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機皇世界  作者: 小土 カエリ
全ての始まり
9/33

新たな出発

よろしくお願いします。

 輸送隊を襲撃してから一日が経過した。俺たちは次の目的地を箱の解除キーがある各務原にし、出発は明日を予定していた。すでにバイクは売却し、余った車両は処分した。


 今は俺は宿屋の机でパソコンを触っていた。エーデルワイスは箱を持ったまま向かいの椅子に座って寝ていた。


 俺は布団の上でごろごろとしている紫苑に話しかける。


「そいう言えばお前、三日後ぐらいに正次とデートの約束してなかったか?」


「あんなの行くわけないでしょ。弾を引っ張ってくるための嘘に決まってるじゃん。明日にはこの町を出ていくんだし、もう二度と会わないから無視でいいでしょ。」


 それもそうだと思い、再び俺はパソコンを触り始める。エーデルワイスが抱えている箱をスキャナーに掛けてみたが、中にはハンドガンが入っているようだった。ただ、形が歪になっていて、もしかしたら壊れているのかもしれない。


 でも、外からそれを確認する術はなかった。なので、素直に鍵を探して開けた方がいいだろう。


  パソコンにディアノートを繋いでいつものように解析を進めていると、扉をノックされる。


「はーい。」


 俺は扉を開けると、そこには那由他さんがいた。


「あの…俺泊ってる宿教えましたっけ…?」


「正次が昨日あいつの宿を突き止めたと言っていて、私が遣わされたの。」


「ええ…」


 突き止めたという言い方から、この数日間俺たちの泊っている宿をずっと調べていたのだろう。その事実だけでストーカーとして警察に通報できるくらいだ。逮捕されないにしても厳重注意くらいはいくだろう。


「通報していいですか?」


「やめてくれるとありがたいけど、止めはしないわ。」


 一番近い存在であろう那由他さんにここまで言われるなんて、本当に嫌われているんだな。


「それで、なんの用ですか?」


「この手紙を渡してほしいと言われたの。」


 那由他さんは鞄から二通の手紙があった。それぞれ「紫苑ちゃんへ。」と「エーデルワイスちゃんへ。」と書いてあった。


 俺は嫌な予感がしながらもその手紙を受け取る。ていうかあいつに対して自己紹介はした覚えがないのだが、盗み聞きしていたのだろうか。その事実だけでもう死ぬほど気持ち悪い。名前すらも面と向かって聞けないとかヤバいだろ。


「那由他さんは中身はしっているんですか?」


「知らないわ。」


「なら一緒に見ていきませんか?絶対クソですけど。」


 俺はそう言って、那由他さんを迎え入れる。紫苑たちと軽く自己紹介を交わし、四人で手紙を開けて中を見る。


「まず紫苑ちゃんのからいくよ。」


 そう言って手紙を開けると、紫苑は全員に聞こえるように音読する。


「えーなになに?『俺のシオンへ。この間の戦闘で、俺の強さがどれだけ凄いか、わかってくれたかと思う。俺は足に、重傷を負いながら、必死に戦った。凄いだろ。君が望むなら、俺の元に、来てくれ。俺が守って、やるよ。』だってさ。那由他さんにあげるよ。」


「私が一番と言っていたのに他の女にラブレターを送るなんて…」


「それも那由他さんに運ばせてるところが最高に性格悪いな。」


「素直に気持ち悪いと思いました。」


 俺たちは思い思いの感想を言いあうが、肯定的な意見は一つも出てこなかった。というかこれを那由他さんに見られる可能性とか考えなかったのだろうか。そこまで頭が回らないから今こうしているのだろうが、流石に頭が悪すぎるだろ。


「次は私宛の物ですね。『この間は、助けてくれたね。だけど、君が来てくれなくても、俺は自分の力で、どうにかできたよ。でも、一応感謝は、しておくよ。それより、君が望むなら、俺の元に、来てくれ。俺が守って、やるよ。』後半は全く同じですね。語彙力が尽きたのでしょうか?」


