本当に見なければいけないもの
よろしくお願いします。
俺は久しぶりに山道をトラックで走っていた。
改めて振り返ってみると、各務原で生活していた時間はまあまあ長かった。あの町での暮らしはとても楽しかった。
復讐の恨みが少し薄れてしまうくらいには。
二人を導く立場としてはこんなことを考えてはいけない。この旅の最後の目的はシュネルヴァイスを倒すことだ。
俺たちも死にかけ、大切な人を殺されたのにその恨みが少し軽くなっていたのだ。
(紫苑はどうなんだ…)
俺はふと横で寝ている紫苑の方を見る。こいつだって親を、仲のいい友達をたくさん殺された。俺と同じくらい、下手をすればそれ以上につらいはずだ。
人間が生きていくためには何か目標が必要だ。
俺は紫苑を守るということを目標にすればいい。
ならその紫苑はどうだ。彼女の目標は何になる。俺に執着しているが、それは生きる目標とは言えない気がする。
ならこの話はまだ仕舞っておくべきだろう。紫苑がいつか自分から話をするまでは言わない方がいい。もし俺が「シュネルヴァイスを倒すのをやめて平和にどこかで暮らそう。」なんて言って紫苑が壊れてしまったら大変だ。
俺は地図を確認しながらハンドルを握りしめて進むのだった。
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山道を進んでいる最中、突然車内に警戒音が鳴り響く。スリープモードだったエーデルワイスが目を覚まし、サンルーフを開けてスイッチを押す。
すると、荷台から機械が動く音と共に機関銃が顔を出す。
エーデルワイスはそのまま紫苑を起こして、後部に取り付けた機関銃を構える。これは各務原でおじいさんからもらったものだ。
「わしにはこれくらいしかやれるもんが無い。好きに使ってくれ。」
そう言われた渡されたのは設置型の大型機関銃だった。このトラックのパワーならこれくらいは乗せても大丈夫と言われたのでありがたくもらってきたのだ。
「状況は?」
「左前方から機械兵。数は二十。」
「オッケー!」
紫苑と短いやりとりを交わした俺は、ブレーキを踏んでその場にトラックを停車させる。紫苑と俺はトラックを壁にして銃を構える。
「来ます。」
エーデルワイスのその言葉と共に、岩陰から機械兵が姿を現す。俺たちは敵が査定範囲に入った瞬間引き金を引き、掃討していく。手に入れた機関銃は強力で、敵を一瞬で蜂の巣にしてしまう。消費する弾の量が尋常ではないので乱用はできないが、強力な兵器の1つであることに違いは無い。
俺たちは危なげなく敵を撃破して、死体からスターダストを回収していく。
「それにしても機関銃って強いね~。紫苑ちゃんもう要らなく無い?」
「要るに決まってるだろ。機関銃だって撃ち続ければ銃身の冷却が必要になるし、弾だって無限じゃ無い。今回は試運転を兼ねてたから使ってみたけど、これからは敵の数が少ないときに機関銃は使わないからな。それにしても一発一発が高額なのはキツいな…」
「キキッ了解。誰かから必要とされるって最高…」
俺は紫苑の会話に適当に相づちを打ちながら回収を進める。さっきの質問は要らないと答えると100%不機嫌になる。回答を間違えると地獄が待っているので、そこだけは注意する。
(めんどくさい女…)
そこが好きではあるがそんなこと言うと調子に乗るので言わない。
「はいこれで最後。少し休憩したら出発するぞ。」
「はいよ~。」
「了解です。」
俺は機械兵の残骸から使えそうな部品を手当たり次第に回収しておく。機関銃を乗せたことで荷台が小さくなってしまった。機関銃が設置されている場所には後部座席から移動できるようになっているので、この車に乗れるのは五人になった。それもあって今は荷物で荷台がパンパンだ。
(二台目を買うか…それとも牽引できる荷台を取り付けるか…)
「天童、何を悩んでいるのですか?」
俺が考え事をしていると、スターダストを回収し終えたエーデルワイスが戻ってきた。
「荷物これ以上運べないなって思ってさ。二台目買おうかなって。」
俺はさっき考えていたことを打ち明ける。俺たちの今後に関わってくることだ。相談しておいた方がいいだろう。
「今の私たちは各務原での活躍もあってそれなりに余裕はあります。ですが、ここで散財してしまうのは、悪手では無いでしょうか?」
