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星川さんは手を握りたい④


「やっぱりできたてはおいしいね」

「ん」

 星川さんは言葉少なに目の前のチーズケーキを食べている。いつものようにぶっきらぼうというよりも、食べ物に夢中になっているのが何となくわかった。

 案内されたのは映画館から少し離れたところにあるレストランだった。元々はケーキが人気の海外にあったチェーンで最近国内に出店しているとのことだ。食べ物に目がない星川さんらしく、開店直後に見つけて通っているらしい。

 そんな女性客は少なくないらしく、店内は休日の昼過ぎということもあってかなり混雑していた。

「ここの一番人気なんだよ。夕方には売り切れちゃうくらいだから」

 実際、出されたベイクドチーズケーキは焼き立てをうりにしているだけあって、あまり甘いものを食べない耕平でもどんどん食べられてしまう。。

 下の生地はサクサクと軽く、内側のチーズ部分はぱさぱさすることなく口の中に控えめな甘みと酸味が広がる。セットで出てきた紅茶もきちんと淹れられていた。

「こっちもおすすめ」

「うん、それじゃ……」

 星川さんがシフォンケーキが乗った皿をつっ、と指で押し出してくる。

 彼女の前にはチーズケーキだけで他にもアップルパイやシュークリームパイなどが並べられている。先ほどかなり食べたはずなのに相変わらず食欲だ。

 そんな星川さんが差し出してきたシフォンケーキを、耕平は遠慮しながらフォークの先で削り取って口に入れる。スポンジの部分はふわっと軽く、口の中に入れただけで溶けるような触感が心地よい。

「うん、おいしい」

「ん」

 相変わらずケーキを食べながら星川さんは微かに頷く。そして紅茶をひと口すすり、またケーキを食べ始めた。

(相変わらずだな、星川さん)

 服を汚さないようにしているのだろうか。いつもより控えめな食べ方だが、おいしそうに食べる姿はやっぱり見ていて飽きない。

 それに、星川さんがきな食べ物を教えてくれて、共有しようとしてくれることも嬉しかった。やっぱり少し気恥ずかしいけれども、今までにない体験はいいものだ。

「…………なに?」

 そんな耕平の視線に気づいたのだろう。夢中でケーキを食べていた星川さんが顔を上げる。探るような視線だった。

「いや、なんでもないっ、紅茶のお代わりもらおうかな」

 その視線にたじろいだ耕平は慌てて紅茶を啜るが、星川さんは突然何かを思い出したように腰を上げる。

「ちょっと用事思い出した。食べてて」

 それだけ言って店のどこかに消えてしまった。

 わけがわからないが、きっとマイペースな星川さんなりに何かあるのだろう。耕平は静かにケーキを食べ続けるのだった。



 店内の一角、先客がいるボックス席に向かったまおは、ソファの空いている場所にどさりと腰を下ろす。

「ふぅ……」

 そんな彼女を先客のギャルの友人達が取り囲む。

「よーし、よーし、作戦通りだ!」

「このまま攻めれば押し切れるからなっ」

 ある者はまおの髪を整えてやり、ある者は服をチェックし、グラスの水を飲ませてやる。

 先ほどの映画館からずっと彼女達がこうしてついてきていて、状況を観察しながらアドバイスを出してくれているのだ。実際、まおの行動のほとんどは彼女達の『指示』によるものだった。

「やっぱり変だと思われてない……?」

「何言ってんだ、あいつにはこれくらいでちょうどいいんだよ」

「さっきのラウンドは確実に取ったぞ、あんなふうに服引っ張られて、あいつじゃなかったら倒れてるな」

「……うるさいなぁ」

 友人達に映画館での出来事をからかわれ、まおはいつも無表情な顔に不機嫌の色を浮かべつつも、わずかに顔が赤くなるのがわかった。自分でもあんなことをするつもりはなかったのに、勝手に手が動いていたのだ。

 もとはといえばみんなが怖い映画を見せるから悪いのに。

「とにかく次のラウンドが勝負だぞっ、わかってるよな?」

「本当にするの? 今日はここまで――」

「ここまで来てびびってどうすんだよっ?」

「でも……」

 友人達に詰められ、まおはぐずぐず言いながらグラスの水を飲む。

 彼女達の計画では店を出たあとに今度は自宅に耕平を誘うことになっていた。

 今まで友人達がよく来ていたが、耕平を自分の家に呼ぶのは別次元の話だ。家や部屋に入れるのが嫌というわけではないし、彼の部屋にも入り浸っていたのだから二人きりになるのが嫌というわけでもない。

 それよりも、もし断られたらと思うと――。

「いきなり家に誘ったら変だと思われるかもじゃん……」

「変じゃないって、かるーい感じで誘えばいいんだよ。ちょっと寄ってく? くらいの感じでいいからさ」

「そら、そういうの嫌いかもしれないし……」

 まおの言葉に友人達は腕を組んで黙り込む。

 確かにいくらまおが攻めても相手がどう反応するかは読み切れないのだ。

「……まぁ、一理ある」

「免疫なさそうだもんな、あいつ……」

「うーむ……」

 騒がしい店内でギャル達がうなっていたとき、友人のひとりが顔を上げる。

「ユウとアンズがいるじゃん!」

 途端、三人の友人達がガッツポーズをする。

「勝った! これは勝ち確!」

「最初からこの手でいけばよかったわ」

「???」

 友人達の盛り上がりが理解できないまおだが、友人達が詰め寄ってくる。

「いいか? まお、あいつに犬か猫どっちが好きか聞くんだ」

「うん……?」

「犬が好きなら見に来るように言えばいい。猫が好きなら逆」

「つまりどっちが答えでもまおの勝ちなんだよっ」

 話はまおにもわかった。動物を見に来るとか理由があれば誘いやすくなる。でも――。

「両方好きじゃなかったら? 動物嫌いかもしれないじゃん」

「「「それはないわ」」」

 まおの言葉に三人は突っ込みを入れる。

「まおに餌付けするようなもの好きが動物嫌いとかない。絶対ない。保証する」

「何それ……」

 よくわからないけどちょっと面白くない答えだ。

 まおが無表情ながらもふくれていると、友人のひとりが前髪をもう一度整え、その背中を叩く。

「ほら、もう行け! 誘っちゃえばこっちのもんだぞ」

「家に誘い込めばあとは勢いだ、いいなっ」

「…………」

 よくわからないまま追い立てられ、まおは席に戻っていくのだった。


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