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恋する猫は爪を隠すー②


 翌日――。

「先輩、紅茶のお代わりは――」

「いただくわ。氷は少なめね」

 今日もやってきた先輩は昨日と同じ――いつも星川さんが座っている――席に腰かけて、顔も上げずにナポリタンを食べている。

 くるくるフォークを回す手つきは手慣れているし、あまり口も汚さない。行儀はやっぱりいいけれども、無心に食べてくれているのがわかった。

(何か変な感じだけど……やっぱりいいよな、こういうの)

 出会ったのは数日前のことなのに、当たり前のように席について耕平の作った料理を食べている。この人のことをあまりよく知らなくても、自分の料理を食べてくれるなら大事な『お客さん』だ。

 と先輩が顔を上げて耕平にうろんげな視線を向けてきていた。

「……なによ?」

「いえっ、すぐ紅茶出しますね」

 それでもやっぱりまだ慣れていないらしい。

 食べている間は放っておこうとキッチンの中で慌ただしく動き始めると。

「まおちゃんはどうした? 昨日も来なかったよな」

 店の奥で新聞紙を広げている祖父が首を巡らせて、店内を見回していた。

 開店直後の店にいるのはやはり東雲先輩ひとりだけ、やはり気になるのだろう。

「さぁ……? 用事があるみたいだけど」

「そうか……まぁ、マイペースな子だからな。また来るだろ」

「うん、だといいね」

 実は耕平もずっと気になっていた。

 昨日は結局店に来なかったし、今日だってもう来てもいい時間なのに。

 学校では相変わらず寝ていたりぶらぶらしていたりでマイペースだし、体調が悪いとかではなさそうだし、耕平にも理由がわからなかった。

 もちろん星川さんにだっていろいろ都合も付き合いもあるし、毎日来てくれるわけではないことはわかっている。野良猫みたいにどこか遠出をしていてそのうちひょっこりやってくるとは思うのだが……。

 そんなことを考えながらぼんやりキッチンを片付けていたとき。

「耕平! お茶っ!」

 その声にハッと我に返ると、東雲先輩がカウンターの向こうからこちらを覗いていた。身長が足りないせいか少し伸びをしているようで、苛立っているのがわかる。

「すいません、今出しますね」

「氷は少なめよっ」

 マイペースな星川さんと違って、要求を通すまで鳴きまくる猫みたいな人だ。

 それでも、自分の料理を食べてくれて、いろいろ求めてくれれば作る方としては嫌な気分はしない。苦笑しながらアイスティーのおかわりを作り始めた。



 同じ頃、放課後の調理室――。

「おー、これはめっちゃうまくできたんじゃね?」

「うん、いいじゃん! 火加減もちょうどいいし、甘すぎないし」

「よくやった、まおっ、これならうついも一発っしょ」

「ん……」

 友人達にほめられまおの頬もつい緩む。

 ここまで大変だったけど、うまくできればやっぱり嬉しいし、自分が作ったものを誰かに食べてもらえるのも悪くない気分だ。

(そらもこんな気持ちなのかな……?)

 もちろん料理の腕だって、一生懸命の度合いだって違う。でも、同じような気分になれればやっぱり嬉しい。同じものを食べているときと同じくらいに楽しくなる。

「まおも食ってみっ」

「ん」

 友人が箸でつまんで差し出してきたそれをぱくりと口に入れる。

「うん……」

 卵はちゃんと火が通っているし、塩の加減も、刻んで入れた具材もちょうどいい。一瞬、カリッと小さな卵の殻を噛んだような気がするけど。

「……おいしい」

 友人達が小皿に乗った料理の写真を撮る中、まおの頬は知らずまた緩んでいた。

 そらにこれを食べてもらって『おいしい』と言われることを想像するだけで――。

「う~~~……!」

 いても立ってもいられない気持ちになったまおは調理室を歩き回り始める。

 料理研究部の生徒達が慌てて通り道を開ける中、まおはぐるぐる歩き回った。自分でもどうしていいかわからないのだ。

「こらこら、落ち着きなさいっ、まおっ」

「まだ作るもの残ってるだろ」

 友人達にたしなめられながらも、まおはまたぐるぐる歩き回り続けた。

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