誘拐
よろしくお願いします。
ここの野営地に来て数日が経った。レール団の人たちともすっかり仲良くなって、今では話をすることも増えた。
食料は基本的に魚だけだが、そのことに文句を言う人はいなかった。
燻製のストックも溜まってきたので近くの町に移動する準備は着実に進んでいた。時折機械兵を見かけることもあったが、こちらではなく町に攻撃を仕掛けていた。本来なら助けたいのだが、レール団と町との間には確執がある。せっかく今まとまってきているのに、ここで不満が爆発したらどうなるかは容易に想像が付いた。
幸い数も少なかったようで、俺達がいなくても自分たちでなんとかしたと報告があった。俺はそれを聞いて内心では安堵しつつ、偵察から戻るように指示を出した。
そして、町への機械兵の襲撃があった次の日に事件は起きた。
いつも通りみんなで朝食の準備していると、亜釣の姿が見えなかった。
「あれ?なぁ亜釣知らないか?」
「リーダーですか?そういえば今日はまだ見てないですね…」
俺は干し魚を他の人に任せて、亜釣がいるはずのテントの側に行って声をかけてみる。
「おーい起きてるか?朝ご飯もうすぐできるぞー。」
俺が呼びかけても反応はなかった。
耳を澄ませてみるが何も聞こえない。
布が擦れる音も呼吸音も何も聞こえなかった。俺は嫌な予感がして急いでテントの入り口を開ける。
「亜釣!」
テントの中には誰もいなかった。彼が使っていたであろう生活雑貨や服は置いてあったが、当の本人がどこにもいない。
俺の嫌な予感は確信に変わり、走ってレール団に対して指示を出す。
「全員聞いてくれ!昨日亜釣を最後に見たのは何時だ?」
俺がそう言うと団の人たちは首をかしげる。
「天童さん急にどうしたんすか?」
そんな中一人の若い団員が手を挙げる。俺は全員が聞いているのを確認してから、今見たことを全員に告げる。
「亜釣がいない。」
「…え?」
全員の時が止まったような静寂が俺達を襲う。しかし次の瞬間にはハッと正気に戻る。
俺の言葉を聞いて、何人かはすぐに亜釣のテントに駆け寄る。
「リーダー…なんで…」
「こんなこと…」
俺は団のみんなに一先ず朝食の準備に戻るよう指示を出す。今の状況では明らかに情報が足りない。
「紫苑、何かわかることはないか?」
隣に立っている紫苑に聞いてみる。こういうときは紫苑のカンは頼りになる。
「そうだねぇ…紫苑ちゃんが言えるのは夜逃げとかじゃないって事ぐらいかな。さっき見たけど服とかの個人の荷物はほとんど置いて行ったみたいだし。」
そう言われてから見てみると、確かに荷物はほとんど残っている。
(俺の考え過ぎか?)
「た、大変です!」
俺が亜釣の行方について話し合っていると次の問題が飛んでくる。
「今度はどうした?」
報告に来た若い団員は小型コンテナが置いてある方向を指さす。あそこには捕れた魚を置いておくための生け簀があったはずだ。それもここ数日でかなりの数が集まったので、今日燻製にしようと話し合っていたところだ。
団員は青ざめた顔で報告をする。
「生け簀に入れておいた魚が全部盗まれました!」
「なんだと!?」
俺はそれを聞いてコンテナの中を確認する。すると、昨日は魚でいっぱいだったはずのコンテナはもぬけの殻になっていた。中は水だけ残っていた。だが、小魚も含めて全ての魚がいなくなっていた。
「そんな!また食料なしに逆戻りかよ!」
「俺達の食料はどこいったんだ!?」
団員たちが膝をついて愕然とする。正直俺もなんでだよと嘆きたかったが、亜釣がいない今そんな姿を見せるわけにはいかない。
「うろたえるな!回収班は昨日しかけた罠のチェックに行け。朝食は俺のトラックの中に置いておいた燻製を消費することにする。残りの奴は亜釣の捜索。水の準備だ。行動開始!」
「「りょ、了解。」」
団員たちは動揺しながらもそれぞれの役目をこなす為に動き始める。
俺はその中で最初に生け簀のことを報告した団員から話を聞くことにした。
「それでどうして盗まれたってわかったんだ?」
「あそこを見てください。あの足跡です。」
俺が指さされた先を見ると、確かに足跡があった。しかし、どれもぬかるみに足を取られたような感じだった。
「俺達が普段履いているのは戦闘用の靴です。あんな浅いぬかるみに滑る程やわじゃありません。」
