衝撃
よろしくお願いします。
俺は銃弾が飛び交う中、倒れている正次と一緒にいた女性を発見する。
「お前は正次の方を頼む!俺はあっちを受け持つ!」
正次は気を失っているようだった。それに比べれば、女性の方はまだ自力で銃を撃っていた。戦力的に俺が向こうに行ったほうが良いという判断だ。
エーデルワイスは正次を岩の後ろまで引っ張り、攻撃に参加する。
俺もそれを確認した後、女性のいる岩場に駆け寄る。
「大丈夫ですか?」
「あんた、向こうの担当だったんじゃ…?」
「向こうの制圧はほぼ完了したので助けに来ました。もう大丈夫です。」
俺は短くそれだけ言うと、前にいる斎藤さんの援護をする。そして、礼の黒い機体を斎藤さんは強化服とアサルトライフルで応戦していた。動きは熟練そのもので、殆ど無駄がない。だが、やはりあの装甲を突破できないようで、攻めあぐねていた。
「お待たせしました。正次は無事です。私も攻撃に参加します。」
エーデルワイスから通信が入り、マグナムを片手にさっきと同じように突撃していく。さっきはエーデルワイスと同じ距離で戦える人がいなかったのでほぼ任せきりだった。しかし、こっちには斎藤さんがいる。
攻撃を加えていく二人を支援していると、横にいた女性も攻撃に参加し始める。
「大丈夫なんですか?」
「まだ動ける。私にもやれることはある。那由他由香里よ。よろしく頼むわ!」
「夜花天童です。一緒に勝ちましょう!」
俺と那由他さんは二人で攻撃に参加する。正次はまだ気を失っているようだった。生きてはいるのであのまま放置した方が良いだろう。下手に救助にいけば、逆に狙われて危険になる可能性もある。
それに、エーデルワイスが大丈夫だと言ったんだ。それを信じるしかない。
しばらく黒い機体を4人がかりで攻撃していると、エーデルワイスのマグナムが胸部装甲を吹き飛ばす。
「斎藤さん!あそこが動力炉です!」
「任せろお!!」
俺が通信を入れると、斎藤さんは中距離から動力炉を撃ち抜いた。
その後は向こう側と同じだった。
統率が取れなくなった機械兵を順番に排除していき、戦闘は終了した。
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俺が倒した黒い機体からスターダストを回収していると、那由他さんが話しかけてくる。
「さっきは助けてくれてありがとう。本当に危ないことろだった。」
「お礼なら救援要請した斎藤さんに言ってあげてください。俺はそれを聞いてきただけですから。それより、聞きたいことがあるんですけど。なんでいつも正次の横に居るんですか?」
俺がそう聞くと、気を失っている正次の方を見て、嫌な顔をする。
「あいつの実家が武器屋で金持ちだからだよ。女はね、凄く弱いの。あんなのにでも寄りかからないと生きていけないくらい、ね…」
最後は消え入るくらい小さい声だった。俺はそれを聞いてどんな言葉を掛ければいいか分からなかった。俺の家はこの人に比べれば幸せだった。お父さんもお母さんも家族思いで、やりたいことができる家だった。この人は俺が想像できないくらい頑張って来たのだろう。
「本当に尊敬します。」
俺はただ一言それだけ自分の喉から絞り出す。それしか言うことができなかった。それを聞いた那由他さんはまた悲しい顔をしていた。
「尊敬されるようなことじゃないよ。」
「尊敬しますよ。だって、そんなにボロボロになりながらも頑張って生きる人、尊敬しないわけないじゃないですか。那由他さん、どうかこれからも頑張って生きてください。生きていればきっと幸せは来るものです。」
俺の言葉を聞いて、那由他さんは静かに泣いていた。俺はポケットからハンカチを出して渡す。すると、那由他さんは笑ってくれた。それが嬉しくて、俺も笑顔を向ける。
ボロボロになりながらも毎日を生きている。凄い人だ。俺が同じ状況なら現実をリタイアしてもおかしくない。
そう思っていると、横から急に殴られる。
「この無能の泥棒が!そ、そそそれは俺の物だ!」
殴って来た男は正次だった。那由他さんは後ろで口元を抑えて悲痛な顔をしていた。
俺は正次を睨むと、少しビビった感じでたじろぐ。だが、その暴言がやむことは無かった。
「この無能!俺の物を盗もうとしたって無駄だぞ!わかってるぞお前の考えなんて。どうせこいつの顔が気に入ったんだろ?だけど、これは俺のなんだが?無能が触っていいような奴じゃないんだが?」
