ギャルの休日ー①
ゴールデンウィーク明けの土曜――。
耕平は店の二階にある自分の部屋でのんびりとスマホを弄っていた。
GW中、店はかなり繁盛したし、その代わりとして久しぶりに土日に店を休むことになったのだ。
そんなわけでこうしてゆっくり過ごしているのだが――。
(昼は何食べるかなぁ……)
そろそろお腹も空いてきたものの、今日は祖父が出かけていてキッチンを使えない――きっとたまの楽しみである競馬にでも行っているのだろう。理由は何であれいないときは使ってはいけないルールになっていた。
そうなるとどこかに食べにいくか買ってくるかしかないのだが、いつも自分で作っているだけにかなり億劫だ。
普段忙しくしているだけに余計に時間の流れが遅く感じた。
それに――。
(星川さんも来ないし……)
いつもなら休日でも早い時間にやってきて、今頃はいつものカウンターの席で何か食べているくらいだ。
いつの間にか店に居座られるようになってしまったかたちだけど、今はいない方が逆に不自然な気がする。
と、下の階、店の玄関あたりから何やら人の気配がする。
祖父が用事を終えて帰ってきたのかと思いそのままにしておいたのだが、やがて来客を告げる古いブザーがビーッ、ビーッ、と鳴り始めた。
「?」
近所の人が回覧板を持ってきたか、祖父宛ての郵便物か何かだろう。
その間もブザーはかなりしつこく鳴り続けている。
「はいはい、わかりましたよっ」
ずいぶんせっかちな客だ。こういう人用に祖父に頼んでインターホンに替えてもらった方がいいかもしれない。
そんなことを考えながら耕平はのそのそと動き出した。
そして階段を下り、店に出てみると――。
ドアの外で見慣れた人影が何やらごそごそ動いていた。
どうやら店内の気配を窺っているらしい。そしてまたビービーとブザーを鳴らし始める。
(……星川さん?)
慌ててドアに駆け寄り、鍵を開けてドアを開いてやると、星川さんがとことこ入ってくる。
いつもの着崩した制服ではなく、ボーダー柄の、太ももが隠れるくらいのだぼだぼのカーディガンに、細めのダメージジーンズ、落ち着いた色のスニーカー。
私服でもやっぱり店に迷い込んできた野良猫みたいないでたちだ。
「急にどうしたの? 今日はお店休みだって――」
先日言ったはずだ。
もちろん、祖父が外出しているからキッチンは使えないし、星川さんに何か食べさせることもできない。
それだけは結構しつこく教えたはずなのだが。
「知ってる。これ、食べよ」
星川さんは手に持っていたレジ袋らしきものをがさっと突き出す。四角い発泡スチロールの箱がいくつか入っているのがわかった。
どうやら何か食べ物を買ってきてくれたらしい。
「最近駅のそばに中華料理屋あるでしょ? あそこの海鮮丼とエビチリ」
「あ、うん……ありがとう」
星川さんから袋を受け取りながらも、少し戸惑っていた。
耕平も評判は聞いているには聞いていた。駅前ということもあって土日は相当混んでいるということも。
一緒に食べるためにわざわざ並んで買ってきてくれたのだろうか。
「ここのエビチリ、微妙に辛くておいしいんだよ」
星川さんは相変わらずだ。涼しげな瞳で見つめ返してくるけど、何となく一緒に食べるのをわくわくして待っているようにも見える。
(もしかしたらいつものお礼かな……?)
いつも餌をあげている野良猫がお返しに鳥やネズミを捕ってくるような感じなのかもしれない。
別にお礼がほしくてご飯を作っているわけではないけれども、星川さんなりの気遣いはやっぱり嬉しかった。
「それじゃ、お昼にしようか。えーと……」
耕平は客席を見回すが、昨日今日で掃除をしたために椅子は全部机の上に置かれていて食事ができる状態になっていない。
「……ごめん、今は店使えないから、俺の部屋でいい?」
「ん、別にいいよ」
まさか星川さんを部屋に案内することになるなんて。
女の子どころか友人を部屋に入れること自体初めてだ――多分、星川さんは何も考えていないだろうけど。
耕平は妙な気恥ずかしさと緊張を覚えながらも、星川さんを部屋に案内するのだった。