「というと?」
「No.が手元に揃いつつある今、今後の戦闘は激化する一方でしょう。実際に紅蓮はNo.を狙ってきました。町に滞在するのも、弾薬を買うにも、何をするにもお金は必要です。少し余裕ができたからといってすぐに使うのはだめです。」
「は、はい。」
俺は何も言い返すことができなかった。今の俺達の所持金だが、合計200万円は軽く超えている。せこせこと町の警備をやったり、戦闘で活躍した賜物だ。
しかし、今だって無駄遣いをしている訳では無い。敵の武器はできる限り回収しているし、動力炉やブレインは高値で売れるので、それだってちゃんと集めている。俺たちが使わない種類の弾薬も売却するために荷台に仕舞ってある。これらを売ればそれなりのお金になる。
次の目的地に着いたらまずは売却先を探さなければいけない。
俺は次の町でやらなければいけないことを考えつつ、トラックに乗り込むのだった。
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紫苑が助手席側に移動して、窓を開けながら鼻歌を歌っていた。さっき戦闘があったのが嘘のように平和な時間が流れていた。
山を越えた辺りでいい景色が見えるところに来たので、少し止まって、サンルーフを開ける。紫苑が立ち上がって、回りを見渡すと、おおーという声を上げる。
「なにか見えるか?」
「琵琶湖!でっかーい!!海みたい!もう海でしょこれ!」
俺も立ち上がって、デバイスの方位磁石を起動する。方向を地図と照らし合わせると、目的地の方向に確かに水辺が見える。
「ええ…何あれ…本当に海じゃん。あれで湖なの?滋賀県やばいな。」
「綺麗ですね。」
俺たちは次の目的地も今まで見たことが無いものが待っている予感がして、少し楽しかった。
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しばらく田舎道を走っていると、折れ曲がった看板が目に入ってくる。
「ここから長浜市…か。昔はここも人間のものだったんだろうな。」
「盛者必衰だね。今の機械兵達もいつかはいなくなっちゃうのかねー。」
今までもこういう看板は何回も見てきた。だがそのほとんどが破壊されており、今の時代の凄惨さを物語っていた。郡上も昔は観光地としてそれなりに栄えていたらしい。今となっては人が住む場所さえ無くなってしまった。
「悲しいな。」
俺がいった言葉はなんに対してのものだったのか。思い出した故郷のことか、それともかつて隆盛を極めた人類のことかそれはわからない。
だが、過去はもう変えられない。人はひたすら進むしかないのだ。そして、人を導く立場にあるものが止まることは許されない。
俺はそのことを再確認して、気を引き締め直した。
しかし、綺麗な水平線だ。水面が太陽の光を反射して、キラキラと輝いている。町に着いたら釣りとかやってみてもいいかもしれない。
そう思ってハンドルを切り、ボロボロの市街地を抜けていくと、言い争いをしている人間の集団を発見する。
「何あれ?」
「わからん…けど厄介ごとに間違いは無い。さっさと迂回して行くぞ。」
俺はギアをリバースに入れて、急いでその場を後にする。幸い集団は言い争いに夢中でこちらには気づいていないようだ。
上之保から何かと厄介ごとに巻き込まれてきたが、回避できるならそれ超したことは無い。
言い争いをしている集団の向こう側、西に目的の町がある。俺は南側から少し迂回して町を目指すことにした。
「あれなんだったんだろう?」
「なんかもめ事が起きたみたいに見えたが…首を突っ込むようなことじゃない。」
俺はハンドルを切って、旧市街地の中を走って行く。すると、前から一台の装甲車がこちらに走ってくる。
「マジかぁ…」
たった今回避をしたばかりなのになんでこう俺は運が悪いのか。
一応端によってハザードを点けるが、向かいから来た車は俺達の前で止まって人が降りてくる。
「わざわざ降りてきたよ!?どうする天童?気絶させる?」
「なんでだよ…俺が対応する。エーデルワイス、一応ハンドル握っておいてくれ。」
「わかりました。」
俺は町から認められた証である青い星形のバッジをつけていく。これはレアメタルにスターダストを混ぜで作られた特別なもので、不正に複製することは難しくなっている。
