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機皇世界  作者: 小土 カエリ
長浜
28/33

決断

よろしくお願いします。

 俺は優里の車の後を追い、約十五人くらいがいる空き地に来る。横には川が流れており、水は透き通っている。


 優里が車から降りると、周りに人が集まってくる。


「優里食料は?」


「その後ろにいる奴ら誰?」


 その人たちは俺たちに対して訝しげな目を向けてきた。なんとなく予想はつく。ここには食料が無いのだ。そして、自分たちのものを取られるんじゃないかと不安なのだろう。


「どんだけ切羽詰まってるんだ…」


「どうする?他の町目指す?」


 横から紫苑が小突きながら耳打ちしてくる。別にあの町に今行かなければいけない理由はない。只近いから最初にこの町を選んだだけだ。No.を探すのなら順番なんてどうでもいい。どうせ全て回収するつもりなのだから。


 それにこの様子を見るに、俺たちは歓迎されていないようだ。なら、軽い挨拶を済ませたらさっさと次の町を目指すことにしよう。


 俺は野営地の人たちと話している優里に声をかける。


「阿釣、ちょっといいか。俺たちもう行こうと思うんだ。なんだか歓迎されていないようだし。」


「それなんだけど、話がある。」


 俺はなんだか嫌な予感がした。こいつらは確かに悪い奴らではないのだろう。だが、それはまだこいつらにいくらか余力が残っているからに他ならない。


(もし、俺の予感が当たっているのなら…)


「お前たちが持っている食料を俺たちに売ってほしい。」


「やっぱりそう来たか…ならこっちも用意していた返答をする。答えはノーだ。この食糧はこれからの旅に必要になるから買い込んだものだ。つまりもう使う予定がある。ここでそれを失う訳にはいかない。」


 俺はきっぱりと断りを入れる。ここは毅然とした対応を取らなければだめだ。俺一人なら少し分けてもよかったが、こっちには紫苑がいる。紫苑の生存は俺の中で最優先事項だ。


 俺がそう答えると、阿釣は俺に対して頭を下げる。


「頼む。この通りだ。俺を夜花の好きにしてくれて構わない。こいつらに食料を分けて欲しい。」


 俺にはその行動が意外だった。第一印象からして、阿釣はプライドの高い人間だと思っていた。


「リーダーやめてください!こんな見ず知らずの奴に頭下げるなんてあなたらしくないですよ!」


「そうだぜ!やめてくれリーダー!」


 周りが阿釣の体を抑えて体を起こそうとする。だが、こいつは頑なに頭を上げようとしなかった。


(やめてくれ…そんなこと見せられたら俺は…!)


 俺の中の決意が揺らぎそうになるのをなんとか踏みとどまる。ここで負けたらだめだ。紫苑の為にも、ここで折れる訳にはいかない。


「どれだけ頼まれても…!」


 俺が再度阿釣の頼みを拒否しようとしたとき、横の紫苑が手を伸ばして制止してくる。


「天童、いいよ。」


「でも、紫苑お前…」


 紫苑が素早く俺に耳打ちをしてくる。


「天童、もしこの人数好きに使えるなら何とかなる?」


 俺は自分の頭の中で素早く計画を立てる。ここにいる人数は二十人。俺たちが持ってる食料は全員に分配すれば一半日で尽きる。野営地の焚火の方を見ると魚を焼いていた。つまり全く食料のストックがないということではないようだ。


