4ー1
「も、申し訳ありません、アインハルト様。その……元来冷え性なもので」
「はぁ……マルバスよ、食生活から見直すように」
アインハルトの首筋に触れたのは、冷え切った若い職人の手で、思わず叫び声をあげそうになってしまったのだ。
「どうかご容赦ください」
五人の職人全員が頭を下げたので、アインハルトは気にしていない、と手を振った。
かつてベルンシュタイン家が、岩塩鉱山の廃坑に作った輝石術の研究所、その一室。
アインハルトに接触してきたのは、攫われてきたという職人達だった。
中でもマルバスという男はアインハルトと同じ十九歳で、ベルンシュタインのお抱え職人の中では付き合いが長い方である。
「君たち、体は何ともないのか? 監禁や暴行をされている風でもないが」
ここはどうやら休憩所のようで、椅子とテーブル、温かいお茶まで出てきたのだ。
「あぁ、その辺は心配ありません。外に出られないだけで、衣食住は保障されてます。研究に必要な資料や資材も潤沢ですし」
「むしろ、外で仕事していた時よりも、研究環境としては恵まれているくらいですよ」
お茶をすする職人達の顔には、疲労の色はあまり無い。
「ま、家族を人質に取られてちゃ、出たくても出られませんがね。太陽の光が恋しいですよ」
「家族を人質に?」
彼らの言葉に、アインハルトはごくりと唾をのむ。
「はい。捕らえられている訳では無いのですが『従わなければ家族を殺す』と言われてましてね」
年かさの職人のため息に、他の職人達もうなずく。
「そうか……君たちは『走狗』の研究をさせられているな? 生物を兵器として扱えるように」
目を見開く職人達に、施術されたドラゴンが砦を襲った事を伝える。
「まさか!」
「残念だが事実だ。守備隊は全滅、生き残りは救助に行った兵士一人と、女子供二人だけ」
調査によって、何者かがドラゴンを操っている事は確定したと続ける。
「外では、そんな事になっているとは……」
顔を覆う手の隙間から、絞り出すようなマルバスの声。
生物を意のままに操ろうなどという芸当は、『走狗』無しには難しいだろう。
そして、『走狗』の存在を知っている人間は限られる。
エレイン、ゼクルス、ファナの三人。
そして、犯行は誰にでも可能だ。
アインハルトの拉致にしても、この三人なら警備もくそもあったものではない。
使用人達が身内を疑うはずも無いからだ。
(動機は気になるが……せっかく中に入れて貰ったんだ。この機会は生かさないとな)
アインハルトは、咳払いをして職人達を見渡した。
「君たちは俺を逃がし、家族を助けてもらおうと接触したのかもしれない。だが、俺はその程度で収めるつもりはない」
そして、静かにこう宣言する。
「リンツ領主代行、アインハルトが命じる。直ちに『走狗』の無効化と、囚われている獣たちの解放に向けて行動せよ。その後、この研究所は潰す」
彼らは一斉に膝をつき、頭を垂れた。




