戦いの後
よろしくお願いします。
No.の新しい情報を手に入れた次の日。
今日は戦闘で活躍した者が町から表彰を受けていた。彩乃は町から霊銀勲章というものをもらっていた。敵の首魁を倒したことを評価されたのだ。俺と紫苑は特に何もなかったが、知り合いが評価されたこと嬉しかった。
エーデルワイスは機械兵なので何もなかった。
だが、灯りさんがそれでは申し訳ないということで、式典が終わった後でとあるものをくれた。
それはエーデルワイスの安全性を各務原が保証するというお墨付きと、各町に入る手続きを簡略化できる通行証だった。
「こんなものもらっていいんですか?」
「いいんだ。君たちには戦闘以外でも娘が世話になった。こんなダメな親に代わって彩乃を支えてくれたこと、感謝している。受け取ってほしい。」
こうして俺は俺は灯りさんからお礼の品をもらったのだった。
そして今、俺はおじいさんに強化服の修理の仕方を教えてもらっていた。
「そこの回路間違っておるぞ。」
そう指摘されて俺ははんだごてを持つ手を降ろす。
「あ、すいません。どう繋げばいいですか?」
「ここはこのトランジスタを噛ませるんじゃ。見落としやすい箇所だからよく覚えておけよ。」
こんな感じの間違いを何回もしていた。銃の整備なら俺一人でもできるのだが、強化服になるとさすがに専門の知識がいる。
それと小耳にはさんだことなのだが、灯りさんが着ていた強化服はおじいさんが作ったものらしい。
「あんちゃんもそう遠くない未来に作るときが来るじゃろう。聞きたいことは何でも聞いてくれ。できる限り力になる。」
そう言われて、俺は2週間みっちり強化服についての基礎知識を叩き込まれた。
いつも通りおじいさんからの実習を交えた勉強を終えて4階まで戻ってくる。
「疲れた。」
エレベーターを出て自分の部屋に戻ろうとすると、扉の前には彩乃が立っていた。
「お疲れ様。ねえ、少し話さない?」
彩乃は俺にお茶が入った水筒を渡してくる。その水筒には熱がこもっており、まだ暖かかった。
「わかった。ありがとう。」
俺はとりあえず部屋に戻って着替えることにした。
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彩乃と二人で夜の町に繰り出すのはこれが二回目だ。前は俺が誘ったのを覚えている。
それにしても、機械兵の襲撃があったのに力のある町だ。普通襲撃があるとしばらく疲弊した雰囲気が流れるのだが、大きい町は違うようだ。
俺は前と同じ露店に行くと、そこで串焼きを買っていく。
「あなたそれ好きね。」
「お前との思い出補正もあって更に美味しく感じるからな。」
「なにそれ。」
俺は彩乃の隣を歩きながらあの場所を目指す。ルートはなんとなく覚えていた。たった一回行っただけなのに忘れてないのは、やはり彩乃の大切な場所だからだろう。
しばらく歩くとあの展望台が見えてくる。相変わらずいい場所だ。
「夜風が気持ちいいわねー。」
彩乃は手すりから身を乗り出して、町を眺めていた。
「危ないぞ。」
俺は前のめりになっている彩乃のパーカーを引っ張ってやめるように促す。
「大丈夫よ。こんなところで落ちたりしないわ。」
「はいはい。早く座って食べよう。」
俺たちは前と同じベンチに腰かけて、二人で夜の町を眺めながら焼き鳥や牛串にかぶりつく。
「守れてよかったな。」
俺が笑顔でそう言うと、彩乃も笑顔で返事をする。
「そうね。あと言いそびれていたけど。私がダメダメになっていた時、側に居てくれてありがとう。本当に助かったわ。」
夜の町をライトをつけた車が走っていく。それがキラキラと輝いていて、流れ星のようにも見える。今の時代、夜になってもこんなに活動的な町はそうそうない。
夜の街並みに見とれていると、今度は彩乃が話を振ってくる。
「もう行くの?」
俺はその問いに少し言葉が詰まった。
「…ああ。もうここでやれることはない。もう数日したら出て行こうと思ってる。」
ここには元々No.90のキーを取りに来ただけだ。それがNo.90の複製。強化服の修理の仕方。次のNo.の情報。本当に数えきれないほどたくさんの収穫があった。
「実利的な話もそうだが、俺はこの町に来れてよかったと思ってる。この町を守っている戦闘員との共闘。彩乃をはじめとしたたくさんの人と出会えたこと。郡上で終わっていたら、俺がこんな遠いところまで来ることもなかった。この町のこと俺は忘れない。」
「そう。それが聞けて本当によかったわ。」
俺は串をゴミ箱に捨てて、水筒の暖かいお茶を飲んで一息つく。
「もう、俺がいなくてもやっていけるか?」
彩乃の顔が苦笑いの表情に変わる。
「…全然大丈夫、と言えば嘘になるわね。今だって心のどこかで、あなたが側に居てくれたらって考えてる自分がいるわ。」
彩乃はベンチから立ち上がり、手すりに寄りかかる。
「でも、もう私はこの町の英雄になった。私の夢は叶ったのよ。だから私はこの町を守らなければいけない。」
そう答えた彩乃の瞳には確かな覚悟が見えた。
(もう俺なんかよりもずっと成長していたんだな。)
少し寂しくもあるが彩乃の成長を喜ぶべきだろう。
「そうか…なら、頑張れよ。」
俺は短く、そう激励した。もうグダグダ話す必要は無いように感じた。彩乃は立ち直り、俺たちも次の目標に向かう。別れは悲しいが、それでも俺たちは先に進まなければいけない。
「ありがとう!あんたも頑張んなさいよ!」
俺たちは笑顔でハイタッチをして、その展望台を後にした。
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「で?死にたいってことでいい?」
帰って来ると俺の寝室で待ち構えていた紫苑に捕まった。
