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喜怒哀楽食欲


 放課後――。

 友人達と机を囲んだまおはのんびりと過ごしていた。

 机にはスナック菓子の袋が開かれ、思い思いにそれをつまんでいる。

「まおー、最近うついとどう?」

「ちゃんとメシ食わせてもらってるか?」

「ん、食べてるよ」

 お菓子をつまみながらまおはちらりと教室の壁時計を見上げる――お店の開店時間には少し早い。

 準備中に行くのも邪魔だろうし、開店ちょっと前に行くのがいつものやり方だった。

(今日は何食べられるのかな……)

 そんなことを考えながらまおはお菓子を口に放り込む。

「「「…………」」」

 気がつけば友人達がうろんげな表情でまおを観察していた。

「何?」

「それだけかよっ」

「?」

「そうじゃなくてさー、メシ食ってるとき以外でうついと何かしたり、話したりしないの?」

「どこか出かけたりとか……帰りに送ってもらったりとか、そういうのあるでしょ?」

「……何で?」

 友人達の言葉にもそもそ答えながら、まおはまたお菓子を口に放り込む。

 本当に何もない。別に嘘をついたり、話を盛ったりする意味がないだけなのに。


 そんなまおの言葉に友人達は何やら納得がいかない様子だ。

「いやいや、まおさんや……それじゃうついにメシ食わせてもらってるだけですよ」

「うついん家に行くようになってから何日経つんだよ? 何か思うこととかあるだろ?

 胸に手を当てて考えてみろって」

「んー……」

 友人達の言葉に、まおはお腹に手を当て今までのことを思い出す。

 初めて食べたナポリタンからまかないの油揚げごはんまで……。

 そのすべてが幸せな記憶だ。

「……ぇへっ」

 思わず頬が緩んだ次の瞬間。

 ぐぅ……。

 と、お腹が鳴った。直後、友人達が噴き出す。

「なははっ、本当に食欲以外の感情がないのかよっ」

「さすが胃袋で考える女っ、ここまでくると立派だわー」

「これはうついも手こずるなぁ」

「何だよ、もー……笑うことないじゃん」

 友人達に笑われながら、まおはまたお菓子を口に放り込む。


 みんなが言いたいことはわかるけれども、これがまおの偽らざる感覚だった。

 結局のところ、まおは『胃袋で考える女』だ。

 大事な感情は全部胃袋が教えてくれる。

 お腹がこの人のご飯が好きと言えば、その人が好き――それしかない。

 それに、そらの作るご飯は特別だ。

 上手下手とかそういうことじゃない。

 『可愛い』とか『かっこいい』が人それぞれ違うように。

 私にとって特別な人間――おいしいご飯を作ってくれる素敵な人。

(それじゃだめなのかな……?)


「もうちょっと考えろよっ、うまいメシ食わせてもらってるんだから、

 そのときにうついに対して何か思うだろっ?」

「うついのこと考えちゃうときとかさー……ないの?」

「えー、そう言われてもなぁ……」

 口に大量に放り込んだスナック菓子をぼりぼりやりながら、まおは『うつい』での食事を思い出す。


『はい、お待たせ。少し醤油かけるとおいしいよ』

『熱いから気をつけて食べてね』

『まだ練習中だけど……結構うまくできたから』

『どうかな? もうちょっと味は濃い方がいい?』

 そっと目の前に料理を置いてくれる手つき、食べているときに見守ってくれている表情、

 『おいしい』のひと言でほころぶ顔、食べている最中も働いている姿……。

 よく考えたら、彼に関するすべてが食事のときの幸せな記憶と結びついている。

 だから――。


「お腹が空くと……そらのこと思い出しちゃうのかも」

 口にして自分でも顔が少し熱くなるのがわかった。

 この前の昼休みのときだって、何となくそらのことが気になったし。

 多分、そういうことなのだろう。まおは思わずうつむいてしまうが。

「何で照れてんだよっ!」

「そこは照れるところじゃないだろっ!」

「こっちが恥ずかしいわっ」

 三人の友人達に突っ込まれながらも、まおは壁時計を見上げる――もういい時間だ。

 がたっ、と立ち上がったまおは鞄を肩にかけてスマホを放り込む。

「そろそろお店開いちゃうっ、それじゃっ!」

 そしてそのまま友人達をその場に教室を駆け出す。

 頭にあるのは彼が出してくれるご飯のことだけになっていた。


「おいおい、あいつ……マジでまおにメシ食わせてるだけじゃねーか……?」

「あれでいいのか、うついは……」

「ま、本人達が幸せならいーんじゃない?」

 友人達がひそひそ話し合っていることなど、当然耳に入っていなかった。

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