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機皇世界  作者: 小土 カエリ
各務原
26/33

閑話─彩乃─

よろしくお願いします。

 天童が町を出ていった日の朝、私はおじいちゃんと一緒に家に帰ってきた。


 今まで四人で使っていた部屋は何故かとても広く感じた。もう天童が朝食を用意してくれることも、紫苑と一緒にお風呂に入ることも、エーデルワイスと楽しくお喋りすることもない。


「また一人きりに逆戻りね。」


 私がリビングで自虐的にそう笑うと、誰かが部屋に入って来る。


「彩乃?いるの?」


 玄関を見てみるとママが私のことを呼んでいた。


「ママどうしたの?」


 私が玄関まで行くと、そこには不安げな顔をしたママがいた。


「その、朝ごはん一緒に食べない?ほら、一人だと寂しいんじゃないかなって。」


 ママからそんなことを言われるなんていつぶりだろう。私の夢を理解してくれなくて、私はママを拒絶した。ママと一緒にご飯を食べたのも大分前だ。


「…わかったわ。ママと食べる。」


 天童が来る前は私だって自分で料理をしていた。ちゃんと自炊できるくらいの生活能力はあるのだ。


 私の返事を聞いてママの顔が明るくなる。


「そう!よかったわ!」


 私はとりあえず自分の部屋を出て、二階まで移動した。


─────────────────────────


 二階のリビングに着くと、ソファにパパが座っていた。


「パパ…」


「…いろはから一緒に食べないかと言われてな。一緒に食べてもいいか?」


 私に対してのパパの対応が以前より柔らかくなった。後から聞いた話なのだが、私が憔悴している時に天童がパパと話をしたらしい。そしてその時に私がパパを怖がっていることも話したと言っていた。


 パパも私の為にどう接すればいいか悩んでいるのだろう。


 それはつまり、パパは歩み寄ろうとしてくれているのだ。


 今までずっと恐れてきた。いつも私のことを否定してくるばかりで、自分の考えを絶対に曲げない人。それが私から見たパパだった。


 そんな人が自分の考えを改めて、こちらに寄り添おうとしている。ならばこっちもそれに応えなければいけない。


「わかったわ。パパも一緒に食べましょ。」


 私はパパを恐れる自分と決別することにした。


 私とママが二人で朝食を作っていく。メニューはトーストとサラダと紅茶、カリカリに焼いたベーコンと目玉焼きだ。


 これはよく天童が作ってくれたメニューだ。シンプルなのだが私はこれが気に入っていた。


 天童から教えてもらった通りにベーコンの上に卵を落として、蓋をして火を通していく。その間に食パンをトースターに入れて、器にサラダを盛り付けていく。


「手際いいわねぇ。」


 横でお皿の用意をしていたママがそんなことをつぶやく。


「天童に教えてもらったのよ。焼いてる間に他のことをやっておけば暖かい目玉焼きを食べれるって。」


 普通に考えればわかることだ。だが、私は火から目を離すのが怖くて、何か焼くときはずっと付きっきりで眺めていた。


「まあ、ミスすることが減るからそれも悪くはないんだけどな。慣れてきたら合間合間に少しづつ他のことに手を着ければいい。そのうち効率よく料理できるようになるよ。」


 天童はなんてことはないという感じでそれをやっていた。


 紫苑は逆に何もやらずに横で喋っているだけだった。でも、天童がそれについてブチ切れたりすることはなかった。軽口を叩きながら、楽しそうにしている二人が少し羨ましかった。二人は優しかったから私も会話の中に自然に混ぜてくれたが、あんなに楽しく話せる相手はそうそう見つからない。


 私とママは朝食を焼き終えて、テーブルに料理を乗っけた皿を並べていく。


「パパ、出来たわよ。」


「今行く。」


 パパはテレビをつけてから、ダイニングにくる。席に着いて、三人で手を合わせる。


「「「いただきます。」」」


 自分の家で両親と顔を合わせて食事するなんて、本当に久しぶりだ。


 私はいつもと同じように目玉焼きをトーストの上に載せ、黄身を破壊する。膜が破られて、中からとろとろの君が溢れてくる。それを目玉焼き全体に伸ばしてから、トーストにかぶりつく。


