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機皇世界  作者: 小土 カエリ
全ての始まり
5/33

長い一日

よろしくお願いします。

 町に入った俺たちは、とりあえず民宿に止めてもらった。


 エーデルワイスの素性は隠すことにした。ネットワークから切り離されているとはいえ、機械兵を連れているなんて大っぴらに言いふらすことではない。本当なら町には連れて来ない方がいいのだが、こいつは今の俺たちの希望だ。どこか目の届かないところに置いておくよりも、手元にあった方がまだ安心できた。


 俺たちが椅子に座ってゆっくりしているうちに、紫苑が部屋に入って来る。


「天童、話付けてきたよ。二日後に近くを輸送隊が通るらしい。戦闘に参加を交換条件に鹵獲した車両二台をくれるってさ。これで共食い整備すれば何とかなりそう。」


 紫苑はこの町の戦闘部隊の人と交渉をしてもらった。この町は今戦力が不足しているようで、すんなり受け入れられたようだ。


「そうか!紫苑ありがとう。これでものをもっと運ぶことができるな。」


「一歩前進ですね。」


 紫苑は嬉しそうにどや顔をしていた。


「人に褒められるの気持ちいいよねー。最高の気分だわ。」


「お前はその承認欲求をもう少し隠せ。」


 俺はそんなことを言いながらディアノートにパソコンを繋げる。パソコンの中にディアノートのデータに関するウィンドウが表示される。パソコンをカタカタ打っていると、向こう正面からエーデルワイスが画面をのぞき込んでくる。


「天童、何をしているんですか?」


 俺はコードが繋がったディアノートの方を指さす。


「ディアノートの解析。こいつまだ全力出せないんだよね。」


 俺はいつも通り少しづつディアノートのプロテクトを解除していく。


「ディアノートってもう何年も解析に回しているんでしょ?なんでそんなに解析遅いの?」


「この意味不明なプログラムのせいだよ。誰が考えたんだこんなやつ。でも、エーデルワイスがあった端末から抜き取った情報のおかげで、今までに比べたら格段に速くなったんだけどな。」


 俺はパソコンの中にしまっておいたエーデルワイスの構成プログラムを開く。


「私の情報…あのいいですか?」


「エーちゃんどしたん?」


 エーデルワイスが何かに気付いたようで、手を挙げる。


「それもNo.なのではないでしょうか?」


「ディアノートが?」


「そのプログラムの中にあるのはNo.の固有プロテクトです。私にも似たようなものが組み込まれているのでわかります。」


 俺たちはディアノートに目を落とす。


(こいつがNo.?)


 俺は疑問に思ったことをエーデルワイスに素直に聞いてみる。


「No.って結局なんなんだ?」


「私もわかりません。私がNo.7なので他に六つあるのは確かだと思うのですが。」


 そう言われて俺はエーデルワイスのデータを出す。六つあのもので有名な物と言えば、やはり機皇神だろう。北米に一体、中国に一体、ヨーロッパに一体、中東に一体、アフリカに一体、そして日本に一体いる。彼らを知らない人はいないだろう。彼らは日々自分の勢力圏を広げる為に戦争を続けている。


