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ギャルの休日ー②

 耕平は先に立ち、二階へと続く幅の狭い急な階段を上がっていく。

 元々小さな一軒家だけあって二階も狭く、廊下に沿ってあるのは祖父の部屋、耕平の部屋と、祖母が他界する以前は祖父と一緒に使っていた寝室――今は収納部屋になっていた。

 そして耕平は古い木のドアを開け、小さな洋室に星川さんを案内する。

「そのへんに座って、狭いけど」

「ん、お邪魔します」

 星川さんが狭い室内で腰を落ち着ける場所を探している間に、クローゼットからちゃぶ台を出し、部屋の真ん中に置く。そしてその上に星川さんの『おみやげ』。

 狭い部屋はさらに狭くなってしまい、星川さんは耕平の使っているベッドとちゃぶ台の狭いスペースに身体を押し込むように腰を下ろした。

「ごめんね、狭くて……」

「いいよ別に、私、こういう場所結構落ち着くから」

「そっか、それじゃお茶入れてくるからちょっと待ってて」

 狭い場所に身体を押し込んで落ち着いている姿は、段ボールの中にいる猫みたいだ。

 そんな星川さんに苦笑しつつ、耕平は部屋を出て一回の予備の台所に向かうのだった。



 階段を下りる足音が遠ざかっていくと、まおはのそりと立ち上がる。


(ここがそらの部屋……)

 今日はそらと一緒にご飯を食べられるだけでよかったのに、まさか部屋に入れるなんて。

 まおにとって、わざわざご飯を買って誰かと一緒に食べようなんて、初めてのことだ。店が休みだとわかっているのに、いてもたってもいられなくなってやってきてしまった。

 そして友人の家に遊びに行くことはあっても、男の子の部屋に入るなんていうことも初めてだ。

 普通の学習机といすのセットに、その横に本棚――マンガと料理の本が詰まっている――その横には小さめのクローゼットと、残っているスペースにようやく置いたようなベッド……。

(男の子の部屋ってこんななんだ……)

 まおの知っている友人の部屋とはあまりにも違う。質素というか素っ気なくて、でも片付いてはいるし。

 あんまり部屋をじろじろ見てはならないとわかっているのに、止めることができない。今まで誰かのことをこんなに知りたいなんていう経験がなくて、とにかくすべてが新鮮だ。

 そして気がつけばベッドをじっと見つめていた。

「…………」

 何となく気になる。寝そべってみたくなるというか、ごろごろしたくなるというか――。

 そんなとき、急な階段を慎重に上がってくる足音が聞こえてきた。



 片手にお茶の入ったポット、片手に取り皿とカップの乗ったお盆を持った耕平はゆkっくりと階段を上がる。そして部屋のドアを開けると。

 星川さんが先ほど腰を下ろしたスペースで正座して、そわそわしていた。

「……何でもないっ」

「そう? ならいいけど」

 突然何を言い出したのかわからないけど、もしかしたら早く『おみやげ』を食べたかったのかもしれない。

 耕平は素早く食器を並べ、二人分のお茶――中華に合いそうなのがほうじ茶しかなかったけれども――をカップに注ぐ。

 そして星川さんが買ってきてくれた海鮮丼とエビチリをそれぞれの皿に取り分けるが。

「…………」

 星川さんは料理の取り分けられたお皿をじっと見つめたまま動かない。普段ならわき目も振らずに食べ始めているのに。

(あ、そうか……)

「いただきます」

 耕平がぱちんと手を合わせると。

「いただきますっ」

 予想通り耕平が食べ始めるのを待っていてくれたのだろう。

 星川さんはいそいそと食事を始めた。


 そして狭い部屋で二人きりの静かな昼食が始まる。

 星川さんが推す通り、確かに料理はおいしかった。

 海鮮丼は白身魚やホタテなどいろいろな魚介類が入っているし、どれも具材が大きくて食べ応えがある。ご飯の部分は実は『おこげ』になっていて『あん』がしみ込んでぐずぐずにならないように工夫されていた。

「おいしいね」

「ん……ここは魚介類すごい大きいからおすすめ」

 言いながら、星川さんはお茶をすすり、時折垂れそうになった長い黒髪を耳にかけ、またぱくぱく食べ始める。相変わらず気持ちのよくなる食べっぷりだ。

 そんな星川さんにつられるように耕平もエビチリをすくい口に入れる。

 大ぶりのエビの触感、酸味のあるソースは星川さんの言う通りじんわりとした辛さがあってそれがまた食欲を誘う。

「こっちもおいしいね、微妙に辛くて」

「ん。あんまり行儀よくないかもだけどチャーハンとかに乗せてもおいしいんだよ」

「へぇ……」

 食べ物の話をしているときの星川さんは普段より楽しそうだ。

 本当に食べるのが好きなのがこちらにまで伝わってくる。

(何かこういうのもいいな……)

 今まで星川さんに食べてもらって、喜んでくれればそれで嬉しかったのに、こうして一緒においしいものを食べるのもなかなかいいものだ。

 五月の爽やかな風がさわさわ吹き込んでくる狭い部屋で、野良猫みたいなギャルと向かい合って中華を食べる。不思議だけど、心地よい時間が過ぎていくのだった。

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