「要は自分の物になれっていうことよね?」


「まあ、そうですね。」


「守ってもらわなくても自分で何とか出来るっていう所が、最高に自尊心極まってて草なんだ。」


 紫苑はケラケラと笑っていたが、目がすごく冷たかった。言ってることと表情が噛み合ってない。


「ちょっと待ってください。二枚目があります。」


「マジかい。もうお腹いっぱいだよ。」


 紫苑が笑うのをやめてだるそうな顔をしながら、後ろから抱き着いてくる。このままじゃ紫苑のストレスがマッハだ。


「今日の夜、思い出の場所で待つって書いてあります。」


「どこだよ。」


 紫苑が即座に突っ込みを入れる。


「時間ぐらい指定しなさいよ。」


 それに続いて那由他さんが文句を言う。


「なんで来ると思ってんだよ。」


 最後に俺の罵倒で締めくくった。俺たちはもうこの町には居ない方が良いかもしれない。これ以上ここにいてももう問題しか舞い込まないだろう。


 幸い食料はすでに買ってある。行こうと思えば今すぐにでも出発できる。


「那由他さん、俺たち、もう今日の夜にはこの町を出ることにします。手紙は受け取ってくれなかったと言ってください。」


 俺は手紙を那由他さんに返す。幸いテープを使ってないタイプだったので、元に戻せば読んだこともバレないだろう。


「そう。でも、ちょっと残念だわ。あなたたちと話したのは短い間だったけど、すごく楽しかったわ。」


「人が仲良くなるには人の悪口が一番だからね~。」


 紫苑が俺の頭を撫でながら恐ろしいことを言う。


「それ言っていいのか?いや、あってるんだけどさ。」


「ならいいじゃん。」


 紫苑は俺の頭に自分の頭を乗っけてくる。俺は重いと感じて、立ち上がって紫苑の腕の中から脱出する。


「でも、そうだな。斎藤さんには挨拶しておきたいな。」


「そうだね。あの人強いし渋くて格好いいから好き。」


 俺たちは最後に斎藤さんに別れの挨拶をする為に、外に出ることにした。


─────────────────────────


 那由他さんにお願いして、正次以外の人に声をかけてもらった。


 全員とはいかなかったが、斎藤さんをはじめとした何人かが見送りの為に集まってくれた。


 俺が修理した車両は六人乗りで、後部には荷台が付いていた。六輪車両なのでパワーも十分にあるだろう。助手席はエーデルワイス、真ん中に紫苑、運転席に俺の順番に座った。後部座席は銃とかを置いていた。


「できればこの町に残って一緒に戦ってほしかったが、他に目的があるなら仕方がないな。」


 斎藤さんは少し残念そうな顔をしていた。俺もこの人とならもっと一緒に戦いたかった。


「すいません。俺たちはやらなければいけないことがあるんです。俺も斎藤さんと一緒に戦ったこと忘れません。」


「俺もだ。これは俺の連絡先だ。何かあったら呼んでくれ。今度は俺が力になるぜ。」


 俺は斎藤さんと握手をして、車両に乗り込む。エンジンをかけて、窓を開ける。ここでの生活はあっという間だった。だが、それでもここで触れ合った人たちのことは忘れないだろう。別れは悲しいが、先に進むには必要な事だ。


 斎藤さんと入れ替わるように、今度は那由他さんが前に出てくる。


「あなたに言われた通り、私もこの町で頑張ってみるわ。元気でね。」


「はい。那由他さんもお元気で。」


 俺が那由他さんと別れを済ませていると、紫苑が化け物を見たような顔で体を揺すってくる。


「天童早く!早く出発して!」


 いきなりなんだと思ったが、ミラーを見ると後ろから誰かが走ってきていた。


 そいつは正次だった。


「このクソ野郎!俺の女を誘拐しようなんて!この犯罪者!返せ!それは俺の物だ!」


 何かをわめいていたが、よく聞こえなかった。


「天童!ここは任せて行け。あいつは俺らが足止めする!」


「達者でな!」


「頑張れよ!」


 斎藤さんたちは全員で正次を抑え込む。


「どけ!この裏切者たちが!お前ら全員犯罪者だ!お父さんに言い付けてやる!」


 俺がアクセルを踏もうとしたとき、紫苑がサンルーフを開けて、立ち上がる。


「正次。」


「紫苑、早くこっちに…」


「私天童のこと愛してるから。ごめんね。ばいばーい。」


 紫苑はそれだけ言うと席に着いてシートベルトを締める。それを待ってから俺はアクセルを踏んで出発した。


「はぁ…?こ、この…この裏切者!好きって言ったのに!」


 正次は怒っているようだったが、俺がブレーキを踏むことは無い。


「あんなこと言ってよかったのか?」


「ほら、あれだよ。軽いざまぁってやつ?散々ウザいことしてきたんだから最後に真実を教えてあげたんだよ。優しさ優しさ。あとは天童が言ってたやつの私なりのサポート。」


 紫苑はそう言いながら笑っていた。というかあいつ最後まで嘘ついていたな。いや、あいつの中では脳内変換されてそう聞こえていたのかもしれない。そうだとしてもヤバいことに変わりないが。


 俺は窓から手を後ろに向かって振り、そのまま町から出ていった。今度はまともな奴になっているとこを祈って。


─────────────────────────


「私天童のこと愛してるから。ごめんね。ばいばーい。」


 俺はその言葉を聞いた時、自分の中で何かが崩れていく音がした。あんなにプレゼントもあげたのに、捨てられる意味が分からなかった。俺のことを好きと言ってくれたのも全て噓だったのか。