俺は銃を持たずに車から降りる。見た感じ相手のリーダーっぽいのは銃を持っていなかった。ならこっちもこれで答えないないとなめられるかもしれない。
だが、彩乃と初めて会った時のように手を上には上げなかった。ここで下手に出るのは愚策だ。
向こうから来た男は背が高く、紫苑と同じくらいの背の高さだった。目は切れ長で、全体的に青い色の高そうな服に黒いズボンを履いている。明るい茶髪に黒い目を持った格好いい男だ。
「…お前、見ない顔だな。どこから来た?」
「東からだ。それで、なんでわざわざ降りてきたんだ?何も用がないなら俺たちは町に行かせてもらう。」
俺と相手の男の間にピリついた空気が流れる。内心では滅茶苦茶帰りたいが、ここでびびっていることを悟られるわけにはいかない。
震えそうになる手を強く握りしめて怯えを誤魔化す。
少しの間見合ったあと、相手が先に視線を外す。
「…あの町はやめておいた方がいい。行っても追い返されるだけだ。」
「それはどういうことだ?」
男はちょっと考えるそぶりをして、横の折れた標識の支柱に腰を下ろす。
「あの町は外から来る人間を全て拒んでいるんだ。だから俺たちも入れない。」
「…でも、それはお前が言ってるだけだ。本当かどうかは町に確認しないとわからないだろ。」
俺がそう答えると、相手の男はニヤッと笑って肘をつく。
「言うねえ。確かにそうだ。ならなんで向こうで言い争ってる俺の仲間は誰も町に入れないのか一緒に見に行くか?あんたは車から降りなくていい。町の奴らと話すのは俺だ。」
「…わかった。」
なんだかここで引いたら男として負ける気がした。こいつらの素性はまだわからないが、第一印象は悪くなかった。それにもしも犯罪者なら横にいる男達がその銃の引き金を引いているだろう。
少なくとも殺されるようなことは無い。後ろのトラックを見て俺は話をする価値がある相手だと思われたのだろうか。
俺は一旦トラックに戻って、紫苑たちに事の顛末を話す。
「何それぇ。そいつら信用できるの?私一人で町に行ってもいいよ?」
「それはダメだ。紅蓮の情報には町の治安に関することは一切載ってなかった。町の内情に何かあるなら入るのもリスキーかもしれない。それにもしもあいつが言うとおり町に入れないなら、他にNo.を回収する方法を考える。まずは情報収集だ。」
とりあえずあいつらについて行ってみることにした。
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放置された住居を壁にしつつ、俺はひっそりと様子を見守る。
町の周りに作られたバリケードの内側と外側で言い争いが起きていた。
「だから、町で食料の補給をさせてくれればいいんだ!町に長居するつもりはない!」
「それはできないと何度も言っているだろう!こっちの食料も限界なんだ!外から来たやつに売れる物なんて残ってねえよ!」
「嘘をつくな!」
「何も奪おうって訳じゃない!ちゃんとお金なら払う!頼むから入れてくれ!」
男たちが町の入り口で取っ組み合いになりながら喧嘩になっていた。
「なんだあれ。地獄か?」
「紫苑ちゃんもさすがにあそこには行きたくないかな…」
状況から推測するに、こいつらはやはり犯罪者とかではなさそうだ。大方どこかから流れてきた人たちなんだろう。
「ほらな。俺たちだって町に入れるならとっくに入ってるって訳だ。」
横から顔を見せたさっきの男は乾いた笑みを浮かべながら、男たちがいる方に歩いていく。
「お前ら戻るぞ。」
「で、でもリーダー、もう食料が…!」
「わかってる。それについて今日手を打つ。だから戻れ。」
男たちはそう言うと、リーダーと呼んだ男たちと共にこちらに戻ってくる。
「行く宛がないなら俺たちの野営地に来るか?」
俺たちは顔を見合わせるが、紫苑からさっさと決めてという圧を感じる。
「…わかったよ。今日はそっちにお世話になる。夜花天童だ。よろしくな。」
おらが手を出すと男もこっちに向き直って右手を差し出してくる。
「阿釣優里だ。よろしくな。」
こうして俺たちは目標にしていた町に入ることなく、野営地を目指すことにした。
読んでいただきありがとうございました。
恨み忘れかけてんじゃねーか!もう許せるぞオイ!




