やれることから
よろしくお願いします。
食料を配った日の夜、俺は亜釣を連れで山の中に来ていた。
「本当なら日没後に行動するのは避けたいんだけど、今は一分一秒が惜しい。」
「それで何をしにこんなところに?」
俺は銃につける用のフラッシュライトを手に持ちながら、お目当てのものを探し出す。
「草を集める。」
そこにはどこにでも生えている単子葉類の巨大な草が生えていた。
「…それを集めてどうするんだ?」
亜釣は俺の草を刈って集める姿を見ながら呆れた顔をしていた。
「いいから手を動かす。野営地の奴らを助けたいんだろ?」
俺はナイフを渡して一緒に草を刈るように促す。
俺達に残された時間は長くない。最初に食料の宛てにしたのは森に住んでいる動物だ。だが、そんなに簡単に仕留められるなら、野営地の奴らがあそこまで追い詰められることも無かっただろう。つまりこの近くに食用に適した動物はほとんどいないのかもしれない。
だが、それならそれでこうして夜にも山に入ることができるので、悪いことばかりでも無い。
「この草で何するんだ?流石に食べられないぞ?」
「草は食べない。これで食料を集める。」
俺は採れるだけ採ってからトラックに草を載せて野営地まで帰ることにした。
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戻ってきた俺たちは草をトラックから降ろす。
「亜釣はもう寝てくれていいぞ。後は俺がやっておく。」
「いや、俺にもやらせて欲しい。これでどうやって食料を集めるのか知りたい。」
俺は少し迷ったが、確かに作り方を知っている人が一人はいた方がいいだろう。
「わかった。」
俺は平べったい手頃な石を四つ拾ってきて、一人につき一つずつ渡す。紫苑はやったことあるので俺が何をするかもうわかった表情をしていた。
「まずはこの石とナイフを使って表面の邪魔なものをそぎ落とす。草はこのままだと大きいから半分に割いてくれ。」
草を左手で持って、右手でナイフを石に押し当てるように構える。そして一気に草を引っ張る。するとナイフによって繊維以外がそぎ落とされる。これを何回か繰り返すことで繊維を草から採ることができる。
「いやーこれやるのも懐かしいね~。昔は天童のお父さんにサバイバル術たくさん教えてもらったもんね。」
「そうだな。幸い近くにいくつも川が流れているから、俺達が知っている仕掛けが使えそうで何よりだ。」
俺がやっていることは昔にお父さんに教えてもらったものだ。お父さんは郡上に来る前は一人でサバイバルをしながら生活していたと言っていた。昔は大して興味なかったが、今にして思えばもっと聞いておけば良かったと思う。
懐かしいことを紫苑と話していると、亜釣は寂しそうにぽつりとつぶやく。
「夜花には父親がいるのか…羨ましい限りだ。」
なんだか含みのある言い方だったので、俺は念のため訂正しておく。
「いや、もういないけど。」
「え…?」
「戦死したよ。三ヶ月くらい前に。」
俺の返事を聞いて、亜釣は一瞬ポカーンとする。そして、少しして申し訳なさそうな顔で謝ってくる。
「悪い…わざとじゃないんだ…ただ俺も、父親もういないからさ。」
そういうことか。さっきの含みのある言い方は羨望といったところか。自分の親はもういないのにその話題を出されたら少し嫌だろうな。知らなかったとはいえこちらも配慮が足りていなかった。
「ほえーじゃあ仲間じゃん。親いない同盟に入れてあげよう。」
紫苑が手を動かしながらそんなことを言う。
「そんな同盟あったか?」
「今考えた。」
「名前適当すぎだろ。」
俺も手を動かしながら紫苑の軽口に適当に合わせる。
「いいじゃん仲間意識は大事だよ。」
「はいはい。」
「天童、できました。次はどうすればいいですか?」
どうでもいい話をしていたら、採ってきた草は全部処理終えたみたいだった。