 押さえつけられている状態から解放されると、紫苑が乗ったトラックを追いかける。だが、そこにはもうエンジン音すら聞こえなかった。


 俺は本当に捨てられたんだという事実を突きつけられて、その場に膝を落とす。


「お前ら…!お父さんに言い付けてやるぞ!」


 俺がお父さんに頼めば、こいつらは武器を買うことができなくなる。そうすれば困るのはこいつらだ。


 だが、俺がそう言うと、斎藤が俺の前まで迫ってくる。俺は堂々とした態度でそれを正面から見返していると、いきなり顔を殴られる。


「ぐぁ…は…?」


「これは天童が殴られた分だ。ここに来るまでにあいつに頼まれててな。必要なら殴ってやってくれって。」


 それはつまり、仕返しをしたかったが、俺が怖くて斎藤に頼んだということだろう。どこまで行っても腰抜けの無能だ。俺はよろけながら立ち上がって、斎藤に暴言を吐く。


「それがなんだ!自分で仕返しもできない無能の肩を持つなんてお前も無能だ!」


 俺はそう言うと斎藤は俺の胸倉をつかんできて、目の前で怒鳴る。


「まだわからねぇのか!!」


 俺はあまりの迫力に何も言えなくなってしまう。こんなに怒った斎藤は今まで見たことがない。なんでこんなに怒ってるんだ。俺は事実を言っただけだ。


「ほ、本当のことだろ?」


「あいつはお前を矯正する機会を俺にくれたんだよ!その為に必要なら俺が殴られた分、殴り返してやってくれってな!これの意味が分かるか!?あいつはお前に対する怨恨よりもお前が成長するのを願ってるんだよ!」


 俺は斎藤が何を言っているのか分からなかった。


「でも、あいつは俺の女を奪って…」


「いい加減理解しろ!それはお前の被害妄想だ!この状況を見ればわかるだろ!お前は捨てられたわけじゃないし、紫苑ちゃんたちはお前の物じゃない!現実を受け入れろ!」


 俺は面と向かってそう言われて、初めて真実に気が付く。周りを見ても誰も俺の言ってることを信じていないようだった。俺の方に悲しい目を向けてくる。


 でも、それは俺を攻撃したいんじゃない。


 俺が、俺の考えが間違っていたから。


 それを認めた時、何故か周りの人たちの視線が変わった気がした。今までこちらを恨みがましい目で見ていたように感じていた。それが、普通の視線に変わったのだ。


 今まで俺は欲しいものはすべて手に入れてきた。自分が有能だと思っていたし、俺の考えを肯定しない奴は無能だと思っていた。


 お父さんは俺の言うことは聞いてくれるけど、いつも仕事と趣味に没頭していた。母親も普段は怒りっぽくていつも叱られており、碌に愛された記憶がなかった。そのせいで、俺はこんな母親のような無能になりたくないと思って生きてきた。


 でも、そうじゃない。そうじゃなかったんだ。


 みんな俺の考えを正す為に俺を否定していたんだ。


 俺は何故か涙が溢れてくれる。なんで、こんなことにもっと早く気付けなかったのか。


 それの様子を見た斎藤…さんは手を離してくれた。そして、俺の頭をぐりぐりと撫でてくる。


「あ、あの…」


「お前はまだ若い。これからいくらでもやり直せる。それに、お前を見てくれている奴はまだいるだろ?」


 斎藤さんの視線の先には由香里がいた。由香里は俺に対して、ハンカチを差し出してくる。


「正次様。目は覚めましたか?」


「ああ…あと、様は、要らない…」


 俺は下を向いたまま、由香里の顔を見ることができなかった。だけど、由香里は俺の手を引上げてくれる。


「私は、今まであなたのことをどうでもいいと思っていたわ。あなたの側に居ればお金がもらえると。でも、天童に言われて、少しだけ考えが変わったの。もうちょっとだけ、自由に生きる為に頑張ってもいいかもって。でも、それなら正次も一緒に頼むって言われたの。だから、私と一緒にやり直してみない?」


 俺はそう言われて、下を向く。これまでの自分が間違っていたと認めるのは簡単じゃない。今もどこかで俺は正しいと思っている自分がいた。


 でも、折角あいつ…天童がくれた機会。これを逃したら俺は本当に取り返しがつかなくなる気がした。


 今なら一緒に歩いてくれる人がいる。今ならまだ斎藤さんたちが見ていてくれる。


 俺は覚悟を決めて、この場にいる全員に向けて頭を下げた。


「今まで、すいませんでした。」


 その時、俺は自分の中にいた、自分を肯定していた奴が消えた気がした。憑き物が取れたような変な感じだ。頭を上げると、全員がやれやれと言った様子で笑っていた。その中で、由香里が俺に話しかけてくる。


「ならよく見てるわ。だから、これからは今までとは違うことを見せてね。」


 俺はそう言われて、泣きながらもう一度頭を下げた。




読んでいただきありがとうございました。


被害妄想野郎をそのままにしようかと思ったんですが、前に進まない人は嫌いなので成長させました。


正次頑張ってね~。

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