決着
よろしくお願いします。
私の目の前にはがくがくと不自然な挙動をとる紅蓮がいた。関節部分から火花が散っている。もう動力炉が破壊されているのだろう。だんだんとスターダストの光が機体から消えていく。
「ああ…フェリキタス様…俺は幸せで、し…」
その言葉を口にしながら太陽に向けて手を伸ばす。そして、最後に紅蓮は機能を停止した。
「何こいつ。機械兵が幸せなんて…まるで人間みたいなことを言うなんて…」
私は自己修復機能を使い、なんとか立ち上がる。そして、紅蓮のブレインが入っている頭部と、奴が使っていたマシンガンを持って行く。
「行きましょう彩乃。こちらに天童たちがいます。」
「わかったわ。」
私は彩乃を先導して、元来た道を引き返す。敵のトップは打ち取ることができた。あとは残りの機械兵を倒せば勝てる。
だが、私が離れたことで天童たちがどうなっているのか不安だった。先の爆発で腕のデバイスも壊れてしまった。
私は急いで戦場を走った。
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俺の目の前には地面を埋め尽くさんとする量の機械兵が押し寄せていた。こちらも大分被害を受けており、部隊の半数がすでに負傷していた。
「ちょっとヤバいよ!こんな物量勝てないって!」
後ろにいる紫苑から通信が入る。それには俺も同意だ。倒しても倒してもどんどん敵が流れてくる。
こちらのロケットランチャーを使える人がバリケードの防衛に回ったので、火力差が開いていた。
「くそ!」
もう手持ちの手榴弾は全て使い切ってしまった。ディアノートで敵を攻撃してはいるが、終わりが見えなかった。
もう限界だと思ったその時、敵の動きが急に悪くなる。統率が取れなくなったようにばらばらに攻撃してくるし、中には勝手に引いていく機体もいた。
「なんでかわからんが今がチャンスだ!全員撃ちまくれ!」
刀祢さんから指示が飛んでくる。俺も最後の力を振り絞って、銃を構える。敵の頭部を狙って攻撃を仕掛けるが、しばらくすると敵が態勢を立て直していく。
「また敵の攻撃が激しくなってきたぞ!」
「こっちに負傷者が一人いる!誰か来てくれ!」
俺はその声を聞いて、急いで味方がいる場所まで走っていく。
そこには右足を撃たれた若い男性がいた。
「大丈夫ですか?掴まってください。」
「すまん…!」
俺はその場に居たもう一人の人と協力して、その場から離脱する。最初に突撃してきた時に比べて火力差が開きすぎている。これ以上は持ちこたえられない。
そう考えていると、数体の機械兵がこちらを狙ってくる。俺たち三人は急いで木の影まで移動するが、激しい銃撃を浴びる。俺も右腕に弾を掠ってしまう。血が滲んでくるが今はそんなこと気にしている余裕はない。
俺は負傷者から手を離して、ディアノートで反撃する。こちらを狙ってくる敵を少しでも倒さなければいけない。俺は必死に敵を撃ち続けた。
手元の弾はこのマガジンで最後だ。これで近くの敵を倒さないと逃げ切るのは絶望的だ。
遠くから紫苑が支援してくれてはいるが、敵が多すぎる。
(せめて爆発系の武器がもう一人居てくれたら…!)
そう考えていると、俺のデバイスに突然通信が入る。
俺はそこから聞こえてきた声に驚愕することになる。
「天童!走りなさい!」
その言葉と共に、周りの敵が爆散してく。
この声と連射式のグレネードランチャーを俺はよく知っている。
(戻ってきてくれたのか!)
「後ろは任せる!」
俺はそう短く返事をすると、負傷兵を連れて撤退した。
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「任されちゃしょうがないわね。まだいける?」
「そうですね。天童たちが撤退するまでは、死ぬ気でやりましょう。」
私は横にいるエーデルワイスと共に敵を殲滅していく。敵が密集しているところから狙っていくと、面白いように吹き飛んでいく。
久しぶりの戦闘でも、私の体は思うように動いてくれた。
私は今、天童から頼られている。みんなの背中を預かっている。
それだけで今まで生きてきたことが報われる気がした。私はこうして戦闘で活躍する日を夢見て訓練を続けてきたのだ。
あの日見た格好いい戦闘員たちの姿。私は今そこに立っている。
(負けられない!絶対に撤退までの時間を稼いでみせる!)
