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宮古の恋は最大火力


 枕に顔をうずめ、ベッドにうつ伏せになっていた宮古はやがてむくりと身体を起こす。

 そしてベッドサイドに腰かけ、はなをすすり上げた。

 夏の陽は既に暮れかけ、窓の外は西の空に淡い色を残すのみだ。

「今日はどうしたの?」

「…………」

 隣に腰かける姉がその頭をそっと撫でる。

 が、宮古はただ撫でられるがまま、また微かにはなをすすった。


 帰宅するなり玄関に靴を脱ぎ捨て、階段を駆け上がり、向かったのは自分の部屋ではなくふたりの姉のうちひとりの部屋だった。

 驚く姉に構わず制服のままベッドに飛び込み、また少し泣き、涙やよだれをシーツで拭き、ようやく落ち着いたところだ。

「もしかして誰かにいじめられた?」

 突然のことにも関わらず姉の声は優しく、頬に張りついた髪をそっと払ってやる。

 以前から何かあるたびに駆け込んでくる妹をあやし、こうして話を聞いてやるのが常だった。

「……悪いやつに弄ばれた」

 ようやく口にする宮古の顔は泣きはらしたあとが残っているものの、どこかすっきりしていた。

 一方の姉ものんびりしたものだ。

「それは穏やかじゃないわねぇ。どんなふうにされちゃったの?」

「いろいろ食べさせられた……フレンチトーストとか、コロッケとか……」

「あらら、宮古にそんなもの食べさせるなんて悪いやつね、どこで食べたの?」

「帰り道にある洋食屋さん……ちょっと寄り道だけど」

「どんなお店?」

「小さくてちょっと古いけど、すごく居心地がいいの。使い込まれてて――」


 それから宮古の口から言葉があふれ出してくる。

 今までのことをすべて姉に話していた。

 雨宿りさせてもらった洋食屋のこと。

 そこで店の男の子におやつを振る舞われたこと。

 店に居つく生意気なギャルに出会ったこと。

 こっそり寄り道するようになったこと。

 ――――――。

 ――――。

 ――。

 今日ホットケーキを食べさせられて泣かされたことまで。


 妹の話に時折相槌を打ちつつ、根気よく聞きだした姉はその頬をむにむにとつまむ。

「そっか。最近よくおうちを抜け出してると思ったら、その男の子に会いに行ってたのね」

「料理食べに行ってただけ……」

「その子の料理、そんなにおいしいの?」

「うん……甘いものだけじゃなくて、いろいろ作ってくれるの――」

 それからまた宮古の口から言葉があふれ出てくる。

 ほとんどは今まで食べた料理だったが。

「大変な目に遭ったわねぇ……食いしん坊の宮古がそんなことされたら逆らえるわけないもんね」

「ぅぅ……」

「そっか、そっか♪ 宮古の初恋は料理が得意な男の子かぁ」

「…………?」

 姉の言葉を聞いてもぴんとこなかった。

 ただ食べ物につられて、感情に振り回されて、わけがわからなくなっただけで。

「でも、宮古の言う通り耕平くんはきっと悪い男の子かもねぇ、そんなふうにいろんな子に料理を作っちゃうなんて」

「耕平、優しいから」

 少年のことを思い出しても今は激情に近い怒りもない。

 ただ、何かが燃え盛ったあとの熾火のような落ち着いた温かさがあるだけで、不快な感覚ではなかった。

 いつかまた燃え盛るときがあるかもしれないし、そうなったらやっぱり自分では止められないけど。

 と、姉が宮古の頭を撫でながらくすくす笑い始める。

「それにしても前途多難ねぇ、相手は悪い男の子だし、ライバルもいるし。やっぱり初恋はそうじゃないとっ」

「何で姉さんが楽しそうなのよ……」

 姉さんが思っているより楽しいことではないのだ。きっとこれからもっと大変なことになるのもわかるし……。

 と、その肩を姉が引き寄せ、頬を擦りつけてくる。

「……手加減なんてしなくていいんだからね。思いっきりやりなさいよ」

「ぁ……」

 思えば姉二人は恋愛なんてする余裕もなかった。

 学校生活はずっと学業と家の用事ばかりだったし、結婚相手はこれから縁談で決まるだろうし、相手の家族との兼ね合いもある。初恋なんて最初から縁がなかったのだ。

「……うん」

 姉の言う通り、手加減なんかしていられない――あの小娘が耕平のことを好きだって、正面衝突したって構わない。具体的な計画なんかないけれども。

 自身の中の熾火がぱちっと炎を上げるのを感じたとき、腹がきゅる、と音を立てた。

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