「わからん…なんとかなるかもしれんし、ならんかもしれんとしか言えない。」


「わかった。ならそれに賭けよう!」


 紫苑が小声でそう言うと、俺の前に出て代わりに代わりに話し始める。


「阿釣ー、顔を上げて上げて。」


 阿釣はそう言われてようやく顔を上げる。その瞳には不退転の覚悟が見えた。


「私から天童のこと説得するからさ。一つだけ条件があるの。」


「聞かせてくれ。」


 紫苑は一本の指を立てて、自分の顔の近くに持ってきてポーズをとる。


「一日、全員の指揮権を天童に頂戴!それで私たちが持ってる食料はたくさん売ってあげる。これをのんでくれるなら私が天童を何とかしてあげる。」


 俺はその勝手な提案に声を上げる。


「紫苑、何勝手に…!」


 俺が喋ろうとすると、紫苑は俺に黙るようにジェスチャーをする。


「それで、どうする?私の提案乗る?」


 阿釣は迷っているようだった。険しい顔をしてから口を開く。


「…少し、時間が欲しい。」


「どうぞ、よく考えて!」


 紫苑は笑顔でそう言った。


─────────────────────────


「紫苑何考えてるんだ!?なんとかなる確証はないんだぞ!」


「だって無理って言わなかったから。何か考えがあるんでしょ?」


 俺はそれを聞いて少し言い淀む。この状況を解決できるかもしれない考えを思いついたのは事実だ。


「そりゃなくはないけど…」


「ならいいじゃん。ここで恩を売っておけば彼らを戦力として利用できるかもしれない。ならこの状況を利用しない手はないよ。分の悪い賭けじゃないと思う。」


 俺はそれを聞いて考え込む。この人数を部下に置けるならそれは今までの比じゃないレベルの戦力増強になるだろう。


 だけど、この人数の人心掌握をたった二日でやらなければいけない。


 いくら紫苑が超絶美少女だからと言っても限界がある。


 でも紫苑は何か答えを保っているような気がした。少し考えを巡らせてみる。


(この人数の信用を最初から得るのは無理無謀だ。なら…)


「…最初から持っている駒を取る。」


 俺は紫苑にだけ聞こえるような小声でそうつぶやく。


「正解。他の人たちは紫苑ちゃんに任せな。リーダーの篭絡は任せる。」


「結局俺頼みかよ。まあ、いいか。やれるだけやってみよう。」


 俺が覚悟を決めると同時に、阿釣がこちらに戻ってくる。


「待たせた。そちらの提案受けようとと思う。よろしく頼む。」


 二十人の命を全て俺が預かることになる。俺はその重圧に息を呑む。失敗は許されない。紫苑の為にも戦力の為にも、必ずここで彼らの信頼を勝ち取る。


「ふぅ…こちらも了解だ。」


 俺は再度阿釣と握手をした。


─────────────────────────


 話がまとまる頃にはすでに日が傾き始めていた。


「全員聞いてくれ。彼らの計らいにより、食料を多少売ってもらえることになった。その交換条件として出したのは一日分の俺たちの人手だ。さっき相談した通り俺はこの条件を受けた。明日から一日、夜花の指示に従ってほしい。」


 俺は阿釣の横に立って全員に聞こえるように大声で話す。


「明日から二日間全員の命を預かる。夜花天童だ。納得がいかない人や不信感を持っている人もいるだろう。だが、みんなに食料を売るのは事実だ。だから、明日から二日間、俺の指示を聞いてほしい。よろしく頼む!」


 俺はそう言うと、トラックから降ろした食料をみんなに配っていく。折角しばらく買わなくてもいいように缶詰やカップ麺、即席スープなどを買い込んだのに、結局町を出て数日で全部使い切ってしまった。


 だが、今日から二日間が勝負だ。今日は全員腹一杯食べてもらい、明日に備える。ここに残っている食料も合わせれば、ギリギリ俺の計画は実現できる。


(そのためにも今日中に今後の予定を組み立てないとな。)


 俺は食料を配るのを二人に任せて、一人でパソコンと格闘することにした。


─────────────────────────


 その男は変わった奴だった。


 俺個人に対して何かを要求してくることはなかった。自慢じゃないがこれでも顔は良い方だと自覚している。今までだって団の連中から告白されることもあった。


 だが、先代の団長、俺の父親が戦死してからはレール団はガタガタだった。俺は先代の娘だというだけの理由で団長に祭り上げられた。


 未熟な俺は自分ではどうしていいかわからなかった。頼りにしていた父親が急にいなくなってしまい、寄る辺が無くなった俺は酷い有様だった。


 それから少しして俺は父親の言葉を思い出す。


「もしもおれになにかあったら、八木浜町に行け。」


 その言葉を信じて、俺は団のみんなを率いてここまで来た。慣れない団全体の仕切りや、弱いところを見せちゃいけないという焦燥。


 そういったものがいくつも積み重なって、ここに来て食糧の不足という最悪な事態を招いてしまった。


 団の予算には気をつけていた。しかし、全員に払う給料や弾薬の調整などに気を取られすぎて、食料のことまで気に掛ける余裕が無かった。


 それに心のどこかではお金を出せば食料なんてすぐ手に入るという甘い考えがあったのも事実だ。


(明日明後日は乗り切ることができる。でもその次は?いつまでこの生活が続く?)


 俺たちは現在川の近くに野営地を張っていた。水が手に入るのともう一つ、魚が捕れるからだ。


 だが、捕れる魚は決して多くない。今は釣った魚をその日の糧にして凌いでいるが、それもいつまで持つかわからない。


 いつも自信がある表情を崩さず、大きく構えていた父親。俺はその真似をしているだけだ。父親のように心まで強くなることはできない。


 団員に弱いところ見せられないとは言え、俺の精神は限界に近づきつつあった。

読んでいただきありがとうございました。

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