(何回食べてもおいしいわね。)


 焼いたときにかけておいた塩コショウが目玉焼きとベーコンの旨味を引き立てる。そこに外側はサクッと焼けて中はふんわりしたトーストが絶妙にマッチしている。


 いつも天童が焼いてくれたやつより黄身が柔らかかったが、ここは何回か練習すれば同じとろみにできるだろう。


 久しぶりに自分で作った朝食に満足していると、ママとパパがこちらを見ているのに気づく。


「二人ともどうしたの?」


「…彩乃は変わった食べ方をするのね。」


「え?」


 私なんか変だっただろうか。二人はいつもこの食べ方だった。私もそれに倣ってこの食べ方をやっていた。


 だが、それを見てパパが私と同じように目だ話焼きをトーストに載せてかぶりつく。


「あなた!?」


「…こういう食べ方も悪くないな。いろはもやってみたらどうだ?思ったよりおいしいぞ。」


 トーストを食べたパパの顔はささやかながら笑顔を浮かべていた。


 それを聞いたママも同じような食べ方をする。


「あら、おいしいわね。」


「外でやったらマナーが悪いと言われるだろうが、ここは家だ。家の中でくらい好きな食べ方で食べても誰も文句は言わないだろう。」


 パパとママはそのまま楽しそうに談笑しながら朝食を続けた。


 ただのパンの食べ方を認めてくれたという些細な出来事。だけど、その小さい出来事からパパが変わろうとしているのが伝わってきて、とても嬉しかった。


─────────────────────────


 ご飯を食べた私は昔と同じように戦闘服に着替えて北側関門に向けて出発する。


 思えば、こうして関門の警備に就くのも久しぶりだ。


 関門に着くと、すでにいつものメンバーが警備に就いていた。


「お疲れ様です!」


「お疲れ様。今まで迷惑かけちゃったけど、今日から正式に復帰するわ。いままでごめんなさい。そして、今日からまたよろしくね。」


 私がそう言うと、部下の一人が笑いながら口を開く。


「迷惑だなんて思ってませんよ。あなたの腕はここにいる全員がよく知っている。それに、最近臨時で警備に就いていた三人組が言ってましたよ。「彩乃は絶対戻ってきます。」ってね。」


 私が精神的に死んでいた時も、三人はずっと警備の任務を続けていた。そして、その度に私は絶対帰ってくると話していたらしい。ちょっと恥ずかしかったが、三人からの信頼を感じられてとても嬉しかった。


「それに、今までは自分の腕前に対して自信が追い付いていなかったように見えたけど、今は違うみたいですし。」


「顔から自身が溢れてますよ。」


 周りの部下もがやがやと話し始める。


 昔の私が自信を持っていなかったのはみんな知っていたらしい。知っていて、それでもなお私の下で頑張ってくれていたのだ。


 なら私はその頑張りに応えなければいけない。私はもう今までの自分とは違う。


「みんなありがとう。今日も気合入れていくわよ!」


「「「おおー!」」」


 私は掛け声と共に自分にも気合いを入れた。


(私はこの町の英雄。もう無様な姿は見せられない。)


 昔の私は誰かからの指示がなければ動くことができない人間だった。天童に初めて会った時、私がこの関門の責任者になって間もない頃のことだ。


 思い返してみれば外から来た人間に防衛の責任者が指示を乞うなんて、絶対やってはいけないことだ。天童が良い人なので何もなかったが、悪い人だったらわざと敵を招き入れて火事場泥棒をしていたかもしれない。


 世の中には甘草らくとのようにすくいようのない屑な人間だっているのだ。


 私は気を引き締めてバリケードの上部に上がっていった。


─────────────────────────


 そこに流れる景色は以前と変わらないものだった。ボロボロになった旧市街地、人の手が入らなくなって倒木が増えた森、機械兵の残骸。町から伸びた道路にはヒビが入っており、いつ崩れてもおかしくない。


