喜怒哀楽食欲
☆
放課後――。
友人達と机を囲んだまおはのんびりと過ごしていた。
机にはスナック菓子の袋が開かれ、思い思いにそれをつまんでいる。
「まおー、最近うついとどう?」
「ちゃんとメシ食わせてもらってるか?」
「ん、食べてるよ」
お菓子をつまみながらまおはちらりと教室の壁時計を見上げる――お店の開店時間には少し早い。
準備中に行くのも邪魔だろうし、開店ちょっと前に行くのがいつものやり方だった。
(今日は何食べられるのかな……)
そんなことを考えながらまおはお菓子を口に放り込む。
「「「…………」」」
気がつけば友人達がうろんげな表情でまおを観察していた。
「何?」
「それだけかよっ」
「?」
「そうじゃなくてさー、メシ食ってるとき以外でうついと何かしたり、話したりしないの?」
「どこか出かけたりとか……帰りに送ってもらったりとか、そういうのあるでしょ?」
「……何で?」
友人達の言葉にもそもそ答えながら、まおはまたお菓子を口に放り込む。
本当に何もない。別に嘘をついたり、話を盛ったりする意味がないだけなのに。
そんなまおの言葉に友人達は何やら納得がいかない様子だ。
「いやいや、まおさんや……それじゃうついにメシ食わせてもらってるだけですよ」
「うついん家に行くようになってから何日経つんだよ? 何か思うこととかあるだろ?
胸に手を当てて考えてみろって」
「んー……」
友人達の言葉に、まおはお腹に手を当て今までのことを思い出す。
初めて食べたナポリタンからまかないの油揚げごはんまで……。
そのすべてが幸せな記憶だ。
「……ぇへっ」
思わず頬が緩んだ次の瞬間。
ぐぅ……。
と、お腹が鳴った。直後、友人達が噴き出す。
「なははっ、本当に食欲以外の感情がないのかよっ」
「さすが胃袋で考える女っ、ここまでくると立派だわー」
「これはうついも手こずるなぁ」
「何だよ、もー……笑うことないじゃん」
友人達に笑われながら、まおはまたお菓子を口に放り込む。
みんなが言いたいことはわかるけれども、これがまおの偽らざる感覚だった。
結局のところ、まおは『胃袋で考える女』だ。
大事な感情は全部胃袋が教えてくれる。
お腹がこの人のご飯が好きと言えば、その人が好き――それしかない。
それに、そらの作るご飯は特別だ。
上手下手とかそういうことじゃない。
『可愛い』とか『かっこいい』が人それぞれ違うように。
私にとって特別な人間――おいしいご飯を作ってくれる素敵な人。
(それじゃだめなのかな……?)
「もうちょっと考えろよっ、うまいメシ食わせてもらってるんだから、
そのときにうついに対して何か思うだろっ?」
「うついのこと考えちゃうときとかさー……ないの?」
「えー、そう言われてもなぁ……」
口に大量に放り込んだスナック菓子をぼりぼりやりながら、まおは『うつい』での食事を思い出す。
『はい、お待たせ。少し醤油かけるとおいしいよ』
『熱いから気をつけて食べてね』
『まだ練習中だけど……結構うまくできたから』
『どうかな? もうちょっと味は濃い方がいい?』
そっと目の前に料理を置いてくれる手つき、食べているときに見守ってくれている表情、
『おいしい』のひと言でほころぶ顔、食べている最中も働いている姿……。
よく考えたら、彼に関するすべてが食事のときの幸せな記憶と結びついている。
だから――。
「お腹が空くと……そらのこと思い出しちゃうのかも」
口にして自分でも顔が少し熱くなるのがわかった。
この前の昼休みのときだって、何となくそらのことが気になったし。
多分、そういうことなのだろう。まおは思わずうつむいてしまうが。
「何で照れてんだよっ!」
「そこは照れるところじゃないだろっ!」
「こっちが恥ずかしいわっ」
三人の友人達に突っ込まれながらも、まおは壁時計を見上げる――もういい時間だ。
がたっ、と立ち上がったまおは鞄を肩にかけてスマホを放り込む。
「そろそろお店開いちゃうっ、それじゃっ!」
そしてそのまま友人達をその場に教室を駆け出す。
頭にあるのは彼が出してくれるご飯のことだけになっていた。
「おいおい、あいつ……マジでまおにメシ食わせてるだけじゃねーか……?」
「あれでいいのか、うついは……」
「ま、本人達が幸せならいーんじゃない?」
友人達がひそひそ話し合っていることなど、当然耳に入っていなかった。




