猫が三匹寄って猫猫猫しいー④
★
それから――。
そろそろ昼食でも作ろうと耕平が献立を考え始めたとき。
「じゃ、まおちゃん達と遊びに行ってくるね」
「おいおい……」
スツールからぴょん、と飛び降りた文美がとことこドアへと歩いていく。どうやら既にふたりと話をつけているようなのだが。
「……その格好で行くのか?」
「これ? 可愛いからもうちょっと着たいんだ」
言って、くるりと回る文美は先ほどと同じ、制服を着崩した小さなギャルのままだ。正直、兄としてはこんな格好で外を出歩かせたくはないのだが。
(まぁ、ふたりが一緒ならいいか……)
星川さんはとっつきにくいし、先輩はしっかりしているし、ふたりに面倒を見てもらえば安心だろう。実際、今でもこうしてふたりに挟まれている姿はなかなか心強い。
「……わかった。昼は?」
「三人で食べてくるからいいよ。晩ご飯までには帰ってくるね」
「はいよ、気をつけてな。外食するなら少しお小遣いいるか? 日焼け止めは?」
「もー、大丈夫だってば!」
「まったく、お兄ちゃんは心配性ねぇ」
「私達がちゃんと見てるから大丈夫」
「よろしくね。文美がわがまま言ったら帰していいから」
ふたりに任せておけば安心だとわかっていても、耕平としてはどうしても心配になってしまう。文美だってずいぶん成長したとわかっているのに。
「じゃ、行ってきまーす!」
そして文美は意気揚々とドアをガラガラ鳴らして夏の日差しの下に出ていく。そのあとに星川さん、先輩がひらひら手を振って出て行った。
小さなギャルと、ラフな格好をした野良猫みたいなギャルと、ワンピースを着たお嬢様。はたから見ると奇妙な三人組だが、仲はよさそうだ。何となく姉妹にも見える。
「ふぁ……」
そんなことを考えながらも知らずあくびが出てきた。泊まりにきた当初と違って文美も手がかからなくなったが妹の世話はなかなか大変だ。
もしかしたら、ふたりが文美を連れ出してくれたのかもしれない。
「……少し寝るか」
せっかくだしふたりに甘えさせてもらおう。またあくびをしながら自室へと向かうのだった。
♪
「あっはっはっはっ! ふたりとも、それで怒られたの?」
「だって、宮古が色付きの麺ばっかりたくさん食べるから」
「あんたがあたしのぶんまで食べるからでしょ! あたしまで怒られたのはあんたのせいよっ」
「まぁ、お兄ちゃんもカリカリしてたみたいだけど……お兄ちゃんをそこまで怒らせるなんて、ふたりともなかなか見所あるよ」
平日の昼下がり――。
服を見たり、雑貨を物色したり、買い食いをしたり、まおの家で犬と猫を触ったり、ようやく人の減り始めたファミレスに三人は腰を落ち着けていた。
やはり奇妙な三人組はかなり目立つのか、あるいはテーブルに並んでは消えていくスイート類のせいか。周囲の視線を気にすることもなく、三人はああでもないこうでもないと話しながら、目の前に並んだデザートを平らげていく。
それにしても――。
(お兄ちゃん、幸せ者だなぁ)
文美が知っている兄は黙々と料理をする姿ばかりで、楽しい姿ではなかった――もちろん兄は喜んで料理していただろうが。
この夏、お店に来てから初めて見る兄の姿も重なり、妙に感慨深い。
「第一、あんたはもっとあたしに感謝しなさいよ。追試のときだってあたしがいなかったら今日だってお店じゃなくて学校にいるんだからね」
「それはそうかもだけど……宮古だってお弁当作ってもらったじゃん」
「あれは当然の報酬でしょ! あんたのぶんまでもらっても足りないくらいよっ」
それはもちろん、このふたりがいるからだ。
本当にお兄ちゃんの料理が大好きで、独り占めしようとしている――元々食い意地は張っているのは間違いないけど。
こんなふうに自分の作る物に夢中になってくれるなんて、お兄ちゃんはやっぱり幸せ者だ。
「……ね、もしお兄ちゃんが――」
「「?」」
「何でもないっ、それよりお兄ちゃんがフラれたときの話してあげよっか! 保育園の頃だけどっ」
今さら二人の気持ちを試すようなことを聞くなんてかわいそうだ――お兄ちゃんがおうちに戻ったらどうするかなんて。聞いてみたい気もするけど、たぶん何を聞いても二人の答えは決まっている。
そんな文美の逡巡を知ってか知らずか、二人はぐいぐい身を乗り出してくる。
「ちょっと、そんなの聞いてないわよっ?」
「どんな子っ? 保育士さんとかはナシだからねっ」
本当に扱いやすいお姉ちゃん達だ。腕を組んだ文美はもったいぶって溜息をつく。
「うーん……もうちょっと甘いものが食べたいなぁ」
途端、宮古はさっと卓上端末を手にし、まおはグラスを手にする。
「今日は何でも好きなもの頼んでいいのよ? お姉さん達がおごってあげるから」
「お茶でいいよねっ」
「うむっ」
奇妙な三人組の午後はのんびりと過ぎていくのだった。




