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東雲宮古は甘いものに逆らえない②

「好きなところ座って。今タオル持ってくるね」

「気を遣わなくていいわ。持ってる」

 身長が少し足りないのだろう、カウンターの椅子にぴょん、と飛び乗るように座った少女は取り出した小さなタオルで髪を拭いている。あまり人に触れられたくない猫が毛づくろいをするようなとっつきづらさだ。

「もう少ししたら止むと思うけど、よかったら傘使ってもいいよ」

「…………」

 やはりかなり気位が高いらしく、少女はわずかに頷くだけだ。しばらく放っておこうと耕平は着替えるため店の奥へと向かうのだった。

「耕平の友達か?」

 店の奥では祖父が伝票を束をめくり、顔も上げずに聞いてくる。

 あまり楽しくはなさそうだが溜めておくと余計に面倒になるのを耕平も知っていた。

「違うけど、店の前で雨宿りしてたから」

「まおちゃんを思い出すな」

「うん。俺も」

「最初に油の交換して、準備が終わったら何か作ってやっていいぞ。そのあとで在庫の確認してくれ」

「わかった……!」

 やはり祖父もそんな気がしていたのだろうか――あるいはまた友達になってくれると踏んでいるのか。

 何にしろ初めてのお客さんに料理を作ることができるのは耕平も嬉しかった。もちろん気に入ってくれるとは限らないが。

 そしてようやくいつもの営業が始まる。

 仕事服に着替えた耕平は店の前に傘立てを出し、靴を拭くシートを敷き、ドアにかかっている札をひっくり返し、机や椅子を拭き、卓上の調味料を確認して回る。

 その間も初めての訪問客をちらちら観察していた。

(どこの学校の子だろう……)

 やはり来客はなく、いるのは見慣れない制服を着た突然の訪問者だけだ。星川さんが使っている椅子に腰かけ、頬杖を突いて退屈そうに足を揺らしている。


 小さいながらもホールの準備が終わると、今度はキッチンで下準備だ。

 祖父が予め炊いておいてくれたお米を切って水分がこもらないようにし、キャベツの千切りは少なめに作っておき水にさらしておく。卵は冷蔵庫からキッチン内のカウンターに移し、すぐに使えるように。

 それが終わったら揚げ油を交換して――。


 かなりの力仕事を終え、ようやく準備がひと段落したとき。

 耕平はちらちらと少女の姿を確認する。少し落ち着いたのか、きょろきょろと店内を見回していた。

(聞いてみるか……)

 星川さんのようにやってきたとしても、同じように食いしん坊とは限らない。

 耕平はグラスと水の入ったピッチャーを用意し、キッチン側からカウンターに置いてやる。

「よかったら何か食べる?」

「っ?」

 声をかけられた少女はぱっ、と顔を向け不思議そうに耕平を見つめ返してくる。

 自分にそんな言葉をかけてきたのが信じられないようだ。

「あんまりちゃんとしたものは作れないけど、せっかく来てくれたから。初めてのお客さんにはサービスで出すことにしてるんだ」

 その言葉に、少女がの表情がわずかに険しくなる。

「ほどこしは結構よ。別にお腹は空いてないし――」

 言いかけたとき、そのお腹が微かに鳴るのが耕平にも聞こえた。

 途端、少女はぱっとお腹を押さえ込む。その顔も真っ赤になっていた。

「こ、これは、その、えーと、えーと…………挨拶よっ」

「そっか。じゃあ、何か作るよ。いらなかった食べなくていいから」

 そんな少女の反応に苦笑した耕平は、キッチンを忙しく動き始めた。

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