「ただ別れを済ませただけです…やましいことは何もなかったです。本当です。」
「まあ、盗聴してたからそれはわかってるけど。流石にちょっと許容範囲を超えてんよ。」
さっきのロマンチックな感じが全部台無しになった。ああいう場面くらい二人きりにさせてやろうという思いやりは紫苑にはないのだ。なんと悲しい現実か。
「おお、ブッタよ。寝ているのですか…」
「何わけわかんないこと言って逃げようとしてんの?」
「はい…すいません…」
かつて拾った古いデバイスの中に入っていた動画のセリフが口を突いて出た。あれがどういう意味なのかは正確には知らないが、こういう使い方であっているだろう。多分。
「じゃあ、今日は一緒に寝ようね。」
「え、いや、なんというかそれはさすがに…レベル高くないですか?」
さすがに俺だって年頃の男だ。同年代の女性と同衾するのはハードルが高かった。
「嫌なら一緒にお風呂でもいいよ?」
「一緒に寝ましょう。」
風呂は無理。絶対に下半身が反応してしまう。今までだって紫苑は守るべき対象としてしか見てこなかった。正確にはそうとしか見ないようにしていた。
男女の関係になってしまい、今までの関係が終わってしまうのが怖いのだ。あと俺が紫苑の特大の愛を受け止められる自信がないヘタレだからという理由も追加される。
「それとパジャマは着てくれ。それは本当に頼む。」
「…仕方ない。いいよ。それで折れてあげる。」
そうして俺は紫苑と一緒に寝ることになった。
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風呂に入ってからパジャマ姿に着替える。寝室に向かうと、紫苑がすでに待っていた。
「早く。」
紫苑はベッドに入っており、布団をめくって早く来るように促す。
「わかったからちょっと待って。」
俺は部屋の電気を全て消す。普段は豆電球を点けておくのだが、今日はそんなことをする余裕はない。一秒でも早く寝てこの夜を乗り切らなければいけない。
(ただ寝るだけ。そう今日はただ寝るだけだから。何もしないし何も起こらない。)
俺がベッドに入ると素早く紫苑が手を繋いでくる。
「し、紫苑ちょっと待った!!」
俺はそれに驚いて跳ね起きる。
「何?早く寝たいんだけど。」
「いや、だって手を…」
俺がオロオロしていると、紫苑が俺の手を引いてベッドの中に引き込んでくる。
「昔は何回も繋いでたじゃん。」
「それはそうだけどさ。」
「男がウジウジするな。今日はエッチな事はやらないから。早く寝るよ。」
「はい…」
俺は紫苑にそう言われて諦めて寝ることにした。さっきはただ手を繋いだだけだったのだが、今は腕に抱き着かれている。
(胸が柔らかくて寝れねえ…)
なんで女の子の胸というのはこんなに抗いがたい力を持っているのか。
だが、紫苑はすでに眠ったようで、寝息が聞こえてくる。
この状況でよく眠れるなと思うが俺も頭を空っぽにして眠ることにした。
(修行僧になれ、俺。)
俺は無の感情でこの夜を過ごした。
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深夜の二時。
私は静かに目を開ける。
「天童…?」
小声で呼んでみるが、天童は起きなかった。
それを確認して私は天童の体を自分の側に引き寄せる。腕を私の方に持ってきて抱きしめるような形にする。
天童の胸に顔をうずめると、素晴らしい安心感を得ることができた。今後は定期的に天童を脅して合歓することにしよう。
「天童…天童…」
私の長い夜は始まったばかりだった。
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俺が朝目を覚ますと、目の前に胸があった。何がどうなってるんだと思い、腕を動かそうとするが、紫苑に拘束されていて動かせなかった。
しぱしぱする目をなんとか起こして周りをよく見ると、俺は紫苑の体を向かい合ってがっつり抱きしめていた。特に右手は紫苑の尻を鷲掴みにしており、いろんな意味でヤバかった。
急いで紫苑の拘束から逃げて、ベッドから立ち上がる。
もう今日は紫苑を起こさなくてもいいだろう。というか俺の中の感情がぐちゃぐちゃになっているので、とりあえずトイレに行くことにした。もう二度とこいつとは一緒に寝ない。
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紫苑をほったらかしにして、俺は彩乃に朝食を作って二人で食べる。
「今日は紫苑は起こさなくていいの?」
「いい。」
俺はきっぱりそう答えて食事を続ける。
「なんかあんた顔赤くない?」
「だ、大丈夫だから。それより、俺たち、明日には出て行こうと思う。」
俺は無理矢理話題を変える。彩乃の要らんところで鋭いのはなんなんだ。
だが、俺がそう言うと、彩乃は少し寂しそうな顔をする。
「そう。それは寂しくなるわね。じゃあ、今日の夜は送別会のパーティーにしましょ。パパとかおじいちゃんとか呼んでパーッとやりましょ!」
「ありがとな。」
俺は本当にいい友達を持った。第一印象は最悪だったのでここまで仲良くなるとは思っていなかった。この町での生活の殆どは彩乃に依存していた。彼女には感謝してもしきれなかった。
二人で雑談をしていると、紫苑がリビングに入ってくる。
「なんで起こしてくれないの!?」
「なんか起こす気にならなかっただけだ。朝食できてるから早く顔洗ってこい。」
紫苑は何か言いたげだったが、渋々洗面所に向かった。
「絶対なんかあったでしょ…」
もくもくと朝食を食べる俺と、何かに気付いた彩乃の独り言が対照的だった。
読んでいただきありがとうございました。




