってきてくれないか」

「そうね、膝掛けもお願いするわ。それまでこれを使いなさい、ゼス」

「かしこまりました」

 姉の肩掛けにくるまれた頭を兄になでられているゼクルスを見て、アイラは目の端を拭って部屋を出た。

「いきなり何ですか? 二人とも僕を子供扱いして……とにかく、ファナの処分について相談したいんです」

 兄の手をおろし、ホットミルクを飲みながら話す。


 ファナとゼクルスの婚約は、もちろん白紙に戻す。

 対外的には、鉱石の横流しに対する処分ということにする――と。


「……妥当だな。社交界で醜聞になるのは避けられないだろうが、戦云々を知られるよりはよほどいい。姉上もしばらくリンツに居れば、口さがない輩から身を守れるでしょう」

「仕方ないわね。家には手紙でも送っておくわ」

「お手数をおかけします、姉上」

「まぁ、姉上がしばらくいてくれるのなら、俺がいなくなっても大丈夫だな」


 それは、冷や水を浴びせるような言葉だった。

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