初陣前夜
☆
翌朝――。
「「「ほっほぉ~……」」」
教室の隅でまおは友人の机に腰かけ、それを友人達が取り囲みたむろをしている。近づきたくないのか周りは妙な空間ができていた。早速昨日の出来事を報告したのだが……。
友人達は何やらにやついている。とにかくわくわくして仕方ないようだ。
一方のまおはというと。
「……何でそんな嬉しそうなの」
自分でも不機嫌な声になっているのがわかった――聞いてもらいたくて前日にメッセージを送ったのに。もうちょっとくらい心配してくれてもいいはずだ。
この前映画に行ったときだって散々恥ずかしい思いをさせられたし……。
「何言ってんだ、ここからが面白いところだろ。そんなうまくいくと思ってたのか?」
「いつかこうなるかもって前に言ったじゃん」
「そうだけど……」
友人達に言われたことは覚えている。
とはいえ、まお自身、未だに『ライバル』が現れるという感覚がわからないのだ。ただ、昨日のことを思い出すと面白くないだけで。友人達が楽しそうにしているのもやっぱり面白くない。
「で? そいつ可愛いの? まお的にさ」
昨日出会った少女の姿を思い出し、まおは曖昧に頷く。
顔立ちは少し幼いし、身長も私よりかなり低い。私達の『可愛い』とは違うかもしれないけど、可愛いと言っていいはずだ。
「恋愛とか慣れてそうな感じだった?」
まおは即座に首を振る。
元々女子校だし、あの様子では男の子との会話なんてほとんどないに違いない。自分より話していないはずだ。
「ぶっちゃけ、まお的にやばそうな感じか?」
即座に頷いていた。
一回そらのお店で出くわして何か食べたくらいで、私と同じように夢中になるとは限らない。でも、何となくわかる。きっとあの子はまたお店に来るし、そらもご飯をあげて、居座るようになる。
「「「ふーむ……」」」
まおの言葉に友人達は腕を組む。それでもやっぱり楽しそうだ。
「ロリ系のお嬢様とデビュー戦かー、なかなか熱いな?」
「っていうか、うついは何考えてるんだ、来た女全員餌付けする気か?」
「まぁ、何も考えてないだろな……」
「…………」
三人が好き放題に話している中、まおはうつむいてネイルを弄っていた。
昨日のことを思い出すとどうしても面白くない。もしあの子がまた来たらと思うと……。
と、友人のひとりがまおの頭をくしゃくしゃ撫で回す。
「大丈夫だって! うちらに任せとけ」
「お嬢様のひとりやふたり、何とかなるって!」
「ん……」
楽しそうな友人達の言葉にまおはもごもご答えるしかない。
また恥ずかしい思いをさせられそうで嫌だけど、やっぱりみんなに頼るしかないのだ。それに、そらをうちに呼べたのもみんなのお陰だし。
と、開けっ放しの教室の引き戸から見慣れた男子生徒が入ってくるのが見えた。
途端、心臓が跳ねる。先ほどの沈んだ気持ちも一瞬で吹き飛んだ。
ひょい、と机から降りたまおはとことこ自分の席――彼の隣の席――に歩いていく。偶然、今登校したいみたいにほんの少し声を交わすだけでいい。
(でも、何話そ……)
昨日のこと? 授業のこと? テストのこと?
そんなことを悩むのも楽しい。
三人に微笑ましく見守られているのにも気づかないまま、男子生徒に近づいていった。




