悩み
よろしくお願いします。
罠を回収するために俺達三人は別れて行動していた。今は野営地の人の二人と一緒に川に来ている。
ここで獲物が獲れないともう後がない。俺達は通信をしながらお互いの状況を随時伝え合っていた。
「こちら紫苑ちゃん。最初のポイントに着いたよ。」
「エーデルワイスです。こちらも着きました。」
二人からポイントに着いた連絡が来る。道中機械兵に遭遇するようなことはなかったようだ。俺も腕のデバイスの通信を使って二人に指示を出す。
「こちら天童。俺も今着いた。じゃあ、これから罠の回収を始める。なにか問題があったら報告してくれ。」
「「了解。」」
紫苑とエーデルワイスは別の場所で回収部隊の警備についている。獣はいないのは確認済みだが、このご時世何時機械兵がきてもおかしくない。罠を仕掛ける時も半分は警備に人員を割いていた。
俺は周りを見渡しながら、レーダーに目をやる。
(敵のスターダストの反応はなしか。)
俺のレーダーは自作のもので、紫苑にも同じものを渡してある。郡上にいたころは余裕がなく、銃をはじめ自作できるものは可能な限り自分で用意してきた。
あの頃はバイクを組み立てるのに必死だった。遠出することもなく町にずっといたので、碌に新品の素材はなく、使えるパーツを探すのに苦労した。
(今思い出すと少し懐かしいな。)
上之保でバイクを手放すと決めたときは断腸の思いだった。自分の手で修理した我が子のような存在。しかしあそこではこれ以上バイクを持って行くことができず、泣く泣く手放した。
その結果まとまったお金が手に入ったし、運べる物資にも余裕ができた。
(いつかあのバイクを買い戻したいな。)
そんなことを考えていると、川の方で歓声が上がる。
「獲れてるぞ!やったぜ!」
「これで今日も腹一杯食えるな!」
野営地の人たちに笑顔が戻ってくる。俺もその歓声を聞いて一安心する。これで俺たちが餓死することもなくなった。そして、この人たちの上に立つという仕事も今日で終わりだ。
「こちら紫苑ちゃん。魚獲れてたよー。でかいのだとナマズとかいる。」
「こちらエーデルワイス。こちらも順調です。なんの魚かわかりませんが、30センチ超えの大物も獲れています。」
二人からも吉報が入る。ここ以外の場所でもしっかり罠が機能しているようだ。俺からも折り返しの連絡を入れる。
「こちら天童。こっちもいい感じだ。このまま回収を進めてくれ。」
「「了解。」」
俺は通信を切って、獲った魚を確認しに行く。正直俺も内心ではドキドキしていた。だってここで何も獲れなかったら全て俺の責任だ。気にならないわけがない。
「どんな感じだ?」
「いい感じですよ。量もサイズもなかなかです。」
「血抜きしたら早く次行きましょう!」
俺がバケツの中を見ると、狙いだったブラックバスやブラウントラウトがたくさん入っていた。罠をたくさん仕掛けていたのもあって、今までで一番獲れた。
「よし、じゃあ次のポイント行くか!」
「「おおー!」」
俺は二人をトラックに乗せて、その場を後にしようとする。
「ん…?」
運転席に着いてシートベルトを締める。そして、バックミラーを見たときに誰か人影が見えたような気がした。
「どうしました?」
俺はミラーを確認しながら二人に聞いてみる。
「今人がないなかったか?」
「ここの周辺は私たちの担当です。他に誰か居るとは思えませんが…」
俺は念のために窓を開けて、人が居た当たりを双眼鏡で覗いてみる。
「…気のせいか。なんでもない。次に行こう。」
どうやら警戒のしすぎだったようだ。あまり気を張りすぎていてもよくない。俺は気分転換に窓を開けたまま次のポイントまでドライブを楽しむことにした。
─────────────────────────
野営地に帰ってくると、俺達が一番乗りだった。他の回収班はまだ戻ってきていないようだ。
「おかえり夜花。どうだった…?」
俺達三人はニィと笑って、荷台のバケツを下ろす。
「大漁だ!」
俺達が持ち帰ったバケツの中はどれも魚でいっぱいだった。それを見て待っていた人たちが喜び始める。
「やったー!」
「これでもう食料の心配はないな!」
