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2ー6

「敵襲です!」

 証拠の箱を馬車に積み込もうと持ち上げた時、兵士が一人飛び込んできた。

「ドラゴンか!」

「いいえ、その……雪豹のようです」

 彼と共に三人で外に出ると、兵士が困惑していた原因はすぐに分かった。

「頭が二つ?」

 兵士達を相手に大立ち回りをしているのは、白い毛並みもまばゆい双頭の雪豹だったからだ。

 大の男と同程度の体格が跳躍し、頭上から襲い来る様に、皆手を焼いているようだ。

「怪我人はいるか? 死者は?」

「いいえ、皆無事です!」

「良かった、なら撤退する! まともにぶつかるな!」

 

 ――ところが。


「おら猫、行かせるかよ!」

 ゼクルスが見たのは、誰かが前に飛び出してきて。

 その誰かが、血を吹き出して倒れたことだった。

「アベルっ!」

 兵士が彼の名を叫び、ぐったりした体を引きずって離れる。

 別の兵士達が矢を放って援護してくれた。

「おまっ……くそっ」

 ゼクルスもファナを抱えて後ろに飛び退く。

「そこの二人、ファナを守れ!」

 唸る雪豹が矢弾にたじろいだ隙にファナを兵士にまかせ、背の鞘から手製のナイフを抜く。

「第一隊、『糸』の術式、クロスボウで雪豹の足を止めろ! 第二隊、『氷結(ひょうけつ)』の槍で攻撃! 第三隊は、負傷者の応急手当を終え次第戻り、矢を補充しろ!」

「了解!」

 即座に動く兵士達の妨害をものともせず、雪豹はまっすぐゼクルスに向かってくる。


(嘘だろ? 僕目がけて?)


 飛びかかる雪豹から、体を回転させて逃れ、その勢いのまま柄頭で後頭部を叩く。

 たまらず雪豹がふらつく隙に、ナイフを鞘に収納。ポケットからフックを出して砦の壁に投げ、ちょうど壊れたところに引っかけた。

「第一隊、撃て!」

 号令と共に、フックと『糸』で繋がった握りを引っ張ると、『糸』が縮む。

 タイミングを合わせて跳べば、雪豹だけが残され――クロスボウの矢が襲いかかる。

「逃がすな、踏ん張れ!」

 ぎゃん! という苦悶の声に振り向きざま、第二隊に号令。

「次! 槍、突撃!」

 五本の槍が、クロスボウの矢を生やした雪豹に突き刺さり、血混じりの赤い氷が生え伸びる。

 黒曜石製の鏃、内部の霊素から生成した糸は、色と伸縮、強度は自在。

 さらに、施術者が事前に定めた条件を満たさない限り、切ることも難しい。

 その先に兵士がいるとなれば身動きなどできよう筈もない。駄目押しで、五本の槍に体内から凍らされては終いだ。


 ――そう思った時。


 ぐるる……


 唸り声と同時に、矢と糸が弾け飛んだ。

「なッ!」

 四人の兵士は槍を放して飛び退いたが、逃げ遅れた一人が氷漬けになり。

 拘束を脱した雪豹に、粉々に砕かれた。

「くそっ……凍ってる、のか?」

 歩を進める雪豹の足下、黒焦げの大地が真っ白く塗り替えられてゆく。パキパキ、と音をたてて黒を侵食する純白は、氷にしか見えない。

 だとしたら、二つの口からこぼれる、冬でもないのに白い吐息は――冷気なのだろうか。

 青い炎のようにギラギラした四つの目に睨まれ、ゼクルスはぞっとした。


(このままじゃ全滅する……何とか皆を守らないと……)


 抜剣した兵士達が、ゼクルスとファナを囲んでくれる。

 その背中に、ルグナー達と別れた時を思い出し、必死で打開策を考えた。


(動きを封じて、決定打を与えるという方針に間違いは無いはずだ……でも、糸と氷は弾かれる……確か、前作ったナイフに……)


 雪豹はこちらの出方を伺っているのか、冷気を吐きながらうろうろしている。

 ゼクルスはイヤーカフを二回指で弾き、城のファナの部屋に連絡してから、考えた作戦を兵士達に耳打ちする。

 数人がこの場を離れるのを確認してから、声を張り上げた。

「お前ッ、よくも仲間を殺したな! 覚悟しろ!」

 走り出せば案の定、雪豹はゼクルスを追ってきた。速さでは勝てないので、兵士二人と牽制しながら誘導する。

 事前に間取り図を見て構造を把握していたゼクルス達と違い、雪豹にとって砦は障害物だらけで速度が生かせない場所だ。

 だから、壊れた壁の隙間から人間が見えた時、一直線に突進してしまったのだろう。

 

 ――足下に穴があるとは知らないまま。


 雪豹が落ちたのは、子供達が死んでいた貯蔵庫だ。

「ぶっかけろ!」

 ゼクルスの合図で、隠れていた兵士達があらん限りの水をぶちまけた。当然、みるみるうちに凍りつき、雪豹を固めてしまう。氷の攻撃が効かなくても、物理的な拘束からはそうそう逃れられない。

 ゼクルスはポケットから『門』の術式が円環状に書かれた布を出して、足下に広げる。

 核石となる小粒の琥珀を中心に落とし、ブーツの踵で踏みつぶした。

「ディラン! 準備はしてあるな? 『雷撃(らいげき)』のナイフを寄越せ! 二十本!」

「はい、ただ今!」

 ゼクルスの立っている場所から布の端までがドーナツ状に光り輝き、透ける向こう側にファナの部屋が見える。

 そこにいたディランがこちらに束ねたナイフを投げるようにすると、すぐさまゼクルスの足下に現れ、布は燃え尽きた。

「氷が駄目でもこれはどうだ? 心ゆくまで味わえ!」

 ゼクルスは黒曜石製の『雷撃』ナイフを束ねる紐を切り、未だ氷柱から逃れようともがく雪豹の頭上からバラまく。

「離れろ!」

 一同が距離をとった貯蔵庫の開口部から、落雷に匹敵する轟音と閃光があふれた。

 ぎゃん! という悲鳴は一度では終わらなかったが、それはナイフも同じ事。

 先端に衝撃が加われば雷を放ち、砕けてしまう使い捨てだから、二十本も送ってもらったのだ。

「はぁ……こっちは通用して良かった」

 地面の震えが収まり、物音が聞こえなくなってから、そっと貯蔵庫を覗くと。

 そこには黒焦げになった雪豹の亡骸が一つ。

「何か関わりがあるだろうし、この雪豹も城にはこ――」

「ゼス! 大丈夫?」

「ファナ様、いけません!」

 亡骸を運ぶ手配をしようとした所に、ファナが飛び込んで来て。


 ゼクルスの隣から貯蔵庫を覗き――目を見開いて、気絶。

「あぁ……もぅ、好奇心の赴くままに行動するからだぞ。ファナは僕が運ぶから、お前達は雪豹を馬車に積み込んでくれ」

 ゼクルスはファナをよっこらしょ、とおんぶして、馬車に向かった。

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