コンテナから続く足跡をよく見てみると、確かに濡れた砂地に足を取られて滑ったような跡があった。
「それとこのコンテナの周りです。見てください。生け簀の水でべったべたになってるんです。こんなのもう誰かが盗んだとしか考えられませんよ。」
「確かにそうだな…」
コンテナの周辺は水浸しになっていた。中の魚を持ち出すときに濡れたのだろう。そしてその濡れた靴で帰って行ったから足跡が付いた。
じゃあ、一体誰が盗んだのか。
身近にいる存在で食料に困っているところなんて1つしかない。
「長浜の人たちか…」
「状況から考えるとそうなるねぇ…しかし人間同士で争う日が来るとは…本当に自分の事しか考えてない奴らの多いこと多いこと…」
横にいた紫苑が冷たい目でそんなことをぼやく。紫苑もこの状況にお手上げといった感じだ。まさか俺達の食料を盗まなければいけない程彼らの食糧事情が逼迫していたとは。
昨日の段階で十分な食料は集まっていた。だが、焦ることはなかろうと余裕を持って構えていた。その結果がこれだ。
「結果論だが、さっさとここから手を引くべきだったな…」
「こればっかりはもうどうしようもない気がするけどね。人は自分が生きるためなら町ぐるみで犯罪だってできちゃうんだなんて予想できるかっての。それで、どうするの?」
俺は紫苑が言ったことを考える。
「今は人同士で争ってる余裕なんてないのに…」
俺たちは今機械兵と戦わなければいけない。なのになんで人間同士で足を引っ張り合っているんだ。
「とりあえず、食事にしよう。その後で方針を決める。」
俺は紫苑にそれだだけ言うと、トラックの荷台の方に魚をとりにいった。
すると一台の車が野営地に戻ってくる。俺は敵かと思って肩の銃に手をかける。だが、車から降りてきたのは亜釣だった。
「おはよう夜花。ちょっと朝釣に行って来た。取れたのは1匹だけだけだけど大きいぞ!」
俺はその笑顔に肩透かしをくらって、ため息をつく。
「そりゃよかったな…本当によかった。」
俺は亜釣が誘拐されたのではないのがわかって一先ず安堵した。
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朝食を食べた俺は全員を集めて話し合いをしていた。だが、出てくるのは早く報復しようということばかり。
犯人も長浜の人がやったとほぼ決めつけていた。
亜釣はそんなみんなをなだめてから話し始める。
「みんな聞いてくれ。俺は昨日、夜花からある打診を受けた。それは俺たちレール団に一緒に来て欲しいという話だ。みんなはどう思う?俺はこの話、受けようと思っている。」
周りがざわざわと騒ぐ。急にこんな話をされたら驚くのは当然だ。俺も立ち上がって、全員に説明する。
「今俺たちはNo.というものを集めている。それの回収は常に戦闘と隣り合わせの旅になる。戦力は少しでも多くほしい。みんなのリーダーは今まで通り亜釣にやってもらう。その上に俺が立つという形になる。団の責任は俺も持つし、もちろん全員の衣食住は保障する。」
俺が話終えると、何人かが手を挙げる。俺はその中の一人に立ち上がるように促す。
「正直、俺はこの話を受けた方が良いと思う。今まで俺たちはリーダーに頼り過ぎていたんじゃないか?全部リーダーに任せて、俺たちは何も考えずにただついてきた。ならリーダーが少しでも楽になる方を選んだ方がいいんじゃないか?」
その言葉に亜釣は嬉しそうな顔をしていた。自分のことを考えてくれている奴がいてくれたことが嬉しいのだろう。
「優斗…ありがとう。」
亜釣のその言葉を聞くと、男は満足げに座る。そしてまた手が上がる。俺はその中から一人に立ち上がるように促す。
「俺もこの話受けた方が良いと思う。俺たちも前のリーダーを亡くしてから俺たちの目標はずっと定まらなかった。このままゆっくり死んでいくのかと思ったが、天童さんたちが助けてくれた。ならこの恩は返さないといけない。今度は俺たちが天童さんを助けてやろうぜ!」
「「「おおー!」」」
レール団の人たちは俺に付いてくるのを納得してくれたようだ。
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