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そらのお弁当ー②


 とうとう追試当日の朝――。

「いい? 一時間目はこのノートだけぱらぱら見てればいいから……二時間目はこの赤線部分だけ何度も確認して――」

「うん……うん……」

 二人は朝からうつい亭の前で待ち合わせし、こそこそと話し合っていた。

 ちゃんとテスト開始に間に合う時間だし、やるだけのことはやったつもりなのだが。

「……ほんとにこれだけで大丈夫かな」

「もう何度も確かめたでしょっ、それともあたしの教えが気に入らなかったっていうの?」

「違うけど、心配だから……英語とか、ちゃんと覚えてないかもだし……」

「はあ? 今さらに何言ってんのよっ! ここまで来たら腹括りなさいよっ」

「だって、数学も公式時々間違えるし……」

 宮古には感謝している。教えてくれたことだって間違っていないと思う。

 でも、今まで追試でうまういったことが一度もないのだ。入学以来、追試の強化≒補習だったため、まおには「失敗する」という感覚しかない。

 自分でもどうしていいかわからず、ネイルを弄り始めたとき――。

 店の中で気配がしたかと思うと、誰かがやってきて店のドアを開ける。

「「……っ?」」

 ドアベルのガラガラいう音に身構える二人の前に顔を出したのは。


「おはよう。ちょっと待っててね」

 Tシャツにジーンズというラフな格好の耕平だった。

 そして店の外にある何かのケースをドアに挟んで開けたままにして、また店内に戻っていく。

「「…………」」

 まさかここでそらに見つかってしまうなんて。

 宮古と顔を見合わせるまおは呆然としたまま彼が戻ってくるのをじっと待つしかなかった。



 耕平が紙の手提げ袋を持って戻ってくると、二人はまだ外で居心地悪そうに待っていた。

 先輩はTシャツにデニムのショートパンツというラフな格好。星川さんは制服姿。

 何となく不釣り合いな二人だが、追試前の打ち合わせで来ることは何となくわかっていた。

「はい、これ」

「?」

 耕平が紙袋を差し出すと、星川さんは不思議そうにそれを受け取る。

 そしてまじまじと中を観察していた。

「今日、学校行くんだよね? 購買も開いてないから、よかったらお弁当持っていって」

「ぁ……ぅっ……~~~~」

 途端、星川さんの顔が真っ赤になる。かと思うと俯いてしまった。いつもクールな星川さんには珍しい反応だ。

 耕平もどうしようか迷ったのだが、やはり知らんぷりはできなかった。

 もしかしたら恥をかかせてしまうかもしれないけど、ここまで食べたいものも食べずに頑張ってきたのし、少しでも力になれれば。

 そういうわけで、祖父に頼んで早いうちからキッチンを使わせてもらい、昼食を作って保管しておいたというわけだ。それに、一応星川さんの名誉のために、ただ『学校に行く』からとしか言っていない。

「うぅ……」

 星川さんはしばらく喉の奥でうめき声を上げていたかと思うと、ぎゅっ、と紙袋を抱きしめる。

「……ありがと。頑張るから」

「ちょっと、まおにだけずるいわよ! あたしだって大変だったんだから!」

 そうなると当然先輩は納得がいかないだろう。

 隣で騒ぎ始めるが、耕平はもうひとつの紙袋を先輩に渡してやる。

「もちろん先輩のぶんもありますよ」

「あら、わかってきたじゃない♪」

 紙袋を受け取った先輩は途端に機嫌を直し、嬉しそうに中を見ている。

 笑ってしまうくらいに正直な人だ。

 とはいえ、先輩だって星川さんのために頑張ったのだから、何かしたかったのは同じだった。

「教室は涼しいから大丈夫だと思うけど、陽が当たる場所とかに置かないように」

「ん」

「もちろんよ。帰ってすぐにいただくわ」

「それじゃ、行っていらっしゃい。午後はおやつ作っておくね」

「ん、行ってきます」

「また来るわ」

 星川さんはまだ顔が赤いけれども、顔を合わせたときよりは元気そうだ。

 食べ物を手に入れた先輩は嬉しそうに手提袋を振っている。

 歩いていく二人を見送った耕平はやがて店に入り、大きな欠伸をする。

「ひと眠りするか」

 今日は早く起きて準備をし、二人を待っていたせいでほとんど寝ていない。

 店のことは起きてからでいいだろう。そんなことを考えながら自室への階段を上がっていくのだった。



「悪かったわね」

 しばらく無言で歩いていた宮古はとうとう切り出した。

「何が?」

「せっかくここまで隠し通したのにバレちゃって、悪かったわ」

 待ち合わせ場所を変えておけばこうはなっていなかったかもしれない。

 耕平の部屋を勉強に使う時点で迂闊だったかもしれない。面倒でも、まおの秘密を守るためにもっと気を遣っていれば……。

「バレちゃったものは仕方ないよ。お弁当もらえたし結果オーライでしょ」

 隣を歩くまおは先ほどのようにびくびくしていない。

 いつもの小憎たらしいマイペースではないが、紙袋を振る手は少し機嫌がよさそうだ。

 先ほど必死で言い聞かせていたのが馬鹿らしくなるくらいの変わりようだった。

「あんた、それでいいわけ?」

「いいよ、別に。それより、お弁当何かな?」

 こいつの食い意地ときたら――結局、最後の最後でまおに効くのは耕平の料理しかないのかもしれない。

(ま、あたしもお弁当もらえたし、確かに結果オーライか)

 自分の手にある手提袋を見て宮古の頬が緩む。

 まおの相手で苦労させられたが、お弁当は手に入れたし、まおを助けたことがバレて耕平のポイントは稼げたし、実際悪くないかもしれない。

 そんなことを考えながらまおと別れる交差点まで歩き続けるのだった。


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