「敵だ!!」


 そんな雰囲気の中、森の奥から機械兵が姿を現す。


「前来たのとは違う形だ!」


「また戦闘かよ!最近多いぜ!」


 騒ぐ部下に対して私は通信機で指示を飛ばす。


「町に侵攻の連絡を入れて!残りは武器を構えて待機!」


(紅蓮がいたところの再侵攻…?違うわね。前と機体の種類が一致しない。)


「ここに来るまでもう時間がない。私たちだけで倒すわよ!敵の数は?」


 望遠鏡を覗き込んでいる部下から報告が入る。


「数およそ八十!」


 私も自分の双眼鏡で見てみるが、ガクガクしている機体ばかりでなんだかゾンビのようだった。


「敵の統率がとれているようには見えないわね…」


「どうします?機械兵の侵攻にしては様子がおかしいですね…」


「どっちにしても倒すことに変わりないわ!迫撃砲準備!」


 私は迷うことなく撃滅の指示を出す。様子がおかしいのは確かだが、倒さなければ町が危ないのは変わりない。


 横にいる二人がそれぞれ迫撃砲の照準を合わせる。私もデバイスのARを通して、どこに狙いが付いているのかを確認する。そして、敵が射程に入ったところで手を振り下ろす。


「発射!」


 迫撃砲に弾が装填され、ボンっという音と共に弾が山なりになって飛んでいく。その弾はヒューという音を出しながら敵に着弾する。


 少し遅れてドゴォという爆発音が聞こえてくる。第二射、第三射と迫撃砲を撃ち込んでいくが敵が止まることはない。


「全員構えろ!中央は迫撃砲に任せるわ。私たちは端から潰していくわよ!」


「「「おおー!」」」


 そこからは早かった。迫撃砲と私のグレネードランチャーで吹き飛ばした敵を部下が順番に処理していく。敵の進行速度に対してこちらの処理が迅速だったので、敵がバリケードにまで到達することはなかった。


 全ての敵を破壊した後で、町に戦闘終了の報告を入れる。


「こちら北側関門よ。今敵を殲滅したわ。被害は特になし。消費した弾薬については後から報告を入れるわ。」


「わかりました。お疲れ様です。」


 私はそう通信を入れると、周りの部下から力を抜いた声が聞こえてくる。


「ふぅ…今回は敵の攻撃も緩かったですし、楽勝でしたね。」


 それを聞いて、私も武器を降ろす。だが、少し気になることがあった。


「そうね…ねえ誰か解析できる人いない?いたら来て頂戴。」


 私は関門の兵の半分を連れて、敵の残骸の元まで歩いてくる。


「使えそうにないブレインは破壊してスターダストを回収しなさい。後で私が預かるわ。無事なものはここに持ってきて。」


 部下と一緒に私も敵のブレインからスターダストを回収していく。今度会ったら天童に渡そうと考えていた。部下にそれを集めさせるのは職権乱用かもしれないが、人類側の貢献になると思えば許されるだろう。


 しかし、殆ど爆破してしまったので無事な状態のブレインがない。もう少し加減して攻撃すればよかっただろうか。


「隊長!これ使えそうです!」


「オッケー。道からある程度残骸をどけたらバリケードまで戻るわよ。」


「「了解。」」


 私は大きな残骸をどけて、車が通れるくらいの道幅だけ確保しておく。


 そして、バリケード内の休憩室に戻ると、部下にブレインの解析をさせる。


「ダメですね…データがクラッキングされてます。誰にやられたのかもわかりません。」


「そう…ありがとう。助かったわ。」


 私はその敵のブレインを受け取って、おじいちゃんに連絡を入れておいた。


 もしかしたら何かわかるかもしれない。


 それにしても、天童が出ていったその日にこんな不気味な出来事が起きるなんてついてない。


(何もなければいいのだけど…)


 私は少し、天童たちのことが心配になった。


読んでいただきありがとうございました。

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