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星川猫は恋を知るー①


 開店前のうつい亭のキッチン――。 

「…………」

 フライパンに回し入れた溶き卵を箸でそっと中央に寄せながら、じわじわと固めていく。

 あらかじめ入れておいたバターがじゅわじゅわと微かな音を立て、香ばしい匂いがふわっと漂っていた。

 次の瞬間――。

(ここだっ)

 耕平はフライパンをことこと揺らして端に寄せていき、オムレツ状に変えていく。

 そしてチキンライスの上にぽん、と乗せ、最後に特製のケチャップをかけて――。

「っ!」

 カウンター席で見ていた星川さんの腰が浮く。

 自分の目の前に運ばれてくるのかと目をきらきらさせているが。

「ごめん、これは俺が食べるね」

 そばで見ている祖父に言われなくてもわかった。これは卵にちゃんと火が通っていない。半熟具合を意識しすぎて中はぐずぐずだ。

 ちなみに昨日は火を入れすぎて硬くなってしまった。

「……わかった」

 星川さんは見るからにがっかりした様子で椅子に腰を落とす。

 ここしばらくずっとオムライスの練習をしているのだが、なかなかうまくいかない。

 星川さんはおいしく食べてくれるかもしれないが、祖父に認められるレベルには達していないため、出すことはできなかった。

「今日はピラフにするよ。サラダもつけるね」

「うんっ」

 それでも、星川さんはごはんにありつけるとわかって機嫌を直したようだ。

 わくわくしながら耕平が作るのを見守っている。

(やっぱり難しいよなぁ……)

 そんな星川さんの視線を感じながらピラフを作り始める耕平は、内心溜息をついていた。

 何度作ってもうまくいかないし、材料を無駄にしないよう作れるのは開店前と閉店後に一回ずつ。ほぼ一発勝負だ。

 少しずつうまくなってきている感じはするのに、あるラインを越えられる気がしない。

 数十年やってきた祖父に追いつけるかどうかなんて、難しいことだとわかってはいるのだが……。

「まおちゃんに何か食べさせたら、開店な」

 そばで見ていた祖父は興味をなくしたようにのそのそ店の奥に行ってしまった。

「……わかった」

 正直、まだ作り直したいし、祖父のアドバイスもほしいのだがやはりそう甘くはない。あくまでもお店あってのことなのだ。半ばできない料理に気を取られつつ、またフライパンを温め始めるのだった。

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