「じゃあ、次はこれを延ばして火の側に置いて乾燥させる。引火しないように少し距離開けておいてくれ。」
「今はもうお日様出てないからねえ。乾燥させるにはそれしかないか。」
俺はたき火の少し離れた場所に繊維を並べて乾燥させる。火の弱り方からして夜の間放置しておけばもう使えるレベルのひもになるだろう。
俺たちは繊維を置いたらとりあえず眠ることにした。
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次の朝、俺は車の荷台で目を覚ます。服を丸めて作った枕はいい感じだったが、床が堅すぎて余りよく眠れなかった。
「タオル一枚でも引けば良かったか…」
俺は荷台から飛び降りると、まだ日が出たばかりだった。
良い朝だ。雲の量も少ない。今日は暖かい日になりそうだった。
俺は寝ている奴らを起こさないように静かにたき火の方に歩いて行く。すると、そこにはすでに起きていた亜釣がいた。
「おはよう。今日は良い天気だな。」
「…夜花か。まだ寝てても良いんだぞ。」
「そうはいかん。やることは無限にあるからな。この繊維も今日一日で形にしないといけない。」
俺は昨日乾かしておいた繊維の様子を確認する。ちゃんとひもとして使える強度はあるみたいだ。
俺は繊維を束ねて縒っていく。
「昨日聞きそびれたから今聞くが、その繊維で何を作るつもりなんだ?」
俺は亜釣にパソコンのフォルダの奥深くに仕舞ってあった写真を見せる。
「これは…?」
「川魚を捕るための仕掛け網だ。それもこの近くの川のあっちこっちに仕掛けるために大量に作る。」
その量を作る為には時間が必要だがその時間が足りない。この集団が今日一日でどれだけの数の罠を作れるか。全てはそれにかかっている。
効率よく作り方を教える為にも、実物を何個か作っておきたかった。
そこら辺から拾ってきた機械兵のコードから中の銅線を集める。それをねじって罠のフレームを作っていく。銅線一本では形を保てないが、何本も束ねれば強靱な針金の代わりにできる。
「それも全部父親に教えてもらったのか?」
「まあな。俺は機械弄っている方が楽しかったから、あんまり真面目に聞いてなかったけど。」
俺が返事をしながら、繊維を束ねて紐を作っていく。
阿釣はそれを聞いて、少し寂しそうな表情を見せる。
「そうか、羨ましいよ。」
阿釣も俺の真似をしながら、紐を作っていく。繊維をねじっているだけなので慣れれば誰にでもできるようになる。
そこからはお互い黙ってもくもくと作業した。
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しばらくして日が上がると、紫苑をはじめとした他の面々が起きてくる。
「リーダーおはようございます。」
「なにやってるんですか?」
野営地の人たちは俺と阿釣が作った大型の捕獲網を興味深そうに見ていた。
「ああ、おはよう。今日やる仕事の確認だよ。早く顔洗っておいで。」
「「わかりました。」」
全員が起きてきて、朝食を食べる。
(今日一日でどこまで仕上げることができるか。幸いあれが山に生えていたのは助かる。無ければ時間をかなり持って行かれるところだった。)
食事をした後、阿釣にみんなに集合するように言ってもらう。
全員が集まると俺は一人一人のデバイスに今日やることの行程を書いたデータを送る。
「それが今日一日でみんなにやってもらうことだ。できなければ俺も含めて全員餓死する!だが!できればここにいる全員が助かる!みんな協力してほしい!」
俺はその場に居る全員に対して頭を下げる。
「一ついいか。なんで見ず知らずの俺たちの為にそこまでしてくれる?正直、今の俺たちにできるお礼なんて殆どないぞ。」
メンバーの中から一人が手を挙げて、質問をしてくる。俺は顔を上げて、紫苑を指さしながら答える。
「うちのアホが助けたいって言ったからだ。それ以外に特に理由はない。」
