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愛猫弁当(ねこべん)ー①


 翌朝――。

「これで……入ったっ」

 取っ散らかった自宅のキッチンでエプロン姿のは最後のおかずを弁当箱に押し込む。少し乱暴だったかもしれないけど、一応予定通り。

 ごはんとおかずを詰めた弁当箱をまおは指差し確認する。

「ごはんよし、おかずよし、うん」

 ごはんもおかずもちゃんと冷ましてから詰めたし、仕切りもちゃんと作った。

 あとは――。

「これを乗せて……」

 焼きのりで作ったそれを慎重にご飯の上に乗せて。

「……っできた」

 とうとう完成した弁当を一歩下がって眺める。

 好きなおかずはちゃんと入れたし、レイアウト通りにも作れた。

「ふふ……」

 そらの料理には敵わないかもしれないけど、私の精一杯を詰め込んだ。

 まだ食べてもらったわけでもないのに不思議な達成感に自然に笑みがこぼれる。

「みんなにも見てもらお」

 ここまで頑張ったのだからやっぱり友人達にも見てほしい。

 回転させたり、寄ったり引いたり、いろいろな方向から完成図を取ったのち、ようやく満足のいく写真が取れたまおは、それを友人達に送り、やはり慎重に弁当箱の蓋をしめる。

 最後にそれを巾着袋と保冷剤をバッグに入れて――。

「うん……!」

 気がつくともう登校時間はとうに過ぎていた――当然遅刻だ。

 それでもマイペースなまおは気にしない。

 散らかったものをシンクに放り込み、いつもより軽い足取りで登校の準備を始めるのだった。



 一時間目と二時間目の間、そろそろ次の授業も始まる頃――。

 教科書とノートを探して机の中をごそごそやっていたときだった。隣でがたがた音がしてそちらを見ると。

「…………」

 いつの間に教室に入ってきていたのか、星川さんが椅子に腰かけていた。いつもと変わらず、人間のそばで野良猫が毛づくろいをするように素知らぬ顔で爪や髪を弄っている。

「えーと、おはよう……」

 ここ数日店には来ていないし、学校でも会話がない。知らないうちに嫌われてしまったとか――考えたくもないけど――自分の作る料理に飽きてしまったとか。

 そんなことを考えながらも恐る恐る声をかけると。

「おはよ」

 星川さんは爪を眺めながら頷く。まるで昨日も声をかけたみたいに何も変わらない。

「その……最近お店来ないね」

「ちょっとやることあって」

「そうなんだ……」

「そらのごはん食べたいからまた行くね」

「あ、そう……うん、いつでも来てよ」

 やがて星川さんは頬杖をつき、くぁ、と小さくあくびする。

 いつもの星川さんだ。かと思うと。

「先輩、お店に来てる?」

「? うん、ずっと来てるよ」

「そう」

 それだけ言って星川さんは突っ伏して寝始めてしまった。やっぱりいつものマイペースな星川さんだ。

(??? 一体何なんだろう……)

 よくわからないけれども、どうやら嫌われたりしていないようだし、またお店に来てくれるなら嬉しい。

(今日は……やっぱりオムライスかな)

 星川さんが来てくれるなら好きそうなものを作ってあげよう。耕平の頭の中ではいくつものレシピがぱらぱらめくられていた。

 それから星川さんはずっとぐーぐー寝たまま、授業は始まり――。



 やがて昼休みを告げるチャイムが鳴ると、まおはむくりと身体を起こす。

 そして『例のもの』が入ったカバンを肩にかけ教室の外へと向かう。途中で友人達と目くばせをしてから目的地へとマイペースに歩いていった。

(大丈夫だよね……)

 歩きながら肩にかけた鞄を開いて中を確かめる。ちゃんと『例のもの』は入っている。

 これからそらに食べてもらうと思うだけで――。

(どうしよう……っ、どうしよう……)

 いろいろな『どうしよう』が頭の中をぐるぐる回る。

 うまくできていなかったら――

 がっかりさせたら――。

 ほめてもらえたら――。

 喜んでもらえたら――。

「…………」

 気がつけばまおは早足に廊下を歩き、半ば駆け出していた。



(今日は余ったものばっかりだけど、こんなもんだよな)

 外はかなり暑い。冷房の効いている教室で昼食を摂ろうと、残り物を詰めた弁当を机に広げようとしたときだった。

「おい、ちょっといいか?」

「えっ――」

 顔を上げると星川さんの友人のギャル達に机を囲まれていて、情けない声が出る。

 見下ろしてくる彼女達の表情はかなり殺気立っていた。

「え、ええと……な、何?」

 まさか何か機嫌を損ねるようなことをしてしまったのだろうか。耕平にとって星川さん以外のギャルはやはり苦手だ。声が震えてしまう。

「面貸せ」

「弁当だけ持ってこい」

「えっ、えっ……何で――」

 まさか弁当を取り上げるつもりなのだろうか。今は星川さんもいないし守ってくれる人間がいない。

 耕平が反射的に食べ物を守ろうと弁当箱の蓋に手を置くと。

「いいから来いっ」

「は、はいっ」

 ギャル達に凄まれ、耕平は弁当箱を手に慌ててついていくのだった。

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