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機皇世界  作者: 小土 カエリ
各務原
23/33

休暇と対話

よろしくお願いします。

「お前さん生きてたか。それにしても辛そうな顔をしてるな。」


 武器屋の中はいつもと違って落ち着いた雰囲気だった。


 大きな戦いがあったからみんな休んでいるんだろう。武器屋が空いているなんてこんな日くらいだ。


「超きつかったですよ。ていうか普通に死ぬかと思いました。お孫さんが助けてくれなかったら本当にヤバかったです。まあ、それは置いておいてこれの修理お願いします。俺じゃ無理そうなんで。」


 俺はNo.89をテーブルの上に置く。


「これはNo.7の強化服か。前々から思っていたがやけに高価なもん持ってるな。どこ産の物だ?」


「拾いもんですよ。まだ碌に中身を弄ったことがないんで扱い方がわからないんです。整備の仕方、教えてください。」


 俺はおじいさんに向かって頭を下げる。ここに来るまでに考えたが、やはり俺一人では直せない。こればっかりは誰かに教えてもらわないと無理だ。


「いいぞ。彩乃が世話になったからな。No.の件もある。」


 おじいさんは強化服を見た後にエーデルワイスの方に目を移す。


「No.7、昨日見た時はボロボロだった。だが、今日は見違えた。お前さんが直したのか?」


「ああ、はい。昨日夜通し修理して直しました。」


 最終的に細かいところは自己修復で直してもらったが、大きなパーツの交換は自分でやった。


 おじいさんはそれを聞いて少し考えるそぶりをする。しばらくして目を開けると、鋭い視線でこちらを見てくる。


「そうか…わしの見立てではお前さんは将来優秀な技術者になれる。だから、今日は休め。流石に疲れが出てるぞ。」


「で、でも…」


 俺は食い下がろうとするが、おじいさんは手をひらひらと振って帰るように促す。


「いいから休め。どうせ今日はものの解析に時間が掛かるから、大したことはできん。」


「…わかりました。」


 俺とエーデルワイスは四階に戻ることにした。


─────────────────────────


(疲れが出てる、か…)


 徹夜で作業をしたのがよくなかったみたいだ。でも、昨日攻めてきた機械兵は撤退しただけで、まだ残っている。


 再度この町に攻めてきてもおかしくない。身を守るためにも戦力の補充は早急にしておきたかった。


(だけど、日が昇っても機械兵たちの再侵攻はなかった。)


「はぁ…俺の考え過ぎだったか。」


 また知らず知らずのうちに悪い方向に考えていたようだ。


「天童、今日は休んでください。紫苑と彩乃には私から言っておきます。」


「すまん。ちょっと休む。」


 俺は自分の部屋に戻って、眠ることにした。


 さすがに疲労が溜まってる。ベッドにつくと俺はそのまま泥のように眠った。


─────────────────────────


「────ということで、今日は休みです。」


 私は天童を見送った後、朝食を食べてゆっくりしている紫苑と彩乃の元に戻った。


 二人はソファに座りながらテレビを見ていた。


「ほえー。じゃあ、今日はなんもやることないんだ。ふーん…じゃあ、今日は各々自由にのんびりするってことで~。」


「休暇ね。よかったわ。流石に私も疲れたし。」


 私は自分の部屋に戻っていく紫苑を尻目に、自分の部屋に戻ることにした。


「じゃあ、私も今日は部屋に引きこもっていますね。」


「お疲れ様。じゃあ、私はもうひと眠りしようかしら。」


 廊下を歩きながらふと考える。今まで休暇なんて過ごしたことがない。どうやって時間を潰せばいいのかわからない。


 自己修復を再度かけ直すのもいいが、どうしようか。


「…いや、違う。」


 私は天童のいる部屋に向かう。彼の部屋にはあれがあるはずだ。


 天童の部屋の扉をそっと開き、彼のリュックの中を漁る。


 そこには私が回収した紅蓮の頭部があった。


 私はその頭部を抱えて天童の隣で横になる。


 そして動力炉をフル稼働する。修理したおかげで全体的な稼働率は悪くない感触だ。紅蓮の頭を握る手にエネルギーが集まっていく。一息置いてから以前教えてもらった方法を試してみる。


