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愛猫弁当(ねこべん)ー③


「これ、挟んで揚げるの大変だったでしょ」

「そんなことないよ。お肉の隙間に切れ目を入れて詰め込むだけだから」

 メインのおかずは鶏のムネ肉で大葉とチーズを挟んだフライだった。

 チーズがムネ肉のぱさつきをカバーしているし、傷みにくいよう入れてある大葉の味もよく合っている。

 星川さんは簡単そうに言うものの。

(やっぱり大変だよな、ここまで作るの)

 パプリカの炒め物もカレー味が効いていて、主張しすぎず、引っ込まず。。

 どれも文句なしにおいしいし、夏を考えて手が加えられている。ひとつひとつに気遣いが感じられた。

 それに引き換え――。

「何かごめんね、俺のは残り物で……」

 自分の弁当はというと、保存を考えて煮詰めたものばかりで茶色一辺倒だ。味も工夫はしていないし、比べると少し悪くなるけど。

「そんなことない、そらのお弁当もおいしい……和食も好きだし」

 言いながら、星川さんは弁当をもぐもぐやっている。相変わらずの食べっぷりだ。

「そっか、ならよかった」

「ん……」

 それから校舎の片隅で椅子に腰かけた二人は、のんびりとそれぞれの弁当を食べ続けるのだった。


 やがて――。

「ごちそうさま」

 ぱちんと手を合わせた耕平は、米粒ひとつ残っていない弁当箱の蓋を閉じ、満足の息をつく。誰かに作ったお弁当を食べるなんて初めてだし、星川さんが作ってくれたこともあって――。

 そこで初めて耕平はあることに思い当たる。

「もしかして、最近お店に来なかったのって……」

 このお弁当を作る練習をしていたのだろうか。

「ん」

 星川さんはこちらを見もせずに弁当をつついている。

「そっか……」

 ここ数日ほとんどお店に来なくて少し寂しかったけれども、飽きられたわけではないし、こっそりこんなことをしていたと思うと何だかくすぐったくなるというか……。

「……でも、どうして急にこんなこと?」

「いつもそらに作ってもらってるから、私も作ってみようと思って」

 弁当をつつきながらもごもご口にする星川さん。

 珍しく箸先ももぞもぞしているようだ。

「…………」

 星川さんがそんなことを考えてくれたなんて。しかもそのために練習までして……。

 その言葉に胸がきゅっ、と締め付けられるような不思議な感情を覚え、思わず弁当箱を握り締めていた。

 そんな星川さんにかけられる言葉と言えば。

「ありがとう。おいしかったよ」

「ん」

 ちらりとこちらを見た星川さんはいつものように頷き、また弁当を食べ始める。

 うつむいているせいで長い髪が垂れ、その顔は見えなかった。



(うぅぅぅぅぅ、そらが、そらがおいしいって言ってくれた……どうしようっ、心臓、爆発するかも……っ)

 少しくすぐったそうな彼の表情、口にした言葉。

 この言葉がほしくて頑張ったけれども、嬉しくてどうにかなりそうだ。

 ここまでの緊張、喜んでもらえた安堵、ほめてもらえた歓喜、様々な感情が押し寄せてきて……。

「んっ……く」

 あふれ出る感情がじわっ、と目じりからこぼれるのを感じた。

「星川さん?」

「……っ何でもない、そらのお弁当もおいしいよ」

 自分の反応に戸惑いつつ、まおはまたぱくぱく食べ始める。

 おいしくて、嬉しくて、そらのオムライスを食べたときとは違うけど、同じくらいに胸が高鳴って――。

「そう? 俺も今度ちゃんとしたの作ってみようかな」

 ――私は本当にこの人に恋をしているんだ。

 自分の手を額に当てても、実は熱なんかわからないように、もしかしたらずっと前からなのにわかっていなかっただけで。友達に言われても本当はわかってなんかいなかった。今だって微熱なのか高熱なのかもわからないけど……。

 初めての実感を噛みしめながら、まおはひたすら弁当をかき込んでいくのだった。 

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