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フェイスオフ(二匹の乙女)


 翌日のうつい亭――。

 テストも終わり落ち着いた夏の午後、いつものカウンター席に腰を押しつけたまおはしばらく友人と連絡を取り、やがてアクセサリーがじゃらじゃらついたスマホをカウンターに放り出す。

「ちょっと待っててね。今日はすぐできる軽いやつにするから」

 狭いキッチンで動き回る少年の姿はいつ見ても変わらない。冷蔵庫から何かを取り出し、バットに入れてかき混ぜる手つき、油の温度を確かめる視線、また忙しく冷蔵庫に向かう足取り――。

「ふふっ……」

 ずっと見ていても飽きないくらいだ。それに、これから自分のためにおいしいものを作ってくれていると思うと、もしかしたらこの時間が一番楽しいかもしれない。

 と、わき腹をつつかれ、ハッと我に返る。

「ちょっといいかしら?」

 隣に座る宮古がうろんげな目でこちらを見ていた。

「邪魔しないでくれる?」

「いいからそっちで話しましょ」

 そらが作るのを見ていたかったのに。自分で若干不機嫌な声になるのがわかるが、宮古は構わずカウンターから離れた店の隅を顎でしゃくった。


 そして――。

「「…………」」

 まおは相変わらず不機嫌なまま髪をいじりながら、宮古は腰に手を当てて、店の隅の暗がりで向き合う。

「……それで?」

「一応聞いておくけど、あんた、耕平と付き合ってるわけじゃないわよね?」

「――」

 虚を突かれたまおはひゅっと息を吸い込む。

 きっとそらには聞かれたくない話だ。心構えはしていたつもりなのに。

 その間も相変わらず宮古は腰に手を当て挑むような目で見上げてくる。

「どうなの?」

「……別に付き合ってるとかじゃないけど……宮古には関係ないじゃん」

 結局、もごもご口にできたのはそれだけだった。実のところ、宮古が何を話すつもりなのかわからないままだ。

 しかし、そんなまおの言葉に宮古は鷹揚に頷いたかと思うと。

「じゃあ、耕平は私がいただくわね」

 瞬間、まおの首筋の毛がざわっと逆立つ。

「一応予告はしたから、恨まないでよ」

「…………」

 何となくいつかこうなるような気はしていた。でも、心のどこかでは油断もしていた。

 どうせ子供っぽくて世間知らずのお嬢様だし、恋愛なんか私より遅れていると思ったのに。

 この人は本気だ。子供っぽいとかお嬢様とか、出会った時期とか、そんの関係ない。ほしかったらためらいなく奪う人だ。

 そんな宮古に気圧されてかけたまおだが。

「……引っ込んでてよね」

 立ち向かわなければ奪われてしまう。本能が訴えていた。

「っていうか、そらはそんなの興味ないし、私の方が先にそらのお客さんになったんだから。宮古はどうせ食べ物つられただけでしょ?」

「何を~……食欲しかない女がよくそんなこと言えるわね。あんただってほんのちょっと早くここに来ただけじゃないっ。幼稚園児みたいなこと言わないでよね」

「そっちこそほんのちょっとそらの料理食べただけでしつこくお店に来てるじゃん、私はお弁当だって交換してるし、一緒に出かけたりしてる」

 まおの言葉に腰に手を当てる宮古はふん、と笑って踏ん反り返る――きっと自分を大きく見せて威嚇しようとしているのだろう。

「それならあたしだってお休みの日にここにきて耕平にこっそりロールキャベツ食べさせてもらったのよ」

「……っ」

「それに、転んだときに優しく抱きかかえてもらったこともあるんだからっ」

「はあ? どうせ、落ちてるものにつまずいたんでしょ、自分が鈍いだけじゃんっ」

「むぅぅ……」

「うぅぅ……」

 まさか宮古がそこまでそらといろいろあったなんて。予想外の言葉の数々がさらにまおの危機感を募らせる。

 互いに詰め寄り、まおが宮古を見下ろすように対峙し睨み合っていたが。

「……ふんっ」

 宮古が背伸びし、まおの額にごつんと頭突きする。

「このっ」

 反射的にまおも頭突きし、身長差で下に押し込むように押し返す。

 が、宮古もそれを押し返し、二人はごりごりと額を小突き合わせながら、不機嫌な唸り声を上げて互いを威嚇していた。

「そらのことは諦めた方がいいよっ、どうせ宮古は相手にされないから」

「ふふん、言ってなさいよっ」



「――、――!」

「――……」

(二人とも仲いいなぁ、何話してるんだろ)

 猫同士がじゃれつくような光景を微笑ましく観察しながら、耕平は揚げ油からメンチカツを箸で上げそれをそっと揺らして油を切り、バットに乗せる。

 昨日はどうなることかと思ったけど先輩はもうけろっとしているし、星川さんとも距離が縮まったみたいだし、概ね元通りだ。

 やがて4枚のトーストが焼き上がると、それぞれを皿にのせてキャベツの千切り、メンチカツを乗せてウスターソースをどばどばかけてトーストでまた挟む。それを斜めにカットして立てかけ、最後に小さく切ったトマトを添えて少しだけドレッシングをかけて――。

「お待たせしました。できましたよ」

「「……っ」」

 瞬間、額をぶつけていたふたりはさっと離れて席までやってくる。

 食べ物のことになると相変わらずだ。その変わり身の早さに苦笑しながら、耕平は二人の前に皿と飲み物を置いてやる。

「残り物ですみませんね。食後に果物でも剥きましょうか」

 今日はそろそろ賞味期限が切れるメンチカツを揚げて、キャベツの千切りと一緒に挟んだだけのサンドだ。一応少しでも見栄えはよくしたし、食べやすくもした。気に入ってくれるといいのだが。

「んむ、おいしいよ」

「うん、なかなかね……っ」

 二人ともわき目もふらずに食べてくれている。

 星川さんは豪快にかぶりつき、先輩は小さく齧って、時折麦茶を飲みながら。

(うん……いつも通りだ)

 二人が食べる姿を眺めつつ、耕平は開店準備を始めるのだった。


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