俺はその言葉を聞いて、正次に興味を失う。そして、那由他さんにねぎらいの意味を込めてニコッと苦笑いをする。すると、向こうも笑って、頭くるくるぱーのジェスチャーをする。
俺はその様子を見て、紫苑とエーデルワイスのところに戻った。
そこにはブチ切れている二人がいた。
「何あいつ。助けてもらった相手を殴るとかまじでヤバいだろ。ヤバすぎ。あとなんだよ俺の物って。女はオナホじゃねえんだよ。」
紫苑の口が滅茶苦茶悪くなっている。女の子が言ってはいけない単語が聞こえてくる。
「マスターの指示なので助けましたが、今、後悔という初めての感覚に憤っています。あんな奴助ける価値があったのですか?」
エーデルワイスは本当に怒っているようだった。自分が助けた奴のせいで仲間が怪我をしたのだから当然といえば当然だった。
「二人とも落ち着け。紫苑は口が悪い。エーデルワイスもあんなのでもこの町では貴重な戦力には違いない。なら助けるべきだ。俺はそのことについては後悔していない。まあ、もう二度と共闘することは無いがな。」
俺がそう言うと、二人の怒りがほんの少しだけ収まる。
なんで戦闘に勝利したのにこんなに雰囲気が悪いのだろうか。この天気のように晴れやかな勝利を勝ち取りたかったのだが、こうなってしまっては最悪な気分だった。
うなだれていると、横から斎藤さんが話しかけてくる。
「さっきは助かったよ天童。エーデルワイスはすごい強化服を持ってるな。」
「はい。拾い物ですけどね。斎藤さんも無事でよかったです。」
「報酬は車両二台だったが、少し物資も受け取ってくれ。死人なしで切り抜けれたのは間違いなくお前らのおかげだ。」
俺たちはそれを聞いて、笑顔でハイタッチをする。本当に頑張ってよかった。こういう人の厚意やねぎらいの言葉をかけられると、本当に報われた気分になる。
だが、俺たちが喜んでいると、また横やりが入る。
「なんでそんな奴に報酬が要るんだ!」
その声の正体は正次だった。
「この作戦のリーダーは俺だ!この包囲殲滅が成功したのは俺のおかげだ!それにその無能は俺の女たちに手を出したんだぞ!そんな奴に報酬なんていらないだろ!そこの二人もそんな奴の側に居ない方が良いよ。無能が移っちゃうからさ。ひひひひ!」
だが、笑っているのは正次一人だけだった。他の奴らは輸送隊の回収を進めていた。
「なんていうか、寂しい奴だな。」
俺がボソッとつぶやくと、横で紫苑がクスリと笑う。そこには死ぬほど怖い笑顔をしてる紫苑がいた。あんな表情久しぶりに見た。
俺は手を叩いて二人に指示を出す。
「エーデルワイスは車両の方を手伝ってやってくれ。紫苑は俺と一緒に来てくれ。例の黒い機体の装備とスターダストを回収するぞ。」
「オッケー。いやーさっきはごめんね。機械兵がちょっと多くてさ。支援遅れちゃった。」
俺たちは正次を無視して、機体のアサルトライフルとスターダストを回収していく。どうやら銃以外は使わないようで、スターダストは好きにしていいとのことだった。ここでは使い道がないらしい。それを聞いて俺はホクホク顔で回収した。エーデルワイスの起動に使い切ってしまったスターダストを回収できたのは行幸だった。
こうして、正次一人が置いてけぼりの状況だったが、俺たちは戦闘に勝利した。
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町に戻って来た次の日の俺たちは、早速受け取った車両の修理を進めていた。とは言ってもやることはいつもと同じだ。紫苑の雑談に付き合いながら俺が機械を弄る。
いつもと違うことといえば、その修理要員にエーデルワイスが加わったことだろう。
俺たちは車両が置いてある宿屋の横の空き地でゆっくり直していた。
「エーデルワイス、そっちの動力炉って生きてる?」
「生きてます。乗せ換えますか?」
「頼む。」
俺たちはバイクに積んであった工具を使い、一台をバラして、もう一台の部品にしていく。どちらも壊れている箇所のパーツは、昨日の内に買っておいた。
「平和だね~。」
紫苑が荷台に乗りながらそんなことをつぶやく。確かに昨日戦闘があったことを考えれば、確かには平和だ。
動力炉を乗せ換えて、配線を繋げ直す。
「紫苑、起動してくれ!」
「はいよ。」
俺とエーデルワイスが直した一台は無事動き出す。
「やりましたね。これで、次の町に行けます。」
