都合のいい相手
男と女が結婚して1ヶ月。男は女をあからさまに避けましたが、女は嫌な顔ひとつもせず平然と過ごしていました。
そんな状況の中、先に痺れを切らしたのは男の方です。
「何を企んでいる」
部屋に乗り込み女に問いました。
それに対し、彼女はただ笑います。
「言ったところであなたは信じないわ」
「どういう意味だ」
「そのままの意味よ。私が何を言っても、あなたは絶対に信じない」
非難するような言葉なのに、どこまでも女は朗らかで穏やかな声音で話しています。楽しそうで、小鳥のような弾んだ囀り声でした。
男は不信感と気味の悪さから女を責め立てに来たはずでしたが、どこまでも変わらない彼女の態度を見て次第に不安が押し寄せてきました。
「……言ってみろ」
理由を聞かなくてはならない。男の直感はそう告げていました。
どんな荒唐無稽な話でもいいから、知るべきだと。
「いいけど、怒らないでちょうだいね?」
女は可笑しそうにまた笑って前置きをし、言い放ちました。
「私ね、何度も同じ人生を繰り返しているの。あなたとこうして形だけの結婚をしてきっかり1年後、あっさり死んじゃうのよ」
あっけらかんと話された内容に、男は直ぐに反応を示すことができませんでした。
女は構わず続けます。
「1年後の死を避けるために色んなことを試したわ。あなたとの婚約を破棄したり、部屋にこもってじっとしたり。でもどれも上手くいかなかった。私、あまり頭が良くないから直ぐに諦めてしまったの。それでね、どうせ繰り返せるなら逆に楽しんじゃおうって考え直したのよ」
にっこりと笑って、女は言いました。
「あなたの妻になるのはそれなりに嬉しかったし、ここでの生活は快適でやりたいことは何でもできる。死んでもやり直せるから失敗しても気にならない。あなたは都合のいい女を娶ったと思っているでしょう? 私も同じ。あなたは私にとっても都合がいい。お互い得をする結婚をしたのよ」
だから、気にすることないのよ。
女はにこやかに言ってのけました。




