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猫が三匹寄って猫猫猫しい


 数日後――。

 そろそろ正午も過ぎ、耕平はのんびりと昼食の準備を始める。今日は祖父が出かけているので、火を使わずに簡単に作れるものだ。

 そして店の隅のテーブル席では。

「「「…………」」」

 カードを手に三人が互いの顔色を疑っている。それぞれの前には小さなクッキーやチョコレートの包装の山。しばらくの緊張ののち――。

「悪いけど、今回は勝たせてもらうわ」

 先輩が自分のお菓子の山をがさっとテーブル中央に押し出す。それにつられるように星川さんも少し小さい山を中央に寄せた。

「私も……」

「えー、本当にそんなことしちゃっていいのかなぁ♪ 全部もらっちゃうぞ」

 そして文美も同じように寄せ、テーブル中央にはお菓子が山となる。

 どうやらお菓子をお金代わりにして賭け事をしているらしい。お菓子なら生々しくないし、何かを賭ける楽しみもある、なかなかうまいやり方だ――きっと先輩が考えたのだろう。

 そして――。

「私、ツーペア」

「あんたそんなのでよく全部賭けたわね……あたしはストレート、これはもらったわ」

「残念でしたー♪ わたしはフラッシュ!」

 嬉しそうに手札を開いた文美は興奮しているのか、ぱちぱちとテーブルを叩く。

「…………何でそんな強いの」

「っくぅぅううう~~~~っ、いいわよっ、全部持っていきなさいよっ」

「えへへ、いただきまーす♪」

 よほど嬉しいのだろう。お菓子の山を腕でがさっとかき寄せる文美は、いそいそとそれを紙袋に詰め込んでいく。かと思うと、そこからひと掴みずつ、先輩と星川さんの前に置いた。

「はい、おすそ分けっ」

「ん、ありがと」

「ありがとう。いただくわ」

(うーむ……)

 やはり先輩に教えてもらったのだろう。『ご祝儀』みたいなものも覚えている。悪い遊びを覚えてないか少し心配だが、こんなに興奮している文美も珍しい。

 と、お菓子を持った先輩がカウンター席までやってきて、ひょいとスツールに飛び乗った。

「お疲れ様でした。お茶でも飲みますか?」

「うん、よろしくね」

 お茶と言っても冷蔵庫にある麦茶を出すだけだ。


 出されたグラスの麦茶を景気よく煽った先輩は持ってきたお菓子を食べ始める。

 テーブル席では文美と星川さんが何やら話しながら、同じようにお菓子を食べていた。

「先輩、カードもお上手なんですね」

 遠目で観察していても先輩が手加減をしているのがわかるくらいだ。ぎりぎりの手で勝たせてやったり、わざと大きく賭けて負けてやったり、非常に巧みだった。

 そんな耕平の言葉に先輩は手をひらひらさせる。

「まぁ、うちは姉さんがいたからね。昔は食後にカードをやってお小遣いを巻き上げられたものよ」

(道理で……)

 きっと

 カードはもちろんいろいろな遊びで文美を飽きさせないようにしてくれている。

 ここ数日で文美もふたりに懐いたのか、毎日来るのを楽しみにするようになっていた。兄の勤務態度をチェックするのも忘れてしまっているだろう。

「いいのよ、文美ちゃんもいい子だし、嫌々遊んでるわけじゃないから」

「星川さんもいてくれて助かったし、ふたりには今度ちゃんとお礼しますからね……そろそろお昼ごはんにしましょうか」

 その言葉を口にした途端――。

 テーブル席のふたりもそれを聞きつけたのか、ぱっと立ち上がってカウンター席にやってくる。そして先輩と星川さんで文美を挟むようにして、席につくのだった。



「ぁ、たぬきごはん♪」

 どんぶりには氷が浮いたおつゆにひたされた白いごはん。その上に天かすと刻んだ葱、わかめ、生姜チューブのやつ。火を使わなくても作れるご飯だ。

「これ、好きなんだよねー。いただきますっ」

「ちゃんと噛んで食べろよ」

「ん、わかってるっ」

 兄の言葉に構わずレンゲでスープとご飯をすくい、半ば流し込むように食べていく文美。こうやってさらさら食べるのがおいしいのだ。お茶漬けみたいに熱くないし、余計に簡単に食べられてしまう。時々小さな氷のかけらをカリカリするのも楽しい。