「ああ、さっさと弾を運び込もう。」
俺は三人がかりで荷物を運んでいると、その中から変な箱を見つける。
「なんだこれ?」
俺がその箱を拾いあげると、ずっしりと重かった。直径は三十センチくらいで、素材は金属でできているようだった。鍵穴はついておらず、箱の上部に手形の認証装置があった。
こんなものを持ってきた覚えはない。ということは昨日斎藤さんにもらったものの中に入っていたのだろう。
「どったの?」
「なんかあった。」
「なにそれ宝箱?」
「わからん。重さからして何か入ってるのは確かだと思うけど。」
俺は手形に自分の手を当ててみる。だが、ただ光るだけで箱が開くことは無かった。どうやら手を当てたら開くというものではないようだ。
(誰かの特定の手だけに反応するのか、それとも箱自体が壊れてるのか…)
どちらにしても今の俺たちには使えそうにはないようだ。
「どうかしたのですか?」
俺たちが箱を振ったりして遊んでいると、エーデルワイスが荷物を横に置いて荷台に上がってくる。
「おう。宝箱あった。エーデルワイス、開けれる?」
エーデルワイス、はその箱を見た途端目の色を変える。そして、俺から箱を受け取る。
「私、この箱を知っています。」
「…え!?」
「それほんと!?宝箱開けれる!?」
俺たちはエーデルワイスの発言に食いつく。
持っていけるものにも限界がある。なので使えないなら捨てていこうと思ったが、思わぬところから声が上がった。こういうことがあるからガラクタ集めはやめられない。
「私の中に残っている記憶の断片にこの箱が出てくるんです。ただ、サイズが違うような気もするのですが、このタイプの箱であることは間違いないです。」
エーデルワイスは手形に自分の手を当てる。俺たちは期待の眼差しを向ける。箱に青い光が走り、箱が開くのを待つ。
だが、いくら待っても箱が開くことは無かった。俺たちは静かにエーデルワイスに話しかける。
「あの、エーデルワイスさん?開くんじゃ…?」
「期待したのにー。」
だが、箱に走った光がエーデルワイスの元に集まっていく。そして、右手の表面に青い光が走る。その光は手首のところで止まり、次第に消えていく。
「何今の?」
紫苑が不思議そうにエーデルワイス手をにぎにぎするが、特に変化はない。当の本人はというと雷に打たれたような顔をしていた。
「エーデルワイス?」
俺はエーデルワイスの目の前で手を振る。すると、エーデルワイスの目が再び動き始める。
「…あ、ああ、はい。すいません。急に情報が流れてきたので驚いてフリーズしてしまいました。この箱の中身はおそらく武器です。解除キーは別の場所にあるみたいです。その場所の情報も流れてきました。天童のレーダーに情報を送っておきます。」
「へー。ていうかやっぱり鍵要るのか。でも、場所がわかるのなら今度はそこに行くか。もし強い武器なら俺たちの戦力も底上げできるし。」
「そう、ですね…」
俺たちの次の目標が決まったのに、エーデルワイスは浮かない顔をしていた。
何か変な事でも言っただろうか。
俺は少し気になったか、そのまま荷物運びを再開した。
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車両を直した日の夜、私は例の箱を膝の上に載せながら、夜風に当たっていた。
「あの情報…いや、記憶は一体…」
この箱に手を乗せた時、箱の鍵がどこにあるのかという情報と、もう一つの記憶が流れてきた。
その記憶は、たくさんの機械兵が争う戦場だった。この記憶の主は見たこともない武器を使う機械兵と戦っていた。多くの敵と味方が入り乱れ、泥沼になっていた。これだけなら、ただの機械兵の記憶が一緒に保存されていただけかと思った。
しかし、その視点から見える自分の体は、この強化服を着ていたのだ。
つまり、その記憶の元々の持ち主は私だった。
知らない戦場で知らない武器を使う自分に少し怖くなる。私は何故あんなに激しい戦争に参加していたのか。
ただ戦っているだけなら、驚くことでもなかった。機械兵は兵器だ。戦う為に生み出され、戦いの中で死ぬ。それに恐怖はない。
「でも、いくらなんでもあれは…!」
私は感情が高ぶり、小さく声が漏れる。
私の中に唯一残っていた目標。なんでそれの横にいた記憶があるのか。
その記憶の中で私が共闘していたのは、シュネルヴァイスだった。
読んでいただきありがとうございました。