横のエーデルワイスを見るがすでにボロボロだった。さっきの赤い機体と苦しい戦いをしてきたのだろう。
さっきも間一髪だった。私がここに来るのを少しでも渋っていたら間に合わなかっただろう。
あの時私が行くしかないんだと気付けて本当によかった。
私はエーデルワイスと二人で撤退する部隊の最後尾で敵を食い止めながら引いて行った。
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「ここに乗ってください。すぐに町で治療を受けれますから。」
俺は運んできた人を担架に乗せて、車まで運んでもらう。
「ありがとう。本当に助かったよ。」
俺は小さく頷いて、その人を見送る。
「あんたも負傷者でしょ。乗っていかなくて良かったの?」
振り返るとそこには土煙を浴びて若干黒ずんだ彩乃がいた。
「俺より優先して乗せる人がいるからな。それより、本当にもう大丈夫なのか?」
「大丈夫よ。色々あって自分の生きる意味を見出したわ。」
俺はその言葉を聞いて安心する。
「そうか。ならよかった。さっきは助かったよ。彩乃が来てくれなかったら正直ヤバかった。ありがとう。」
俺は彩乃に対して頭を下げる。
「私も随分迷惑かけちゃったわ。ごめんなさい。そして、ありがとう。」
俺たちは顔を上げると、お互いに手を出して握手をした。
俺たちはお互いのことを認め合った。
これは今までの彼女との区切りだ。もうあの弱っている彩乃はいなくなった。これからは頼りになる仲間に戻ってくれるだろう。
「彩ちゃーん!」
俺たちが握手していると、横から紫苑が走ってくる。そしてそのまま彩乃に飛びつくようにダイブする。彩乃もなんとか紫苑を受け止める。
「もう大丈夫なの?」
「ええ。紫苑もありがとう。」
彩乃がそう言うと、紫苑は嬉しそうに笑った。
「そっか。よかった。」
俺もつくづくそう思う。思えば彩乃が駄目になってからはずっと付きっきりだった。それが一人で戦場に飛び出してくれるくらいになった。これからも気にかける必要はあるかもしれないが、一先ずは安心した。
「それで紫苑。敵はどうなったって?」
「それが撤退したみたい。灯りさんたちが追撃部隊を出すか今相談中。」
「そうか。なら弾を補給したら少し休もう。」
「はいはーい。」
俺たちはそのままの足で補給所まで歩いて行った。
「5.56ミリと9ミリ、あと12.7ミリ────。」
俺たちは補給所で弾を貰って、テントの側で休んでいた。本当に疲れた。もう手が上がらない。
よく見たら全員ボロボロだった。紫苑も戦闘服に切れこみがはいっているところがあるし、エーデルワイスは見るからに体中を損傷していた。
でも、全員生きてここに戻って来れた。それを喜ぼう。
「そういえば敵の首魁の首です。何か情報を抜き取れるかと思って持ってきました。」
急にエーデルワイスが口を開いたかと思ったら、背中のリュックから機械兵の頭部が出てくる。
機体のカラーリングは赤だったのだろう。煤にまみれているがそれははっきりと分かった。
「そういうのは先に言ってくれ。灯りさんのところに行くぞ。」
俺は疲れた足を動かして、灯りさんたちが会議をしているテントの中に入っていく。
「失礼します。報告したいことがあって来ました。」
「おお、天童君。何かあったかね?」
俺は机の上にエーデルワイスが獲ってきた機械兵の頭部を置く。
「エーデルワイス、説明してくれ。」
「はい。その機体は敵の軍をまとめていた紅蓮という者です。私と彩乃の二人がかりでなんとか撃破しました。敵の統率が不安定になったのは、これが原因だと思います。」
エーデルワイスは今回の敵の目標が自分だったこと話した。紅蓮が口にした機皇神の名前から、敵は中国ではないかということを議論した後、追撃部隊は出さないという方針になった。
灯りさんがテントの中から通信機を使って、全体に戦いの終わりを告げる。
「全体通信を入れる。今日の戦いはエーデルワイス、大矢野彩乃の両名が敵の首魁を打ち取ったことで決着となった。これにて防衛戦は終了とする!」
その通信を聞いた人たちは一拍置いてその喜びを表に出す。
「ぃよしゃあああ!!」
「俺たちの勝ちだああ!!」
「「「うおおおおお!!」」」