「私のことアホって言うな!人が困っていたら助けるのは当たり前でしょ!」
嘘だ。あわよくば彼らを戦力として期待している。だが、ここでそれを言うのは得策ではない。紫苑もそれを理解して返事を合わせてくれている。
俺は現実的な思考の人間。紫苑はお人よし。その印象をみんなに植え付ける。実際は俺たち二人とも彼らを仲間に引き入れる気満々だが、それは黙っておく。
「そうか…なら今日一日、よろしく頼む!お前らもそれでいいな!?」
「「「おおー!」」」
どうやらその男はこの集団の中で中心的な人物だったようだ。ここで彼の信頼を得られたのは大きい。
俺は阿釣と数人を残して、昨日の夜に向かった山へ再度赴く。
残った阿釣には指導役として頭が回る奴らの教育を任せた。ここで素材を集めて戻るまでに罠の作り方をある程度覚えてもらい、帰ってきたらすぐに作れるようにする算段だ。
俺は山に来たメンバーを更に二手に分ける。片方は紫苑とエーデルワイスが率いて別の場所に、残りはここで昨日の草を集める。
「この草を集めてくれ。できるだけトラックに載せて欲しい。」
「「了解。」」
俺は指示を出した後、自分も草を集め始める。ここでどれだけ量を集められるのかが重要だ。編んで網としても使うし、もう一つ重要な使い道がある。
みんなはテキパキと草を集めてトラックに載せていく。
俺はある程度の量が集まると、俺はトラックを出して野営地に持って行く。
これを何回か繰り返した後、俺たちは山から一足先に戻ってくる。
(紫苑は上手くやれてるか…?)
俺は少し心配だったが、俺は俺でやらなければいけないことがまだまだある。
大丈夫だと信じて俺は草から繊維を釣る作業に戻った。
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「おおー本当にあった。」
私はエーデルワイスと残った人たちを引き連れて竹林に来ていた。昨日の内に天童が調べてくれた。本当になんでもできる奴だ。
「じゃあ、私たちが切り倒していくので運搬お願いします!」
「「「おおー!」」」
私は明るい笑顔を振りまきながら手を振ってアピールする。こういう細かいところで好印象を与えておくのは重要だ。
「じゃあ、エーちゃんお願いね。」
「わかりました。」
エーデルワイスに指示を出すと、竹を次々と根本から蹴りでへし折っていく。
「すげえ…」
「なんて身体能力だ…」
エーデルワイスが予定していた分の竹を倒すと、後ろに控えていた人たちが次々と竹を運び始める。当然エーデルワイスも四本担いで軽々と運んでいた。
ここまでスムーズに行くと気持ちがいいものだ。
実際この計画はエーデルワイスのパワーありきで作られている。この野営地には鉈も鋸もない。竹を集めようとしてもそれを素早く集める方法がないのだ。それを強引に解決したのがエーデルワイスのさっきの蹴りだ。
エーデルワイスは疲れ知らずの機械兵。肉体労働には持って来いだ。
私がこの人たちを助けようと言ったのは何も無計画にそう言ったわけではない。
確かに郡上を出たばかりの私たちでは絶対に救うことができなかった。だが、今の私たちは装備を整え、物資を持ち、機関銃付きの車両も保有している。
もう以前とは違うのだ。
打算があるのは認める。だが、それ以上に私はもう助けられる人を見捨てるのが嫌だった。
私は郡上で一度、町のみんなを見捨てている。そしてその精神的な負荷はとてもつらかった。夢に何回も町の人や親が出てきて言うのだ。
「なんで見捨てた。」
そう言ってひたすらこちらを見てくる。とてもじゃないが一人だったらとっくにうつ病になっているところだ。私は天童がいるからこうしてなんとか正気を保てている。
こんな思いを天童にも背負わせるわけにはいかない。
「あのときの罪滅ぼしじゃないけど、今回は助けてみせる。」
私は誰にも聞こえないような小さい声で決意を固めた。
読んでいただきありがとうございました。