「ふぅ…リンクスタート。」


 私はそう言うと、自分の意識を紅蓮の中に飛ばした。


─────────────────────────


 私が目を開けると、そこには自然が広がる森の中だった。周囲を見渡すと近くにある立派な屋敷が目についた。


「これが紅蓮の自己空間…」


 電脳空間の中を私は歩いて進む。


 私がやったのは紅蓮のブレインの中に直接接続するという荒業だった。No.90を最初に手に取った時、私は彼の自己空間に引きずり込まれた。その時にやり方を教えてもらったのだ。


「今のお前は失ったものが多すぎる。それは仕方がないことだ。だが、いつまでもそのままではいられない。早く力を取り戻すんだ。」


 その言葉が頭の中に残っていた。


 私にはやらなければいけないことがある。私は何か重要な事を忘れている。それを取り戻さなければいけない。


「そのためにあなたの情報が必要です。紅蓮。」


 そこには縁側から庭園を眺めている紅蓮がいた。


「…こんなところまで追いかけてくるなんて、つくづく馬鹿な奴だ。まあ、いい。言いたいことは色々あるがこっちに来い。」


 紅蓮の格好は私が見た赤い機体とはまるで別物だった。機体にはKH37564というコードが刻まれていた。


 機体は中距離用のマシンガンを右手に装備していた。機体と一体化しているようで手放せないらしい。


「生け花はやったことあるか?」


「生け花?」


「そうだ。剣山に自分の世界を造る。ただそれだけのシンプルなことだ。」


 紅蓮が襖を開けると、そこには多種多様な花が置いてあった。


「座れ。作法や流儀は気にするな。自分がやりたいようにやってみろ。重要なのは正面から見た時にどんな世界ができるのかイメージすることだ。」


 紅蓮の向かい側の座布団に座り、左手で座るように促す。


「…失礼します。」


 私は軽く礼をしてから、座布団に正座する。


 私の前には直径10センチくらいの剣山が置いてある。


 目の前には無数の花が置いてある。紅蓮の方を見ると、赤いハイビスカスを中央に活けていた。


 私はたくさんの花に目が滑っていたが、ふと一つの花に目が留まる。


 私はそれを手に取って、まじまじと見る。


(綺麗な花だ。こんな花があるなんて…)


 それを鼻の近くまでもってくると、いい香りがした。


(…違う。)


 私はこの花を知っている。どこか、遠い昔にこの香りを嗅いだ気がする。なのに思い出すことができない。


「迷っているな。」


 ハッとして目線を上げると、紅蓮が膝に手を置いて目を閉じていた。そしてしばらくすると目に光が戻ってくる。


「その花は『また会う日を楽しみに』という意味だ。無意識にそれを手に取ったということは、お前には誰か再会したい相手が居るんじゃないか?」


「再開したい相手…」


 私は頭の中にNo.90からもらった記憶がよぎる。


 共に戦場を駆け抜けた戦友。今の主の仇敵。そして、私の中に唯一残っていた命令。


(私は一体どうしたいんだろうか?)


 天童と初めて会った時に言った言葉を思い出す。


「私は兵器…のはずなのに。」


 私の中でどちらを優先すればいいのかわからない。私が何を言えばいいか言い淀んでいると、紅蓮が次の質問をしてくる。


「お前は今、幸せか?」


「幸せ…?」


 紅蓮がそんなことを聞いてくる。紅蓮はちょうどピンク色のバラを手に持っていた。


 機械兵が自分の幸せを考える事なんてあるのだろうか。少なくとも私は考えたことがない。


 紅蓮はバラの茎をカットして、剣山の右手前に突き刺す。そして話を続ける。


「俺はフェリキタス様に会えて幸せだった。譲ることができない物事は確かに存在する。だが、必ずしもそれを天秤にかける必要はない。」


 庭園からは水が流れる音が聞こえてくる。風が吹き、木々が揺れる。穏やかな時間が流れているのに空気は妙にピリついていた。


「…お前は兵器であっても自我無き機械じゃない。もはや機械だからというのは思考停止していい理由にはならない。俺はフェリキタス様との生活で幸せを追い求めるという目標を得た。お前も目標を探すことだ。」


「…耳が痛いですね。」


 紅蓮が言っていることは筋が通っているように思える。


(私は私。)


 かつての私には今とは違った目標があったのだろう。だが、必ずしも以前の自分をなぞる必要はない。


(だけど…)