俺と一緒に回収をした二人も仲間と一緒に笑顔で話している。中にはハイタッチしたり、肩を組んだりしてる人もいた。
そんな中で亜釣が俺に肩を組んでくる。
「よかった!本当によかった!これであいつらにこれ以上つらい思いをさせることもない!夜花、ありがとう!」
亜釣の目には若干涙が浮かんでいた。彼もずっと気がかりだったのだろう。出会ったばかりの知らない奴に仲間の命を全て賭けるなんて正気の沙汰じゃないと思うが、彼も藁にも縋る思いだったのだと今ならわかる。
彼は心の底から安堵しているように見えた。
みんなでわいわいやっていると、紫苑たちも帰ってくる。向こうもこっちと同じように大漁だった。
「ま、紫苑ちゃんにかかればこんなもんよ。」
「はいはい。でも、まだ終わってないぞ!下処理したら捌いて燻製にする。ここでミスすると泥臭い身を食べる羽目になるからな。しっかり見て覚えてくれ!」
「「おおー!」」
俺はぱぱっと下処理をして、他の人たちがそれを真似してナイフで魚を捌いていく。
最初は料理になれていない人は手こずっていたが、元々料理ができる人が指導係に回ってくれた。本当なら冷凍して寄生虫を死滅させたかったが、当然ここにそんな設備はない。なので寄生虫対策は火を通すことだけだ。
内臓や骨は取っておく。これらは次の餌になるので、まとめてバケツの中に放り込んでおく。
みんなの顔をチラッと見ると、昨日の夜と違って笑顔だった。やはり目に見える成果があるとみんなやる気が上がるみたいだ。
調味料はこの人数で使うとすぐになくなってしまうので、味は薄いだろうが、量はたくさんある。全員の胃を満足させることはできるはずだ。
「夜花、なんか変な魚がいる。」
俺は服を引っ張られて、亜釣が指さす先のバケツを見る。あれは確かエーデルワイスが獲ってきたバケツだったか。
「どれどれ…」
俺はそのバケツの中を覗いてみると、そこには細長い体にヌメヌメした体表の魚がいた。
「これウナギじゃん。」
そこには水の中で口をパクパクさせながら呼吸をする立派なウナギがいた。
「ウナギって食べれるのか?」
俺はウナギを自分のまな板代わりの木の板に置いて、じっと観察する。
「高級魚だ。昔から日本で食べられてきた魚だけど、如何せん数が獲れなくなって文化としては衰退したって誰かが言ってた。俺も実物を見るのは初めてだ。」
「へぇー…」
「まあ裁き方はナマズとかと一緒だろ。」
俺は自分の感覚を頼りにウナギを捌いていく。とりあえず滑りは塩で揉んで取り除く。頭を落として包丁を入れていく。横で亜釣がその光景を物珍しいように見ていた。
紫苑は何をしているのかというと賑やかしだ。捌いてる人の応援をしたり、上手くいくと「すごーい!」と拍手をしたりしてみんなのやる気を維持している。エーデルワイスは機械的に次から次へと魚を爆速で捌いていた。獲ってきた魚の四分の一くらいはエーデルワイスが捌いている。
昼を過ぎた頃、俺達は全ての魚を捌き終えた。みんな慣れないことをやってかなり疲労が溜まっているみたいだった。
俺はトラックの中に置いておいた枯れ枝を三カ所にまとめ設置する。それに火をつけて魚を焼く準備をする。できたたき火はパチパチと静かに燃えていた。
その辺の機械兵から綺麗な鉄板を何枚か引っこ抜いて、それぞれたき火の上に載せる。
「亜釣、準備できたぞ。」
俺がそう言うと三つのたき火をみんなが囲み、魚を焼き始めるのを今か今かと待った。
亜釣が立ち上がり、みんなに向けて語りかける。
「レール団のみんな。俺のせいで苦労をかけた。今日は夜花たちのおかげでこうしてみんなで食料を得ることができた。今日はたくさん食べてくれ!」
「「「おおー!」」」
鉄板がしっかり熱されたのを確認して、魚を焼いていく。刺身でも食べたかったが冷凍設備がないので仕方がない。味付けは醤油、塩、塩こしょうの三つだけだが、十分だろう。水も濾過して煮沸したものをたくさん用意してある。少しくらいしょっぱいものを食べても大丈夫だ。
俺はまずはオオクチバスから焼いていく。捕れた魚は大体白身魚ばかりなのであまり濃い味付けをすると味の差がわからなくなってしまう。
