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機皇世界  作者: 小土 カエリ
長浜
30/33

理解者

よろしくお願いします。

 採ってきた竹と草、それから機械兵のワイヤーを使って、それぞれ仕掛けを作っていく。


 罠は二種類作る。ブラウントラウトやナマズを狙うための筒型、反しがついたオオクチバス用の網型。両方ともできるだけたくさん作る。亜釣と紫苑は教える側に回って、エーデルワイスはひたすら資材を運んでいる。


「できました。リーダー、これで合ってますか?」


「うーん…夜花ちょっと来てくれ。」


 呼ばれた俺はすぐに亜釣の元に行く。


「なんか変だよな…?」


「反しの向きが逆だね…外から入ってきて逆からは出れないようにしないと。」


 俺はさっき作ったばかりの新しい見本を亜釣に渡す。


「これを見本に作ってくれ。」


「ありがとう。助かる。」


 亜釣は見本を見ながら他の人に網型の罠の作り方を教えていた。難易度で言えば筒型のものの方が作りやすい。だが、あれは筒1つに対して多くて2匹、普通は1匹しか捕まえられない。今はとにかく全員分の食料を集めなければいけない。量を獲るためには網型の罠が多く欲しかった。


 そして一日をかけて、総数100個に及ぶ仕掛けを作る事ができた。


 もう日が沈みかけて居たが、俺は最後の指示を出す。


「それじゃあ、全員餌を入れた罠を持ってくれたと思う。俺がそれぞれのデバイスに仕掛けを置くポイントを送るから、そこに仕掛けてきて欲しい。それじゃあ、行動開始!」


「「「おおー!」」」


 野営地の留守番はエーデルワイスに任せることにした。あいつなら何があっても大丈夫だろう。俺達も仕掛けを置くためにトラックを走らせた。


 目的の川を目指してトラックを運転しているとき、助手席の亜釣が話しかけてくる。


「夜花はすごいな。本当になんでもできて。」


 なんだか含みのある言い方だったので、俺は慎重に言葉を選ぶ。


「…ただ運がよかっただけだ。近くに必要な材料が揃っていたのも、俺が知っている罠を使える川があったのも。その罠だって俺一人じゃここまでの数を揃えるのは不可能だった。ここまでたどり着けたのは全員が努力した結果だ。」


 変な空気を察した紫苑が、会話の中に割って入ってくる。


「まあ、天童は確かに何でもできるけど、強いて言えば戦うことは苦手だよね。へたれだし。」


「うっさいわ。」


 車内での会話はそこで終わった。


 亜釣のさっきの言葉にどんな意味が込められていたのか俺にはわからなかった。


─────────────────────────


 罠を仕掛けて帰ってきた俺達は、残り少ない食料を分け合って食べた。


 全員が就寝し、俺は火の番をしながら一人で考え事をしていた。


(明日、もし食料が獲れなかったら俺達はゆっくりと餓死して終わる…)


 そう考えただけで、自分の肩に重い石が載っているような感覚になる。今回の罠の作成は俺主導で行った。つまり、これで魚が獲れなかったら全責任は俺にあるということだ。


 これだけの人数の命を預かるというのは今まで経験したことがない。俺の命令1つでこの人たちの生死が決まると考えたら恐ろしくなってくる。


「はぁ…」


 俺がため息をついていると、誰かの足音が近づいてくる。


「眠れないのか?」


 振り向くとそ亜釣がブランケットを羽織ながら立っていた。なんだか普段の雰囲気に比べて接しやすそうな感じだった。


「まあ、色々考えてたらちょっとな…」


「隣、いいか?」


 俺は頷くと横長の椅子の端による。亜釣も椅子に腰掛けて、ゆっくりする。


 少しの間無言の時間が流れる。パチパチとたき火が燃える音だけが耳に届く。静かな夜だ。食料がぎりぎりということを考えなければ過ごしやすいいい夜だっただろう。


「なあ、1つ聞いてもいいか?」


 俺はふと、横にいる亜釣に聞いてみたかったことを聞いてみようと話しかける。


「ああ。」


「ここにいる全員の命を預かっていると思うと、心が重くて仕方がないんだ。亜釣はこんな重圧を感じる事ってあるのか?」


 亜釣は俺の質問に対して、キョトンとした後にフフッと笑って答えた。


「そんなこと考えてたのか。」


 俺は笑われたことに少し嫌な顔をする。


「笑うことないだろ…」


 俺としてはこんな弱音を人に見せるのは余り好きではない。特に紫苑には絶対に見せたくない。あいつを守るのが俺の役目で、そんな相手に弱音を吐いてはいけない。せめてあいつの前でだけは弱音を吐かない奴でいたい。


「悪い悪い。いや、ずっとそのプレッシャーは感じてるよ。その感覚を共有できる人と会える日が来るとはな。」


 亜釣は感慨深そうにそう口にしながら、喜びを噛み締めているように見えた。


「そうか、そうだったんだな…こんなところに俺の気持ちをわかってくれる人が居たんだ。」


「亜釣?」


「なんでもない。わかるよ。夜花の気持ち。俺もお父さんが死んでからずっとそのプレッシャーに気圧されてきた。みんなをなんとか導かないとって必死にやってきた。その結果みんなを死なせかけて、本当に死にたくて堪らなかった。こんな苦しみを味わうくらいならもう死んで楽になりたかったんだ。もし夜花と会わなかったら、俺はもう保たなかったと思う。」


