表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/29

5ー3

 叫んで。

 伸ばした手の先で。

 いつの間にか拘束を脱したアインハルトが、宝剣を抜いてドラゴンの牙に叩き付けた。

 ばきっ、と音を立てて吹っ飛び、ゼクルスの背後に落ちる牙。


「グゥエッ、ゲウッ」

 ドラゴンはというと、驚いてアインハルトを吐き出し、むせて咳き込んでいる。


「兄上! 怪我は?」

「大丈夫だ! それよりも指輪をよこせ!」

 危なげなく着地した兄に指輪を投げると、宝剣の柄を叩き付けて破壊。


「な……何するのよ! それを作るのがどれだけ大変だったと思って……っ!」

「悪いな。また同じ物を作るにはさぞや時間がかかることだろう」

 眉をつり上げたファナをあしらうと、ドラゴンの唾液まみれの体を気持ち悪そうに震わせた。


「……はぁ、無事で何より……宝剣は仕方ないですね。継嗣の資格なしと難癖つけられた時の、言い訳を考えなくては」

 儀礼用の短剣は、ドラゴンの牙を折るような衝撃には耐えられなかったようで、激しくゆがんでいる。

 これではもう、ベルンシュタインの家督を継ぐことは認められないだろう。

「いや、何も問題はない。領主にはお前がなればいいんだ。そうすれば、ファナは俺達に手出し出来なくなるからな」

「本気ですか、兄上?」

 ぐっ、と黙るファナを横目に、アインハルトは言葉を続けた。

「俺は宝剣を失い、目下のところゼスが唯一の継嗣となった。ベルカルニエでは女性は家督を継げないし、姉上には娘しかいないからな。無論夫はいるが……さすがに遠すぎて、ゼスのようにほいほい望み通りには動くまい」

 アインハルトは祭壇に転がった牙を拾い上げ、刻まれた古式文字をなぞった。


「唯一の跡継ぎが心身に異常あり、などと王家に知られてみろ。所領は王家預かりとする、と喜んで言ってくるぞ。……婚約者でしかないお前には、さして金も権力も残らないな。我が弟は腹芸が下手なのだが、愛する婚約者の為に自然な受け答えができるといいな」

 口角を釣り上げたアインハルトは、指輪の残骸へ顎をしゃくる。

「そういえば、指輪の最終調整はまだなんだったか? ……いや、もう詮無いことだな。ああもバラバラになってしまっては」

 明確な嘲笑に、みるみるうちにファナの顔が紅潮した。口元が震えているのは、怒りの余り言葉も出ないのだろうか。

 

(……なるほど。ファナはどうがんばっても何も取り戻せなくなったわけか)


 三姉弟のうち誰を殺しても、指輪をまた作って洗脳しても、結局所領は王家預かりになってしまって、ファナの思い通りには決してならない。

 むしろベルンシュタインという庇護者がいなくなって、研究どころか生活に困る事になるかもしれないのだ。


「実の所、お前は本気で俺を殺すつもりは無かったんだろう? 俺たち兄弟に対して、互いを人質として行動を縛る心算だった。宝剣を取り上げなかったのは、仮に俺が死んだ時、人物を特定する手がかりにするためか?」

「ご高説どうも。でも、人質はまだいるのよ?」

 ドラゴンの唸り声を背景に、三つ編みの根元につけていた髪飾りを外して掲げる。

「これを壊せば、エル姉様の髪飾りから毒針が出るようになってるんだから」

「……やっぱりか」

 余裕を取り戻したらしいファナの言葉に、ゼクルスは何も思うことができなかった。

「なるほど、俺を攫ってからそんな事をしていたのか。やっぱり、と言うならば、姉上は無事なんだろう?」

 しかし、弟が想定通りに動くと疑っていない兄の言葉に、突如としてイライラがわき上がってくる。

「……まぁ、とっくに壊しましたけど。兄上のその……『自分は全部分かってました』ってツラ、僕大嫌いなんです」

「……いや……それ、今言う必要あるか?」

 ドラゴンの咆哮が、兄弟の睨み合いを終わらせる。

 ファナが髪飾りを投げ捨てると、ディランが素早くお下げをお団子状にまとめた。


「今すぐ決めて! 私に従うか、ドラゴンに殺されるか!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