俺はそれを聞いてエーデルワイスに対してお礼を言う。
「今回もよくやってくれた。ありがとな。」
俺がエーデルワイスの肩を叩くと、笑顔で返事をしてくれる。
「これくらいどうということはありません。戦利品を喜んでくれたのでよかったです。」
俺は敵の首魁の頭部を受け取る。エーデルワイスはそれに加えて見たことない銃を背負っていた。おそらく戦利品というのはあれのことだろう。帰ったら解析しなければいけない。
「紫苑ちゃんも頑張ったでしょ!はよ!お礼はよ!」
俺がこれからやることを考えていると、紫苑が後ろから抱き着いてくる。
「悪い悪い。紫苑もお疲れさん。今日も助かったよ。ありがとう。」
最後に紫苑にもちゃんとお礼を言っておいた。仲のいい間柄でも感謝を伝えるのは大事なことだ。
「キ、キキ…!ありがと!」
久しぶりにあの気持ち悪い笑い方を見た気がする。俺がげんなりした顔をして周りを見るが、周囲の人たちはきょとんとしていた。俺以外にはバレないように上手く隠したらしい。抜け目のない奴だ。
「じゃあ、帰るか。」
俺のその合図を皮切りに、全員トラックまで歩き始める。
「あー疲れた…」
「そうね。今日は何かおいしいものでも食べましょ。」
「いえ、私は帰ったら自己修復に入るので、三人は楽しんできてください。」
「いーじゃんエーちゃんも行こうよ。」
「私は食べることはできませんから…」
「なら家で打ち上げしましょ。それならエーデルワイスも逃げれないわ!」
「それだー!」
三人は楽しそうに帰った後のことを話していた。
(本当に全員生きていてくれてよかった。)
ふとそんなことが頭を過る。
こんなことを考えるなんて変な話だ。
俺は今は復讐を目的に生きている。それは紫苑も同じだ。戦いに身を投じなければいけない場面は、これから数えきれないくらい訪れるだろう。
そうなれば誰がいつ死んでもおかしくない。
「天童早くー!」
なんでそんな考えが頭に浮かんだのか疑問に思ったが、俺はすぐに振り払う。
「今行く。」
俺はこの疑問に蓋をして、トラックの方に歩みを進めた。
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中国のとある屋敷にて一人の少女のような外見の機械兵が生け花をしていた。その背丈は160センチ程度しかなく、人によっては子供に見えるだろう。
その子供は剣山に花を生けると満足したような表情をする。
「フェリキタス様。ご報告があります。」
フェリキタスと呼ばれた少女は襖の向こう側にいる機械兵に声をかけられる。
「何?」
「紅蓮が死亡しました。」
その言葉を聞いてフェリキタスの花を持つ手が一瞬止まる。
「そう。」
フェリキタスは持っていた花を置いて、別の花を手に取る。
「ねえ、紅蓮は幸せだったと思う?」
「…紅蓮の部下が、彼の最後の言葉を録音していました。お聞きください。」
フェリキタスは花を持った手とは逆の手で目の前にウィンドウをだす。そして、そこに表示されている再生ボタンを押す。
「ジッ…フェリキタス…幸せで…ジジッ…」
「もう行っていいよ。」
その言葉を聞いて、外にいた機械兵の影が去っていく。
誰もいなくなったことを確認して、フェリキタスはため息をつく。
「はぁ…何回聞いても堪えるなぁ…」
これでまた自分が名前を付けた機体が一機消えた。この死亡報告だけは何度聞いても慣れることはない。この報告を聞く度に自分の選択が間違っていたのではないかと自責の念に駆られる。
今回はマシな方だ。紅蓮の最後の言葉が聞けただけよかった。最後がどうなったかわからない機体なんて星の数ほどある。
思い出すのも辛すぎて、その記憶は封印した。
フェリキタスは最後にバッコヤナギを無理やり生け花の中央にねじ込む。予定していたものとメインを変えたせいで、全体のバランスが崩れてしまった。
だが、まだ蕾なのにそれは中央で嫌という程目立っていた。
「ばいばい紅蓮。」
フェリキタスは一言だけつぶやくと生け花を部屋に飾り、黒いベールをつけて部屋を出た。
「私。そう。今度は私が行くわ。」
部下が向こう側でごちゃごちゃ言っているが、私は無視した。
読んでいただきありがとうございました。