 亜釣はこちらを向いて頭を下げる。


「夜花のおかげで俺は救われた。ありがとう。そしてすまない。こっち側に引き込んでしまったこと謝らせて欲しい。」


 俺は肩の力を抜いて、背もたれに体重を預ける。


(そんなこと知ったら怒ることもできないっての…)


「まあ、いいよ。なんでも。亜釣たちを助けたいって言ったのは紫苑だし、感謝するならあいつにしてやってくれ。」


 俺は気の抜けた声でそれだけ答えた。ここまで彼らに手を貸したのは全て紫苑がやりたいと言ったからだ。俺はあいつの提案に乗っただけ。別に感謝されるようなことは何もない。


「そうか…そういうことにしておくよ。」


 その夜はそれで解散になった。


 彼も彼で悩んでいたのだろう。俺という同じ沼に嵌まった相手に対して生き生きしてるように見えた。俺が沼に嵌まったことで救われた人間が一人居るのなら、よかったと思う方が気が楽だ。


 俺は少しだけ不安から解放され、火を消して眠ることにした。


─────────────────────────


 俺は嬉しかった。夜花が俺と同じ苦しみを理解してくれて。


 お父さんが死んでからずっとひとりぼっちだった。団員にはこの気持ちを理解してくれる人は居ない。この気持ちは上に立つ者にしか理解できない。


 お父さんの代わりにリーダーになった俺は、一人だけ取り残されている気がした。


 俺がリーダーになってからいつも一緒にいた団員とほんの僅かに距離が開いた。それは仕方がないことだ。俺がリーダーとして上に立つ以上、ある程度距離が開くことはわかっていた。


 でもその溝が俺にとっては地獄だった。今までよく遊んでくれた奴も、戦い方を教えてくれた奴にも弱いところを見せるわけにはいかなくなった。生きていた頃のお父さんはよく言っていた。


「リーダーは絶対に弱いところは見せねぇ。それは身内にも外にもだ。俺も、お前以外には弱いところは絶対に見せない。」


 お父さんが俺に残してくれたことは余り多くない。この団とこの言葉、後はお父さんの武器だけだ。


 実を言うと俺は夜花のことが少し羨ましかった。お父さんから色んなことを教えてもらって、彼が親から愛されていたことがよく伝わってきた。俺だって愛されていたのだろう。でも、お父さんは常に団を第一に掲げていた。家族であるはずの俺は二の次だった。


 そんな俺の前に現れた同じ苦しみを理解してくれる人。


 ずっと感じていた疎外感を埋めてくれる夜花は、俺にとって貴重な存在だった。


 この夜に話せたことは二人だけの秘密だ。でも、俺はそれだけでこれから先いくらでも頑張れるような気がした。夜花が後どれだけ一緒にいてくれるかわからない。


 なら、彼がいる間は好きなだけ彼に弱いところを見せよう。彼は身内というには会って間もなく、外野というには関わりすぎた。つまりお父さんが言っていた内でも外でもない存在だ。


(明日は何を話そうか。)


 俺はあしたのことを楽しみにしながら、眠ることにした。その心はこれまでに比べて随分軽くなっていた。


─────────────────────────


 俺は車の席を倒して作ったベッドで目を覚ます。もう日は昇っていた。


「紫苑、紫苑起きろ。おーい。」


 俺は眠い頭を動かしながら横にいる紫苑の体を揺する。この程度では起きなかったので、俺は紫苑の布団を剥ぎ取って無理矢理起こした。


 エーデルワイスも起こして、野営地に行くと、すでにほとんどの人が起きていた。


「夜花おはよう。今日はどうすればいい?」


 亜釣はなんだか憑きものが取れたような爽やかな笑顔で挨拶してくる。更にイケメン度が増した気がしてちょっと気後れる。だが、そんなことはどうでもいい。


「…え?」


「どうかしたのか?」


 亜釣は何か?という感じで、俺の指示を聞くのを待っているように見える。


(俺がもらったのは昨日一日だけのはずだ。それがなんで今日も俺の指示を待ってるんだ?)


 少し不審に思ったが、この人数の人手を今日も使えるならやれることは更に増える。


(まあ、いっか。)


 俺は少し考えて、今日やることを頭の中で組み立てる。


「ああ、いやなんでもない。そうだな…じゃあ、料理が得意な奴はここに残って魚をさばく準備。数人は川の水を濾過して煮沸しておいてくれ。残りは昨日仕掛けた罠を回収しに行く。罠を仕掛けた人はそれぞれのポイントから罠を引き上げてくれ。」


「「「おおー!」」」


 俺の指示を聞いて、それぞれが動き始める。俺はそれを尻目に亜釣に小声で話しかける。


「おい、どういうつもりだ。契約では昨日一日で俺の指揮権はなくなるって話だっただろ。」


 亜釣は俺の疑問にすぐに答えてくれる。


「それなんだけど、今日の朝みんなを説得したんだ。今日食料が獲れたら、もうしばらく彼の指示に従ってほしいってさ。もちろん報酬も出すからさ。もう少しだけ頼むよ。」


 報酬が出るならもう少しだけやってもいいだろうか。俺は少し考え込む。


(どのみちここで食料をある程度補給して一度どこかの町に行かなきゃいけない。なら、使える人手は多い方がいい。)


 俺は散々悩んだ末にその提案を受けることにした。


 今日を乗り切れば、俺の役目もすぐに終わるだろう。俺はもう少しだけこの集団の指揮をすることにした。

読んでいただきありがとうございました。

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