俺は最初は軽く塩を振るだけにした。
紫苑と亜釣の魚が焼けたのを確認して、俺は手を合わせる。
「いただきます。」
俺はオオクチバスを食べる。身は柔らかく淡泊な味だった。だが、それと少しの塩がマッチして絶妙に美味しかった。やはり調味料は控えめにして正解だ。
紫苑たちもおいしそうに焼き魚を食べていた。
その日はみんなでお腹いっぱい魚を食べることができた。
─────────────────────────
食事を終えた後、寝静まるみんなを尻目に鉄板を洗っていた。罠は食事の後に再度同じ位置に仕掛けてもらった。これでもう食料に困ることもないだろう。琵琶湖という水源とそこに流れるたくさんの川があったからこそこの問題は解決できた。
「ここじゃなかったら無理だったな…」
本当に運がよかっただけだ。だが、その運でここに居る人たち───レール団を救うことができた。
「何か言ったか?」
振り返るとそこには亜釣がいた。水浴びをしていたのか髪が濡れていてイケメン度が増していた。水もしたたるいい男というやつだろうか。
「いや、みんな救えてよかったなって。」
「そうだな。夜花が居なかったら俺達はもうだめだった。改めて言わせてくれ。ありがとう。」
「俺らにも食料分けてもらってるからお互い様だ。」
俺は鉄板を水で洗い流して車の横に立てかけておく。たき火の方を見ると最後の一つが消えかかっていた。俺はそこに枯れ葉を加えて火種を大きくする。
「それで、亜釣たちはこれからどうするんだ?」
俺は二人でたき火を囲んで座る。こうして亜釣と話をするのも何回目だろうか。お互いリーダーとして話が合うのかもしれない。
しかし、俺の質問に対して亜釣は沈んだ顔で答えた。
「わからない。どうしたらいいと思う?」
亜釣の目は誰かに助けを求めているようにも見えた。
「どうしたらいいって、そんなこと聞かれてもな…ここに来る前はどうしてたんだ?」
「お父さんの指示に従ってたんだ。でももう戦死しちゃったからこれからどうしたらいいのかわからない。俺はお父さんから多くのものを学ぶ前に先立たれてしまった。足りないんだ。何もかも。これからどうしたらいいのか全くわからないんだ。なぁ、どうすればいい?食料が集まったら俺は何を目標にすればいい?」
それは上に立つ者の悲痛な叫びだった。彼が普段団員に見せない弱さと言い換えることもできる。それは俺にも理解できることだ。
誰かの上に立つと言うことは下にいる者の人生を預かるということだ。俺なら紫苑とエーデルワイス。亜釣ならレール団。
俺に比べてたくさんの人の上に立つ亜釣のプレッシャーは相当なものだろう。彼は右も左もわからない状態でここまで来てしまった。そして、今回の困難も俺が手を貸してしまった。
本来ならこれは彼が自分の力で乗り越えなければいけなかった問題なのかもしれない。今更そんなことを考えても遅いのはわかってる。
だが、この嘆きを聞いてしまっては考えずにはいられなかった。
なら亜釣をここまで追い込んだのは俺の責任でもあると言える。
(いや、違うな…俺は助けたいんだ。)
彩乃の時のように俺は目の前の人を助けたいのだ。困っている人がいる。ならそれを助けるのは当たり前のことだ。
「…それなら一つ提案がある。」
「…え?」
「俺に協力してくれ。俺はとあるものを集めるためにあちこちを回っている。その先で機械兵との戦闘は避けられない。お前がどうしたらいいと言うなら俺に付いて来い。みんなを導くのが辛いというなら俺がお前の上に立つ。」
俺はまっすぐ亜釣の目を見る。彼らの戦力が欲しいとか、リーダーを籠絡するとかそういうのは今は一切なしだ。
だた、助けたい。苦しんでる奴を見捨てたくない。
「夜花、お前…すまない。少し考えさせてくれ。」
亜釣は少しうつむいた後、自分のテントに戻っていった。
さすがに少し急すぎたみたいだ。それはそうだ。いきなりこんなこと言われても困るだろう。それに亜釣がよくてもレール団の人たちは納得しないだろう。
「もっと考えてから提案すればよかったかな。」
俺もたき火の火を消して、眠ることにした。
読んでいただきありがとうございました。