 私は自分の中に一つの答えを得る。


「私は、知りたいです。かつての私が何を目指していたのかを。その上で私は私の目標を見つけます。機皇神を倒すのはその後でも遅くはありません。」


 視線を上げると、そこには紅蓮の他にもう一機の機械兵が座っていた。その顔はベールに包まれていて見えないが、どこか懐かしい感じがした。


「そうか。今はそれでいい。」


 そう言うと紅蓮は懐から透明なキューブを取り出してこちらに投げてくる。


「これは…?」


「お前が欲していた情報だ。他のNo.のことが書いてある。精々頑張るんだな。」


 私はそのデータを手に取ると、立ち上がって襖を開ける。


 そして、立ち去る前に紅蓮に質問をする。


「最後に一つだけよろしいですか?」


「なんだ?」


「私はあなたの敵です。なのになんで私にこれをくれたんですか?」


 紅蓮は横の機械兵に目をやり、少し考え込む。彼は迷いながら一つの花を手に取ると、それを剣山の後ろ側に配置する。おそらくあれで完成なのだろう。


「何故かと聞かれれば、明確な答えはない。だが、一度死んでからそれ程気分は悪くないんだ。ただ敵を殺し続けるだけの兵器だった俺が、この庭園を心の中に抱くことができた。それは一つの幸せと言って差し支えないはずだ。でも、だからこそ俺はここまでだ。ここからはお前が行け。そして、今度はお前の幸せを聞かせてくれ。今の俺はそれが知りたい。」


 そして、最後に外の景色を眺めながら一言だけつぶやく。


「思えば、フェリキタス様が俺に名前をくれた時。あの時のあの人もこんな気持ちだったのかな…」


「…情報感謝します。」


 私は短くそう言うと、襖を閉じる。そして、来た道を戻った。


─────────────────────────


 俺が目を覚ますと外は日が沈みかけていた。時計を見てみるともうすぐ5時だった。


「もうこんな時間か…ん?」


 横を見ると、紅蓮の頭を抱えたエーデルワイスが横になっていた。


(え?こいつ何やってんの?)


 なんで俺と添い寝しているのかもそうだが、倒した敵の頭部を握って寝ているのが不気味だった。何かそういう癖でもあるのだろうか。


 だが、エーデルワイスのことをよく見てみるといつも出ているウィンドウが表示されていなかった。つまり、今は自己修復とは別のことをやっているのではないだろうか。


「…寝かしとくか。」


 そう思ってエーデルワイスが起きないようにそっとベッドから立ち上がる。しかし、改めて見るとすごい美少女だ。以前も思ったが、機械兵ということを考慮しなければ物語に出てくるお姫様のようにも見える。


(こいつを作った奴は間違いなく面食いだな。)


 俺はそんなことを考えながらエーデルワイスの顔を覗き込む。髪はサラサラだし、顔の造形も相当拘って作ってある。芸術のことなんてこれっぽちも理解できない俺にだってわかる。顔の表面を見れば角が立ってるところなんて一切見当たらない。


 これをデザインした奴は極限までエーデルワイスを人間に近づけたかったのだろう。なぜそこまで人の姿に固執していたのかはわからない。でも、幸か不幸か今の俺たちにとってそれはありがたいことだ。ここまで人の姿に近いおかげで、普通に生活している分には機械兵だと騒がれる心配もない。


「天童?」


「うおおお!?」


 急にエーデルワイスが目を開いたので、驚いて後ろに倒れてしまった。


「起きてるなら言ってくれ…」


 俺は立ち上がってため息をつく。本当に心臓に悪いからやめてほしい。


「驚かせてしまったようですね。すいません。実は紅蓮と話をしていたんです。」


「え?紅蓮って死んだんじゃないの?」


「私からエネルギーを流し込んで無理矢理再起動させました。そんなことよりも大事な話があります。紅蓮のおかげで他のNo.の手がかりを手に入れました。すぐにこの情報を精査して欲しいのです。」


 そう言ってエーデルワイスは自分をパソコンに接続する。


「次の目標…」


 俺は真面目な顔つきに尚ってパソコンの画面を開く。画面のロックを解除して、エーデルワイスとの接続を許可する。すると次の瞬間には大量のデータがパソコンの中に流れ込んでくる。


 その情報は全て日本に存在するNo.についてのことだった。


「すごい…!」


 ものによっては捜索範囲がかなり絞られているものもある。これだけの情報を抜き取れたのなら、先の戦闘で命を張った甲斐があったというものだ。


 俺は寝起きでふわふわしていた頭を叩き起こして、情報の精査を開始した。

 

読んでいただきありがとうございました。

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