「機皇神の正体ががNo.ってこと?」


「わかんない。流石に情報が足りなさすぎる。中途半端な推測はやておくか。それにNo.ってわかったところでやることは変わらないしな。」


 例えあいつの正体が何であれ、必ず倒す。


「確かにそうだね。じゃあ、私もう休むから、いつも通りに起こしてね。」


 そう言って紫苑は自分の部屋に戻っていった。


「じゃあ、俺たちももう少ししたら寝るか。」


「はい。私もスリープモードで自己修復を行いますね。」


 こうして俺たちの激動の一日は終わった。今日一日で俺は新しい仲間を手に入れ、そして故郷が町を滅ぼされて、ここまで逃げてきた。


 本当に精神的にも、肉体的にもキツイ一日だった。


─────────────────────────


 翌日の朝、俺は布団の中で目を覚ます。


「寒い…」


 俺は急いで起きて、冷たい服を着こむ。横の布団を見ると、眠っているエーデルワイスがいた。こうしてみるとまるでお姫様みたいに整った顔だ。


「エーデルワイス、起きてくれ。朝だぞ。」


 俺がそう言って体を揺すると、エーデルワイスが目を覚ます。


「天童おはようございます。早いですね。」


 腕のデバイスで時間を確認すると、朝の六時だった。外を見ると、暗雲が立ち込めており、今にも雨が降りそうな天気だ。


「これくらい早く起きなきゃいけないんだよ。ほれ、服着たら隣の部屋行くぞ。」


「わかりました。準備します。」


 俺はエーデルワイスが着替えるのを外で待つ。少しすると強化服を着て出てきたので、一緒に紫苑の部屋に行く。


 最初にノックをしてみるが反応がない。


「おい紫苑、起きてるか?」


 呼びかけてみるが反応がない。ここまではいつも通りだ。俺が起こしに行くと大体こんな感じだ。


 エーデルワイスに先に入るように合図する。


 さすがに俺だって女性が寝ている部屋に入るのを躊躇うくらいの感性はある。たとえ相手があざと可愛いストーカー虚言癖女でも、一人の女性であることに変わりはない。


 そんなことを考えながら、今日は何をするか考えを巡らせる。バイクは明日で売却するので、売却先を探さなければいけない。明日の襲撃作戦の時と為の打ち合わせもあるだろう。やらなければならないことは無限にある。


 だが、俺がいくら待ってもエーデルワイスは戻ってこなかった。


 しばらくして、エーデルワイスが疲れた顔で部屋から出てくる。


「無理です。絶対に起きません。あれは一体何なんですか?」


「あいつは寝ると決めたらとことん寝る奴なんだよ。そのくせ起こさないと後で怒る。俺が何とかするよ。」


 こうして言葉にしてみると中々鬱陶しい奴だな。


 俺は扉を開けて部屋の中に入る。布団が膨らんでいて、そこが僅かに動いている。


「おい、紫苑。」


「うーん…」


 俺はカーテンを開けて、日光を布団に当てる。


「うーんぅ…」


 次に俺は布団を強引に引っ張り、毛布を奪い取る。中から丸まった下着姿の紫苑が出てくる。


(こんなに顔も良くてスタイルも完璧なのに全然エロい感じがない。なんでだ。)


