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3ー3

「……ふぅ、こんな感じでいいか」

 砦調査から数日が経ち。

 傷の癒えたゼクルスは、いそいそと食堂に花を準備していた。

「ぼ、坊ちゃま! そのような事は私どもがやりますので、お休みになって下さい! まだお怪我が……」

 若いメイドが血相変えて止めに来たが、気にせず手を動かす。

「大げさだなぁ、僕はかばって貰ったから無傷みたいなものなんだよ。それよりも、姉上の誕生日を祝う準備をしておかないと、どんな目に合わされるか……僕はそっちの方が怖いんだ」

「エレイン様が……でございますか?」

「そうだよ。年に二、三回しか来れない……というか来なくていいけど、君は会った事無かったっけ? あ、兄上も準備している体にしないと怒られるぞ……何をしてるんだろう? 呼んできてくれ」

 かしこまりました、と頭を下げるメイドを見送る。

 食堂を見回して、一息ついた。

 長い食卓を包む純白のクロスには染み一つなく、二つある花瓶には庭師が丹精込めて育てた花を生けてある。


(これでももう、やるべきことは全てやったな……後は運を天に任せ、姉上の機嫌がいいことを祈ろう)


 やがて、使用人達がご馳走をテーブルに並べ、入り口を挟むように整列する。

 リウスが静かに扉を開き、使用人達がお辞儀をする中、ファナが銀髪の女性と手を繋いで歩いてきた。

「ゼス! エル姉様が帰ってきたよ!」

「はぁい! 元気にしてたかしら、可愛いゼス?」

「お、お帰りなさい……姉上」

 ちょっとした達成感も、抱きしめられて吹っ飛んでしまう。ぎゅうぎゅうと締めつけられて息ができない。

「うぅ……姉上、苦しいです、放して下さい……」

「ふふっ、そんなぁ、照れなくてもいいのにぃ」

 長身に切れ長の目で、ツンと澄ましていれば凜々しい美貌のエレインだったが、弟とファナの前ではへらへらとだらけた顔になっている。

「エル姉様とゼスって、本当によく似てるね。姉弟というか……姉妹みたい」

 ファナの不用意な台詞に、ゼクルスは怖気立った。

「あ、姉上! 贈り物を用意してあるんですっ!」

 ゼクルスは素早く、リボンを巻いた小箱を差し出す。


 何せ、幼い頃は本当に姉妹に間違われ、エレインにむりやり女の子の服を着せられたこともあった。

 そんな姿を婚約者に見られては男の沽券に関わるので、必死で姉から逃げ回っていたのだ。

 ――幸いにも、その心配が現実になることはなかった、が。


「お誕生日、おめでとうございます!」

 最近やっと成長して、男性に見られるようになったのに、屈辱的な昔話をされてはたまらない。

 黙らせるには物で釣るのが一番なのだ。

「まぁ……! ありがとう、今年も手作りしてくれたの?」

「もちろんです! 宝石の選定、銀の加工、術式の彫り込みまで全部僕がやりました!」

 小箱に収まっているのは銀製のバングルだ。術式構文は円を組み合わせた幾何学模様を描くように彫り込んである。

「ん? これ、女性向け装飾品に施術するような術式かな……」

「何だよファナ、別におかしくないだろ? 姉上の身を守る為なんだから」

「えっと、この術式にはどういう効果があるのかしら」

「あ、それはですね……手首にはめて、核石のサファイアを三回叩いてみて下さい」

 エレインが言われた通りにすると、バングルは変形し、指の根元を覆う四連続のリングになった。

「これ、武器?」

「そう! 装飾品と思わせて、有事の際には武器になるんです。ちゃんと姉上の拳を守る術式も組み込んでありますから、思い切り殴っても手は痛くなりませんよ」

「あのね、ゼス……なぜ私が殴る前提なのかしら」

「え? だって、去年ハンカチを贈ったら、あまり嬉しそうじゃなかったので。武器の方がいいのかと。僕も刺繍よりは彫金の方が好きだし」

「そんなこと無いわよ! 弟からの贈り物なんだから、嬉しいに決まってるでしょ! 全く、あなたは根本的な所がズレてるのよね……まぁ、ありがたく頂くけど」

「もう、ゼスったら本当に無神経なんだから。心配しないで、エル姉様。私のはちゃんとかわいい装飾品だから」

 うなだれるエレインの肩をファナが叩くと、彼女のことも抱きしめた。

「ありがとう、ファナ! やっぱり女の子よねぇ!」

 ファナが差し出した小箱には、ルビーの木の実をついばむ小鳥を透かし彫りにした髪飾りが鎮座している。

「あれ? 術式は核石が取れないように固定するやつだけなのか?」

「そうよ。だって、私はゼスみたいにエル姉様に殴らせようと思ってないし」

「ばか、僕だって思ってねーよ! 姉上の護身を考えた贈り物なんだよ!」

「私だって、安全のために石が取れないようにしたんだもん!」

「まぁまぁ、二人の気持ちとっても嬉しいわ。つけてもいいかしら」

 エレインは口げんかを始めた二人をなだめ、メイドに櫛と鏡を用意するように頼む。

 メイドは結われていた髪を解き、そっと髪を梳いてからもう一度結い直して、髪飾りをつけてくれた。

「そう言えば、アインハルトはどこかしら? 去年は真っ先に来てくれたのに」

 銀髪を引き締める黒い地金の髪飾りに、すっかり満足した姉の言葉。

 そこでゼクルスも思い出した。

「おい、さっき兄上を呼びに行くように頼んだんだけど。まだか?」

 執事のリウスに目をやると、彼は困り顔で首を横に振った。

「申し訳ありません、坊ちゃま。アインハルト様は寝室にも執務室にもいらっしゃらないので、今捜させています」

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