第2話 戸惑い
俺が挨拶をすると朝比奈は驚いたような顔をしていた。そんなに俺が無感情で挨拶したのが驚くことなのだろうか?。
「ふふっ、驚いたな。そんな顔で挨拶されるとはね。普通はみんな笑顔か緊張した顔で挨拶してくれるのに、面と向かってそんな顔をされたのは人生で二度目だよ。」
「一度目は中学生の頃に優勝した大会で準優勝の子に向けられた時だったかな。その子とは顔見知りだったからそんな顔で見られ時は……心底驚いたものだよ。あれは今でも鮮明に覚えている、嫉妬の目をしていた。今の君もそんな目をしているね。……私君に対して何かしたかい?」
そう言う朝比奈からは戸惑いの気持ちが見て取れた。確かに戸惑うのも無理はない。だって俺が直接この女と接したのは今日が初めてであり、俺の様な平々凡々の人間は天才様の目に耳にも止まらないだろう。
だが俺は違う。この一年間、聞きたくもない噂は学園中を回りすぎて嫌でも聞いてしまうし、見たくもないけれど近くを通り過ぎば皆が騒ぎ見てしまう。そんな一年間を過ごしてきたからか、この一年間で積もりに積もった感情が今噴き出しているみたいだ。
「いや、直接君が俺に対してしたことは何もないからそこは安心してほしい。ただ単に君のその才能に嫉妬した、いや嫉妬してしまった一人の人間というだけだ。まあ有名人にはありがちなことだと思うから今更だと思うけどな。」
「そうか。私が何か君に対して悪いことをしてしまったかと思ったけれど何もしてないならよかった。まあこれから同じサークルの仲間としてとりあえずは仲良くしよう。」
皮肉を言ったつもりだが少しも嫌な顔もせず、しかも仲良くしようと言う始末。天才は心も広いのかよ。そう思いながらも先生がいる中で拒絶してしまえばまた後で何言われるかわからないし何されるかわからない。
「あ、ああ。これからよろしく。」と渋々言うしかなかった。
そういったがまあ仲良くする義理はない。適当にさぼりつつあまり会話しないようにしよう。そうしよう。
「よし!とりあえずの顔合わせは大丈夫だな!まあ多少関係に溝はあるようだが、今後はこの三人でサークルの活動を行っていく。今日のところはこれにて終了だ。各々今後のサークル活動に尽力してくれ!」
先生はそう言うと「私はまだ仕事が残っているから戻るぞ」といって教室を出ていこうとする。
「ちょっと待ってくださいよ先生。最後に大事なことは教えてくれませんかね?」
「ん……何かな赤崎?」
「このサークルの名前ですよ先生。」
「ああ、そういえば言ってなかったな。では改めて……ようこそ! 我らが『スクアップ』へ歓迎するぞ♪」
そう言って先生は満足した顔で教室を出ていった。
先生がいなくなった教室には俺と朝比奈の二人。美少女と二人きり、漫画だとこのシチュエーショは最高かもしれない。でも俺にとっては最悪だ。こんな美少女でしかも天才な奴と二人きりだなんて一秒たりとも居たくない。
「今日は解散らしいから。俺は帰らせてもらう。じゃあな王子様。」
「ちょっと待ってくれ、明日からのサークル活動なんだけど、放課後この教室に来てくれればそれでいい。明日君が来るのを待っているぞ。」
朝比奈は笑いながらそう言った。何度もお前のこと嫌いって雰囲気を出している人間にこんなことを言うなんて、天才は本当に才能もあって心も広いのかよ。そう思うと惨めになってきた。俺は才能もなく心も狭いのに。正反対じゃないか。本当に……
天才と関わるのは嫌だ。
「わかった。」と俺は吐き捨てるように言って教室から出るしかなかった。
_____教室に誰もいなくなったことを確認し笑顔を止めた。先ほどまでの息が詰まる雰囲気がなくなり深呼吸をして考えを巡らせた。
「あの目……なぜ彼はあれほどまでに私に嫌悪感を抱いているのか、私に嫉妬する人間は多いけれど彼ほど強い意志は感じなかったな……。」
考えても考えても彼がわからなかった。それに彼にはなぜか既視感があったがそれすらもわからなかった。
「これ以上考えても仕方ない……。とりあえずなんでそこまで私に嫉妬するのか明日彼に聞いてみようかな。縁あって同じサークルメンバーのメンバーになったんだから仲良くしたい気持ちもある。それに彼には何か嫉妬をし続ける原因があるのかもしれない。とりあえず話をするためにも彼を帰らせないようにしないと。あの感じだと明日この教室には来るとは限らないだろうし。でも私が話かけたらかえって逆効果かも……そうだな」
そう言って朝比奈はおもむろに電話を取り出しだ。
「あっ沙月先生、ちょっと頼みごとがあるんですけども……」