 昔からこういう関係だったせいなのか、こいつとはもうなあなあな関係になってしまった。


「おい、はよ起きろ。」


「うーん…!」


 俺は紫苑の体を思いっきり揺らして起こす。


「うーん!」


 今日は中々しぶといな。日の光を浴びてそこから逃げるように腕で目を覆い隠す。


「起きろー!!」


「うああぁ…あれ、天童?うぅ…」


「ほれ、早く着替えるぞ。」


 俺は寝ぼけた顔をした紫苑を起こして、着替えを手伝う。下着姿から普段着に、上から順番に着替えさせる。


「天童、髪やってー。」


「はいはい。」


 服を着替えさせた後、次は紫苑の髪を梳かしていく。紫苑はまだうつらうつらしており、時より船を漕いでいる。


 手慣れた手つきで紫苑の髪を整えると、ヘアゴムを使って髪を縛る。


「ほれ、出来たぞ。そろそろ起きたか?」


「ん。ありがとう。起きた。」


 紫苑の髪を結った後、化粧するのを後ろで待つ。化粧を終えた紫苑はこちらに振り向く。先程よりも肌につやがあるように思える。


「どう?可愛い?」


「可愛いぞ。」


「キ、キキ。ならオッケー。さ、朝ごはん食べに行こ。」


 上機嫌になった紫苑と共に部屋を出ると、エーデルワイスが驚いた顔をしていた。


「あんなに揺すっても起きなかったのに…」


「それじゃぬる過ぎんだよなぁ。中途半端にやっても時間が掛かるだけ。やるなら一発で起こさないと。」


 エーデルワイスはなるほどといった顔をしていた。こんなふわふわした説明で本当に理解できたのだろうか。


「そうだぞー。エーちゃんも私の扱いをちゃんと覚えてね。」


 起こされた当の本人は偉そうなことを言ってふんぞり返っていた。


「お前が自力で起きればこんなことする必要もないんだよ。」


 俺は紫苑の頭を軽く小突く。そんなどうでもいいことを話しながら、俺たちは朝食を食べに行った。


─────────────────────────


 朝食を食べた俺たちは、三人で上之保の町を歩いていた。バイクは宿に置いてきた。


「それで、打ち合わせって何時からなの?」


「十時からだって。」


 俺は腕のデバイスで時間を確認すると、8時半だった。周りを見ると店の準備進める人や、家の前を掃除している人が散見される。


「ならまだ時間あるな。先にバイクの売却先を探すか。」


「それが良いと思います。」


 俺たちはとりあえず上之保の町を散策することにした。町は質素な感じで、よく言えば落ち着いた雰囲気、悪く言えば田舎という感じだった。


 だが、ここには温泉があった。昨日俺たちも入って来たが、中々疲れが取れてよかった。


 俺たちが住んでいた郡上にも温泉はあった。なので、そのことを思い出してしまい、少し心が苦しくなった。本当に俺たち以外に生き残りはいないのだろうか。生き残りがいるのなら今戻れば会える可能性は高い。だが、それと同時にシュネルヴァイスとかち合う可能性も高かった。


 激しく葛藤したが、俺は行かないことを選んだ。


(今は戦力を集めることが優先だ。力が無いと何もできない。)


 三人で相談した結果、先に服屋に行くことにした。エーデルワイスの服が強化服しかないので、普段着とフード付きのマントを買おうという話になったのだ。遠くから見ればほぼ人間と同じなのだが、そもそもの見た目が人の目を引きすぎる。


 整った顔立ちにサラサラの髪、引き込まれるような瞳。目立たないわけがなかった。昨日は夕方以降にこの町に入ったので、大して騒がれることもなかった。


 だが、これから数日はここに滞在するのが決まっているのだ。余計な騒ぎは回避するに限る。


 人手が増える前に俺たちは服屋の位置を町人に聞く。ここ最近は俺達以外にも他の町から人が流れてきているそうだ。


「ここからもたくさんの飛行機が飛んでいるのが見えてね。他の町は攻撃を受けたところもあるらしい。私も一時は避難したよ。」


 話を聞いた老人はそう言って空を指さした。昨日は晴れていたはずの空は曇天になっており、嫌な空気だ。


「そうだったんですね。ありがとうございます。」


 俺は老人にお礼を言って、その場を去る。しばらく歩くと紫苑が横から話しかけてくる。


「他の町もってことは郡上だけが狙いじゃなかったんだね。」


「なんとなく予想は出来てたけどな。昨日も話したが部隊の規模が今まで見たことないレベルだった。何か作戦行動でもとってたんだろう。わかんないのは…」


「目的、ですね。」


 一番に思いつくのは何か西で戦闘が起きて、戦力が足りなくなったというパターンだ。だが、これだとわざわざ下道を通ったのが腑に落ちなかった。


 機械兵は鉄道も高速道路も使うことができる。先を急ぐだけならそっちを使えばいい。


 つまりそれを使わずに部隊を進めないといけない理由があったのだ。


(一体何があった?わざわざ機皇神が出てくること…だが、それは速度を重視していたわけではない。)


「「何かを探していた…?」」


 横を見ると紫苑が同じことをつぶやいた。そして、それを見て俺たちはフフッと笑う。


「ちょっとづつだけど、あいつの目的が見えてきたな。」


「だね。シュネルヴァイスが探していたものを先に確保できれば、優位に立てる…かもしれない。」


 あいつが一体何を探していたのかは知らない。だが、機皇神が直接出てくるくらいだ。相当貴重なものを探していたはずだ。もしもそれが強力な武器なら、俺たちの戦力は格段に上げることができる。


