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恋する猫は爪を隠すー①


「まお、ちょっと火強いっ」

「だって、早く火通さないと時間かかるし……」

「そんな強くしたら焦げるだろ、もー」

 まおがガスコンロの前でぐずぐずしていると、友人のひとりが素早く弱火に変える。

 放課後の家庭科室――。

 まお達は料理研究部に混じって騒がしく調理をしていた。

 制服の上にエプロンをつけ、長い髪をくるりと巻き上げたまおの周りで、友人達がスマホを見ながらあれやこれやとアドバイスをかけてくる。

「こりゃもう一回作り直したほうがいいな」

「慣れてないうちはもっと火弱くしないとだめだろ?」

「……わかった」

 四角いフライパンをひっくり返し、小皿にどちゃっと乗った卵焼きの試作品はこれから友人が食べてくれる。

 そしてまおはまたボウルに卵を割り入れ箸でカチャカチャ溶き始めた。

「まお、ちょっと急ぎすぎ」

「うついだっていつもそんな急いで作ってないだろ? あいつは慣れてるから手際がいいだけだって」

「こりゃなかなか手こずりそうですなぁ……ぁ、しょーゆ取って」

「っていうかコレステロール? 摂りすぎっぽくね」

 調理室の大きな机に腰かけた友人達は出来損ないの卵焼きに醤油をかけ、ぺちゃくちゃ話しながら食べている。

 真剣にやっているまおと対照的に何やら楽しそうだ。

 そんな友人達を横目にまおは卵をかき回し始める。

(……本当に大丈夫かな)

 言われるままやってはいるものの、実はまお自身確信がない。


 『お弁当交換作戦』――これが友人達の考えた、ライバルへの対抗策だった。

 こっそりお弁当を作り、それを昼休みに耕平と交換する。ああいうタイプには食べ物を分かち合うのが一番効く、それもまおの手料理となれば効果は倍増、という目論見なのだが。

(うまくできなかったら嫌われるかもしれないじゃん……)

 作っていて自分でもへたくそすぎるのがわかる。もし変なものを作って食べさせたら料理の好きなそらを幻滅させてしまうかもしれない――優しいからそのときは食べてくれるかもしれないけど。

(うぅ……早く作らないと)

 それに、こうしている間もきっとそらのお店であの人はおいしいものを食べているのだ。あの先輩は絶対に今日も来ているし、何か食べさせてもらっている。もしかしたらいつも私が座っている席で。

「まおっ、飛び散ってる!」

「もうちょっと丁寧にかき混ぜろよっ」

 気がつけば床に溶き卵の一部が飛び散っていた。乱暴にがちゃがちゃやりすぎてしまったらしい

「……ごめん」

「そんなに急がなくても別に何も起きてないって」

「あいつはそんな人間じゃないだろ?」

「でも……」

 まおが先ほどから何度も友人達に注意されているのにはこういうわけもあった。

 友人達の言い分はもちろんわかる。それでも、そらがあの人に何か作って食べさせていると思うだけで、焦ってしまう――自分の食べ物が取られてしまうわけでもないのに。

 と、友人達の視線を感じてそちらを見ると、机に腰かけた友人達がにやにや笑っていた。

「……なに?」

「いや、まおも変わったなーと思ってさ。今まで食べることしか考えてなかったのにさ」

「ちゃんと年頃の女の子になってお母さん達は嬉しいぞ」

「……うるさいなー」

 顔が赤くなるのを感じ、まおは慌ててフライパンに向き直り、熱したフライパンに溶き卵を流し込んでいく。

 私がこんなに焦っているのに、みんなが楽しんでいると思うと面白くない。

 それでも、ライバルの登場にどうしていいかわからず、友人達に頼るしかないのだ。

 それに、そらに私の作ったものを食べてほしいという気持ちもやっぱりある。

「そうそう、火は弱いままで大丈夫だからなー」

「うついのことを考えて作るんだぞ」

 そんな友人達の言葉を背中で聞きながら、まおはじっとフライパンを見つめていた。

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