「まったく……そんなに急いで食べたらお腹壊すぞ」

「だっておいしいんだもんっ」

 両隣ではふたりも同じようにかちゃかちゃレンゲを鳴らして食べている。

 まおちゃんはわたしよりすごい勢いで食べている。みやこちゃんはお行儀がよくて少し遅いけど、一生懸命だ。

(えへへ、やっぱりおいしいなっ)

 お兄ちゃんのごはんは元々おいしいけど、わたしと同じくらい――もしかしたらもっとかも――おいしく食べてくれるひとと一緒に食べていると、わたしもおいしくなってしまう。

 やがて文美は一杯目をさらっと平らげると。

「おかわりっ」

「私もっ、天かす多くして」

「あたしもいただくわ、しょうがとねぎをちょっと多くしてちょうだい」

「はいはい、ちょっと待っててくださいね」

 それぞれが差し出したどんぶりを兄は嬉しそうに受け取り、カウンターの奥に引っ込む。何回おかわりしても、いつもこうして嬉しそうに作ってくれるけど。

「…………」

 わたしひとりのときよりも活き活きしている気がする――きっとたくさん食べてくれるひとが多いほどいいのだ。それに。

「「…………」」

 店の奥に引っ込んだお兄ちゃんが動いている様子を追うふたりの目はときめく乙女だ。

 お兄ちゃんそんなことも気づかず、わたし達をお腹いっぱいにすることに一生懸命だけど。

(ふふっ、なんかいいかも……)

 お兄ちゃんを渡すつもりなんかないけど、でも、お兄ちゃんも、お兄ちゃんのごはんも好きになってくれるひとがいると、ちょっと嬉しくなる。

 奇妙なくすぐったさを感じていると、店の奥からお盆に三つのどんぶりを乗せた兄がやってくる。

「お待たせ。あんまり急いで食べるとよくないから、おつゆは少しぬるくしたぞ」

 そしてそれぞれの前にどんぶりを置いていくと。

「「「いただきますっ」」」

 三人はろくに兄の言葉も聞かずにまた元気よく食べ始めるのだった。



(三人ともよく食べるな)

 目の前で元気よく食べる三人の姿に耕平は苦笑する。

 一杯目を食べたときとまったく変わらない勢いだ。

「うん、ちょっとぬるいのもおつゆもいいかもっ」

 文美は薬味とごはん、つゆをバランスよくレンゲに乗せては口に運んでいる。

「ん……」

 星川さんは天かすをおつゆにひたして食べるのが好きみたいだ。天かすの山を崩してはつゆを吸った部分とお米を一緒に食べている。

「やっぱり薬味よね……」

 先輩はどうやら葱や生姜の風味が好きらしく、行儀が悪くない程度につゆに溶いてはお米と一緒にすくって食べている。

「…………」

 火が使えないせいでこんな簡単なものなのに、三人それぞれのやり方で自分の作ったものを夢中で食べてくれている。

 ふたりに出くわしたときはかりかりしていた文美も当たり前のように挟まれて。

 妹だって次はいつ来てくれるかわからないし、星川さんや先輩だって……。

 もしかしたら三人がこうして揃ってくれるなんて、この夏の間だけ見られる光景かもしれない。耕平にとっては大事な時間だ。

(俺もそろそろ食べるか……)

 そんなことを考えながらも三人が食べる姿を眺め、のんびりと過ごすのだった。

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