 ひとまず服屋で俺たちはエーデルワイスの服を買うことにした。


─────────────────────────


 俺は今試着室の前でひとりで待っていた。


「かーわーいー!」


 中からは紫苑の声が聞こえてくる。俺はその何回目かわからない「可愛い」にため息をつく。


 服屋に来たはよかったが、紫苑にエーデルワイスが着せ替え人形にされていた。


「この服はとても戦闘には向かないと思うのですが…」


「でも可愛いよ?天童、可愛いよね?」


 試着室のカーテンが開き、中から二人が顔を見せる。エーデルワイスは白のワンピースに麦わら帽子、黒い長手袋をつけている。


「可愛いけど、俺たち今お金無いんだから買えないぞ。」


「そうだった…世知辛いねぇ…しょうがない。これとこれとこれと、後これ。最後にこれ。こんだけにしとくか。」


 俺は籠の中にたくさん入った服に目を落とす。


「こんなにいる?」


「いる。女の子にとって可愛い服は武器なんだよ。だから私の分も買ってー!」


 俺は紫苑からかごを受け取って、中にある服を一着持ち上げる。そこには明らかに紫苑のサイズのフリルの黒いスカートが入っていた。


「だめ…?」


 紫苑は上目遣いのあざとい表情をしていた。


 少し申し訳なさそうな笑顔。身長が高いのを隠すための下からのぞき込むようなポーズ。手を胸の前で合わせて、少し胸に食い込ませる。どれも男を掌で転がすために身に付けたテクニックだ。実験台にされたのでよくわかっている。


 だが、ここはねぎらいの意味も込めて買ってもいいだろう。


「いいよ。昨日交渉頑張ってくれたし。そのお礼。」


 決して紫苑の押しに負けたわけではない。


「やったー!さすがですよ天童さん!」


「ありがとうございます。」


 紫苑は嬉しそうにその場でくるくると回る。本当に現金なやつだ。だg、その嬉しそうな顔を見るとなんだかこちらもほっこりした気分になってしまう。


(いかんいかん。)


 俺は紫苑に流されそうになるのをなんとか踏みとどまる。


 今後は何かと入用になるだろう。財布の紐は固くしておかなければ。


 レジを通して服を受け取る際、店主のおばあさんが一言つぶやく。


「綺麗な娘さんたちだねぇ。あんた、こんなに可愛い子ら中々いないよ?大切にね。」


 紫苑とエーデルワイスを見ながら笑顔で頷かれた。二人も笑顔で軽くお辞儀をする。


「ははは…わかりました。頑張ります。」


 俺は苦笑いをした後、真面目な顔つきで返事をする。紫苑を守るのは昔から俺の役目だ。戦闘の役割という意味でも、男女という意味でもそれは変わらない。


 俺の返事に満足したのか、おばあさんは俺たちが買ったのとは別の袋を手渡してくる。


 そして、おばあさんは紫苑たちには聞こえないように小声で俺に話しかける。


「その子たちが試着していたのとおんなじ服だよ。老婆心ってやつさ。後でプレゼントとして渡しておやり。きっと喜んでくれるよ。」


 俺はおばあさんのニコッとした顔に押されて、袋を受け取った。俺が紫苑をどう思っているのかはバレバレのようだ。普段は誤魔化しているが年の功にはかなわなかったようだった。


「ありがとうございます。今日買った服も大切にします。」


 俺がそう言うと、おばあさんはゆっくり頷いてくれた。


 俺は心の底からいい買い物だと思えるいい思い出ができた。こんな時代でも、人を思いやる心を持っている人がいる。その事実に俺は心の中が温まった。




読んでいただきありがとうございました。

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